ココア

天野蒼空

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ココア

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「どれにしようかな。」
「美香、早く決めないなら先に買うよ。」
「え、真希決めるの早い。」
「美香が遅いだけ。」
 
 風が冷たくなってきた日の昼休み、私達は自販機の前にいた。今日から暖かい飲み物が買える。学校に居て暖かい飲み物が買えるのは嬉しい。

──チャリン。ピ。ガコン。

「真希、何買ったの?」
「ん?これこれ。」

 薄緑色のカンを見せて真希はニッコリした。

「新発売の抹茶オレ、飲んでみたかったんだー。」
「抹茶かぁ。」
「早く決めなよ。」
「あとちょっとだけ待って。」

──チャリン。ピ。ガコン。

 私は「あたたかい」というより「熱い」カンを取り出した。

「熱っ。」

 慌てて手とカンの間にブレザーの袖を挟み込む。

「ココアか。美香、好きだものね。」
「まあね。」
「これだけ迷ってココア?」
「いいでしょ、好きなんだから。」

──パコッ。

 プルタブを音をたてて開ける。白い湯気がふんわりとたつ。暖かくて甘いココア。その湯気のように口の中にふんわりと甘さが広がる。

「美味しかったぁ…。」

 口の中は甘さの少し残ったにがさが残っていた。
 甘いけど少しにがさが残る、不思議だ。

 そのココアの余韻に浸っていると、

「あれ、輝也どしたの?」

 真希の声につられて後ろを振り向くと、同じクラスで輝也が立っていた。カバンを持っていて、帰る準備万端、という感じだ。

「熱あるみたいでさ、早退。」

 まいったな、というかのようにガシガシと頭を掻きながら輝也はそう言った。

「大丈夫?お大事にね。」
「ありがとな、美香。じゃ、俺帰るな。」
 
 私の前の席に座っている輝也が次の授業にいないから、きっと黒板が見やすいんだろうな。それに、板書中に振り返って私のノートに変な落書きをするのもないんだよね。

「うん、じゃーね。」

 バイバイ、と手を振る。
 いつもみたいに。
 そう、こんな挨拶、いつもと何一つ変わらないのに。

「おう、じゃあな。」

 何故だろうか。
 口の中も心の中もココアを飲んだ後味がしていた。甘くて苦い不思議な味がしていた。
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