君に会いたい

天野蒼空

文字の大きさ
上 下
7 / 9

電話

しおりを挟む

「元気?」

 電話越しでも君の声を聞くとほっとする。胸の中がじんわりとあったかくなる。勇気を出して「電話をしたい」と言ってよかった。

「うん。元気。君は?」

「俺も大丈夫」

 話したいことは数え切れないほどある。小さなことでも君に話したいと思っていた。大切にしているこの気持ちも君に話したいと。君のことも聞きたい。

 でも、何故か言葉にならない。気持ちばかり溢れて、口から声が出ない。沈黙が首を締め付けるようで、少し苦しい。

「どうしたの?」

 君が聞いてくる。

「言いたいことはゆっくりでいいからね」

 私がどうして黙っているかわかっている、とでも言うかのように君は優しく言う。

「あの、ね」

 途切れそうになる言葉を必死に紡ぎながら君に話し始める。散らばっているものをかき集めながら、並べながら。

「大丈夫、ちゃんと聞いているから」

 どんな話も君は真剣に聞いてくれる。上手く話せない時も、待っていてくれる。

 もしも、これが君の隣にいる時なら、その沈黙さえも心地よいのに。

 声を聞くと安心するけれど、やはり、君と話す時は君の隣がいい。わがままだってわかっているが、君に会いたい。

 一通り私の話を聞いてから、君は話し始めた。

「俺、決めたことがあるんだ」

 真面目なその声につられて私も少し背を伸ばす。

「うん、聞くよ」

 君の将来の話。君と私の将来の話。

 君は一つ一つ言葉を選ぶように、ゆっくりと話す。電話越しのその声が、すとん、と、私の中に落ちてくる。

「だからね、次の春には一度戻ろうと思うんだ」

 君に会えるんだ。嬉しくて、嬉しくて、飛び上がりそうになる。嬉しさで零れそうになる涙をこらえて、返事をする。

「うん。待ってる」

 次の春が待ち遠しい。
 ああ、君に会いたい。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...