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十七、事の始まり

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六月も下旬の土曜。暦は夏至だけど、お日さまは厚い雨雲の向こう。今日は朝から梅雨の雨だ。起きてシャワーを浴び、髪にドライヤーを当てる。乾き上がってサラサラになったところに、論理先生のヘアブラシを何度も入れる。おかっぱロングにして一ヶ月、前髪はもう眉毛を少し隠すくらいにまで伸びたけど、後ろのぱっつんはまだよく揃っている。
「先生…」
一度ブラシを入れるたびに高鳴る胸を感じていると、不意にラインの着信音が鳴った。誰だろう?画面を開けてみる。グループラインだ。腰まである長い髪の後ろ姿のアイコン。智世だ。
『ピンチなの。助けて』
え?ピンチ?どうしたの智世。既読はすぐ付いて、遥がリプを返した。
『ピンチ?どうした智世』
しばらく間があって、後ろ姿アイコンの吹き出しが答えた。
『真美が家出した。あたしも一緒に付き添って、今、電車で尾風方面に向かってる。外、こんな天気だし、誰かのところに身を寄せたい』
真美が家出?ちょっと、一体全体なんなの。私は一人、スマホを持ったままおろおろする。
『家出だと?のっぴきならねぇな。にしても、身を寄せたい、か…。んでも、あたしはこれから秀馬とデートだしなぁ。尾風方面っていうと…、文香どうだ?』
いきなり話を振られた。
『う、うん。空いてるけど』
『じゃあさ、真美と智世、文香のとこで引き取ってやれよ。二人とも行き場所ねぇみたいだし』
そ、そんないきなり…。でも、真美も智世も困ってるだろうな。
『わかった。じゃあ今から迎えにいく。真美、智世、高洲(たかす)駅の改札で待ってるから来て』
智世からのリプライはすぐ返ってきた。
『ありがとう文香。高洲駅ね。あと三十分もあれば着くと思う』
『うん了解。それじゃ家出る』
そしてこんなときにもロリワンピを着る私。髪にもう一度論理先生のブラシを入れ、ヘッドドレスもつける。傘を差し、外に出る。雨脚はだいぶ強い。いくらも行かないうちにニーソックスが濡れてきた。真美、いきなり家出って何なんだろう。そんなに仲の悪い家族なのかな。真美の家のこと、全然知らないけど。雨の中、歩いて十分。地下鉄の高洲駅に着いた。改札口に行く。二人の姿はまだない。ふと思いついてスマホを開ける。真美、ツイッターに何か書いてるかもしれない。
「あった…」
ぐらんどもーぐりの投稿が三つあった。
『もう面倒くさい。家族も何も、人間関係すべてが』
『スマホ取り上げられるなら死んでやる。ガチャ引けなくなるなら死んでやる』
『金有り余ってるんだろ。十五万くらいでガタガタ言うな、うっとうしい。もうやだ』
よくわからないけど、お金絡みみたいだな。そういえば真美、前の、消しゴムかけのとき、家族のクレジットカードで八万使い込んだって言ってたっけ。今回は十五万?なんか桁が違いすぎて、私にはピンとこない。やがて地下鉄がホームに滑り込んでくる。風が舞い、私の髪をさらりと揺らした。電車が止まり、扉が開く。中から真美と智世が出てきた。
「文香ぁ、ごめんだよ~」
真美が私に手を振った。ツイッターの荒れた物言いとは裏腹の、いつものふわふわしたアルト。
「一体、どうしたの、真美…。家出…なんて…」
そう尋ねる私に真美は、すこし顔をしかめて、首を横に振る。そして大きく口を開けて「はああっ」と深く息を吸い込んだ。ぽちゃっと丸いラインの肩がぐっと膨らむ。
「うっとうしい話は文香の家でゆっくり話すんだよ。ちょっとコンビニ寄っていい?真美ねー、朝ごはんも食べずに飛び出してきたからお腹空いちゃったんだよ。さあ行こ」

真美の言う通りにコンビニに寄り、おにぎりとかを買ってから、二人は私の家に来た。
「お邪魔しますだよー」
「お邪魔します」
二人を私の部屋に通す。遥はもう何度か来ているけど、遥以外の人を通すのは初めてだった。テーブルを囲んで、三人でカーペットの上に座る。
「文香の部屋、広いんだよー」
真美が部屋を見回す。私の部屋は十畳ある。
「そう…だね。けっこう広いかも。あ、お茶…入れるね」
立ち上がりかける私を真美が押しとどめる。
「あ、いいよいいよ、構わないでだよ。飲み物ならコンビニで買ったペットボトルあるし。真美、これで十分だよ」
そう言って真美は、買ってきたものをテーブルの上に並べる。
「さあ、朝ごはんだよー」
三人、無言でおにぎりやサンドイッチをむしゃむしゃと食べる。
「真美…、一体、何が…、あったの?」
食べ終えて、改めて真美に聞く。
「真美、あたしも聞きたい。詳しい事情、まだ聞かせてもらってないわ」
智世にも促された真美は、「ふぅ~」とため息をついた。
「今朝さぁ、クレジットの利用明細、祖父が見たんだよ」
「いくら使い込んだの」
「…十五万円、だよね」
視線を泳がす真美に代わって、私が智世にそう答える。
「すごいんだよ文香。ピタリ賞だよ」
「ツイッター、見たもの…」
智世が姿勢を起こして真美を見据える。
「真美。お祖父ちゃんのお金、無断でそんなに使ったら駄目でしょう」
真美は、雪見だいふくの頬を一層膨らませた。
「だって真美さぁ…。ガチャ、引きたかったんだよ」
「その『ガチャ』って何なの?」
智世にそう聞かれた真美は、しばらく「うーん」と考えていたけれど、やがて口を開いた。
「『ドラドラドライブ』の中で引ける福引だよ。お金入れて回して当たると、いい武器や防具が手に入るんだよ。んで、もっと強くなれるんだよ」
ドラドラドライブ?そういえば中間考査の前に智世の家に行ったとき、論理先生と真美がそれで遊んでいたような覚えがある。その中の福引?当たると、いい武器で強くなる?よくわからない。でもお金が絡んでいるんだ。
「武器とか防具とか強くなるとか、よくわからないけど、それってどれくらいかかるものなの?」
智世もわからないらしい。
「一本三百円だけど、たいてい十本まとめて引くから、一回三千円だよ」
「どのくらいの…確率で、当たるの」
そう聞く私に真美が答える。
「アイテムによって違うけど、本当に欲しいものは、だいたい〇・五%だよ」
「そんなに低いの。それなら、二百本引いて、出るか出ないかだわ」
智世の言葉を聞いて、私は頭の中で暗算する。三百円×二百本…。六万円だ!そこまで使って、やっと欲しいものが一本当たるかどうかなんて効率悪すぎでしょ。真美ったら、そんなお金をガチャとやらに使ってるの。六万円と言えば、ローザミスティカが買える。私なら、そんなゲームの中の訳のわかんないものに費すくらいなら、激かわいいロリ服を買うほうが断然いい。でも真美はこう言った。
「その低い確率のアイテムを見事にゲットできたときのカイカンがたまんないんだよ!んでもって、それを持って敵と戦うと俄然強くなってるし、攻撃したときのモーションもむちゃカッコいいし、真美もう絶対やめられないって感じだよ!」
真美の、褐色で大きなかわいい瞳がキラキラしている。さっきから真美の話はわかんないことだらけだ。だけど、とりあえずガチャというものが真美にとって、到底やめられないものだということはわかった。
「でも…だからと、言って…使いすぎ…だよね」
「文香ぁ、そんなこと言わないでだよ~」
駄々をこねるように、真美は身体を揺すった。
「真美ねー、武器と、鎧と、兜と、盾の四点セットが欲しかったんだよ。そうしたら、武器と鎧と盾はするするっと当たって、これは行けるぞ~って思ったんだよ。だけど兜だけどうしても出なくてさぁ。もう武器も鎧も盾も何個も当たってるのに兜だけ出ないんだよ。悔しいーっ、当たるまでやってやるーって思って引いて、やっと兜が引けたときには、十五万使ってたんだよ」
真美の長い話が終わる。私たちはしばらく言葉もなかったけど、やがて智世が口を開いた。
「相変わらずよくわからない話だけど、聞いていればそれ、前に論理も言っていたけれど、ギャンブルじゃない。真美、競馬やパチンコで駄目になっていく人と同じこと言ってるわ」
うん、それは私もそう思う。智世に言われた真美は、苦虫を噛み潰した顔をした。
「今朝、祖父にもそう怒鳴られたんだよ。『ギャンブルで大金を使い込むなど、屋代家の恥さらしだ!今度という今度は許さん、かわいがってきた恩を仇で返しおって、お前などもう家族でも何でもない!』とか何とか」
「それはそうも言われるでしょう。お父さんとお母さんは何て言ったの?」
「真美ん家はねー、祖父一人が神で、あとはその使い魔なんだよ。後について同じこと言うだけ。父親なんか調子に乗って『お前にスマホを使う資格はない、取り上げる』とまで言ってきたよ。『それなら死んでやる、クソ馬鹿野郎っ!』って怒鳴って飛び出してきた」
スマホ取り上げられるなら死んでやる、ガチャ引けなくなるなら死んでやる、っていう真美のツイートが思い起こされた。
「それで…家出、したんだ…」
「真美、最初は智世のとこ行ったんだよ。そしたらちょうど智世ん家お父さん来ててお邪魔できなくてさぁ。しかたないから、あてどもなくさまよおうとしたら、智世ついてきてくれて、ラインで助けを呼んでもらったんだよ。んで、今文香ん家いるわけだよ」
真美はそう言って、ペットボトルのお茶を一口飲んだ。その表情はさばさばしている。絶縁されて家を飛び出したというのに、真美、よくそんな涼しい顔してられるな。私が同じ立場だったら、きっと泣いてばかりいる…。
「とりあえず、真美ねー、髪、切りたいんだよ」
唐突に真美がこんなことを言い出す。私はピクリと反応した。
「髪…、切るの、真美…。どうして?」
「この髪型と髪色さあ文香」
真美はそう言って、褐色のセミロングレイヤーをばさっと根本からかき上げた。
「祖父の好みなんだよ。これが好きだからしていろって言われてる。だから真美、このスタイルも変えるんだよ。髪型も髪色も、思いっきりダサい格好にして、当てつけてやるんだよ」
え?真美、髪切って染めるの?ダサい格好って、ひょっとして、まさか…。私の両手が震えた。
「そんな子どもっぽいこと言って真美」
智世がため息をついた。
「話を聞く限り、全面的に真美が悪いわ。お祖父ちゃんに謝ったほうがいい。愛情もってかわいがってもらったんでしょう?」
「愛情、ねぇ…」
真美は「ふふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「かわいがってはもらってたけど、こうなっちゃどうしようもないんだよ。もうこのままでいい」
このままでいいって、真美…。
「でも…、家族…なんじゃ、ないの?」
私がそういうと真美は、眉間にシワを寄せて手を振った。
「ああ、いいよいいよ。真美ねー、家族とか愛情とか、めんどくさいんだよ。もう人間関係全般、めんどくさいね」
真美は本当にうっとうしげだった。人間関係…。私はその人間関係が欲しくて今まで悩み、ようやく今、友だちができて楽しい毎日を送っている。その人間関係を「めんどくさい」の一言で片付けられたのが面白くなかった。
「真美は…、愛情とか…、信じて、ないの?」
「信じてない訳じゃないけどさぁ…。とりあえず、めんどくさいんだよ文香、そういう、好きとか嫌いとかいうことがだよ。真美ねー、そんなことあまりうだうだ考えてたくないんだよ。もっとドライでいいんだよ」
真美はそう言って、急に歌い出す。
「すっきっとっか~、きらいと~か~、さいしょにいいだしたのは~、だっれっなっのっかっしら~、なんてネ。ほんと、誰なんだろう。いい迷惑だよ」
それを聞いた智世の銀縁眼鏡が、ギラリと光った。
「それなら真美、真美の周りにいる人たちとの人間関係も、めんどくさいのかしら?」
智世はそこで一度、言葉を切った。そしていつになく強い調子でこう言う。
「たとえば論理とか」
え…?智世、なんでそこで論理先生が出てくるの?
「論理ぃ?めんどくさいも何も、好き嫌いのレベルに上がる人でもないんだよ。いい人だとは思うけどね~」
好き嫌いのレベルに上がる人でもない。真美は確かにそう言った。真美は先生に全然興味を持っていない。人間関係全般がめんどくさいんだから、そうも言うだろう。もしそんな真美を、論理先生が好きでいるとしたら、先生が、あまりにかわいそうなことになってしまう。先生、真美が好きなら諦めてください。そして私を見てください。先生…!そう念じているとふと視線を感じる。顔を上げる。智世だった。暗くて細い目で、じっと私を、無表情に見つめていた。

降りしきる雨音が外から聞こえてくる。話す話題ももうなくて、押し黙っている真美と智世と私。真美はさっきから一心にスマホをいじっている。また「ドラドラドライブ」かな?
「真美…、何、してるの?」
私に聞かれた真美は、画面から顔を上げずに答えた。
「今?真美、パパ活してるんだよ」
パパ活⁉︎私は驚いて真美を見た。智世も、小さな目を見開いて真美を見つめている。けれど真美は、相変わらずのふわふわしたアルトで、事もなげにこう続けた。
「こうなっちゃったからね、真美、誰かに養ってもらわないといけないんだよ。幸いよさそうな人見つかったから、今連絡取ってるとこなんだよ」
「真美。何をやっているの」
いつも無表情な智世が、珍しく怒った声を出す。
「家族を捨ててそんなことやるなんて、あるはずがないわ。馬鹿なことしている暇があるなら、今すぐに家に電話して謝りなさい」
でも真美はうっとうしげな顔をする。
「だからめんどくさいんだよ、そんなこと…。真美にはねー、お金で結びつく関係が合ってるんだよ。あ、メール返事きた。なになに…」
真美は画面をのぞき込んだ。
「明日日曜日の夕方六時、尾風駅壁画前で待ち合わせなんだよ。それなら真美、明日髪切って、当てつけに家に顔出してやって、荷物まとめて出てこればいいんだよ」
真美、本気でそんなことしようとしてるの。しかもその原因は「ガチャ」という名前のギャンブルだ。ギャンブルでお金を使い込んで、家族にも捨てられて、売春して…、って、あまりにあまりな「転落」ぶりじゃない。論理先生、それでも真美がいいの?智世も、唖然として真美を見つめるばかりだった。

行き場をなくした真美は、智世と一緒にその夜一晩、私の家に泊まった。夜、寝ついた二人の脇で遥とラインする。今日一日のことを遥に話した。
『え~、んじゃ真美のやつ、ギャンブルで負けて、家族に追い出されて、あげくの果ては売春かよ』
『でしょう…。もうむちゃくちゃだよね』
『真美ん家って、何やってる家なんだ?』
『さっき聞いたんだけど、お祖父ちゃん、自動車メーカーの幹部役員みたい。お父さんはお祖父ちゃんの部下で、お祖父ちゃんの娘さんと結婚したんだって』
『んじゃあ親父さん、婿入りか』
『そうそう。なんか真美の話では、お父さん、お祖父ちゃんには絶対服従らしい。それでも真美やお母さんには厳しく当たるから、真美、そんなお父さんを毛嫌いしてる。『祖父の前ではヘコヘコペコペコしていて、私にだけは親父面する』ってね』
『お母さんはどんな人なんだ?』
『お祖父ちゃんに甘やかされて育ったみたいで、わがままな人だって。お父さんと夫婦喧嘩が絶えないらしい』
『難しい家だな、真美の家も』
『うん…』
しばらく間があく。今日一日降りしきった雨が、真夜中の今も屋根を打ちつけている。そのうち、遥の大きな白い吹き出しが現れた。
『この学校さ、家が難しいやつ多いんだよ。智世の家も両親別居だし、千恵美の家も離婚がどうこうって言ってる。あたしはネグレクトだし、文香もお母さん具合悪いだろ』
『そうだね。どうしてだろう』
きっぱりと言い切るように、遥の吹き出し。
『エリートは子育てが下手だ。その一言に尽きる』
『そっか…。私たちの親、海外赴任ができるほどだから、みんなエリートだよね』
『偏見かもしんねぇけど、エリートって冷てぇやつが多いだろ。あんまり人の気持ちを大事にしねぇって言うかさ。だから夫婦仲も親子仲もうまくいかねぇ』
『なるほど…』
『真美も、愛情に飢えてるのかもしんねぇな。あたしや文香とおんなじように』
私は隣を見た。お菓子みたいな、ふわふわした真美の寝顔がある。その顔の向こうに真美も、闇を抱えている。そしてその闇に呑まれて、取り返しのつかない方向に落ちていってしまおうとしている。
『何とかならないものなのかな、真美』
『その『ガチャ』とやらから足を洗わねぇ限り、どうにもなんねぇだろ』
『なんかさぁ…、私にはさっぱりだけど、すごく魅力的なものらしい』
『そりゃそうさ。ギャンブルなんてものは、ハマったら泥沼だ。きっとその『ドラドラドライブ』かなんかも、借金したり売春したりしながらハマってるやつが、五万といるだろうな』
『たかだかスマホゲームなのに…、信じられない』
屋根に打ち付ける雨音は、いっそう激しくなっていた。今夜は大雨だ。明日、真美は髪を切って、当てつけに家に行って、そして売春しに行く。何よりも、真美がどんな髪型にするのか気になる。私は再び、隣で眠っている真美の横顔を見つめた。
『ねえ遥。『思いっきりダサい髪型や髪色』って、どんなだと思う?』
『そうだなぁ…。やっぱ黒髪おかっぱかもしんねぇな』
暑い季節なのに、身体中から一気に冷や汗が噴き出した。
『そんなぁ。真美がおかっぱなんかにしたら、論理先生が…』
『確かにそうなったら真美、論理の理想通りになっちまうな。どうする文香?』
『どうするって言ったって…』
私は頭を抱えた。「色白」「ふっくら」「ぽちゃぽちゃ」の真美が、おかっぱにする。先生の、ドストライクになってしまう。ただでさえ論理先生、真美のこと気にしているみたいなのに…。
『真美がおかっぱにしたら、文香も当然、対抗するだろ』
『決まったことみたいに言わないでよー』
私はそう打って、自分のサラつやロングを握りしめた。何年もかけて伸ばしてきたこの髪。私の中で、たった一つ、人に自慢できるこの髪。それを、一メートル以上切る。一度切ったらもう、決して取り返しはつかない。でも、真美がおかっぱにして論理先生の前に現れたら…。私、どうしたらいいんだろう…。

翌日日曜日、真美と智世は帰っていった。真美がどうするのか気が気じゃなくて、私はそれから何度もラインやツイッターの画面を開けるけど、なかなか変化はない。けど、かなり時間が経ったあと、ようやくツイッターに真美の投稿が現れた。
『はっはっは。ゲロダサの髪にして家に行ってやった。祖父激怒。『そうか、そういう格好にするのか。ならもうこの家とは絶縁だ。二度と屋代の家の敷居をまたぐな』だとさ。言われなくてもそうさせてもらう』
すぐにグループラインに投稿する。
『真美、髪の毛どうしたの?今どこにいるの?』
でもすぐにはリプが来ない。返信が来るまでをもどかしく思ううち、やっと真美からリプが返る。
『ふふふ、真美のニューゲロダサヘアは明日の学校までのお楽しみだよ。今、尾風駅に向かってる。パパと待ち合わせだよ~』
『真美、話は遥から聞いた』
と、焼売のアイコン。秀馬くんだ。
『今からでも遅くない。心を鎮めて、自分のやらねばならないことを自問してみろ。これからやることが正解だとは、とても思えないはずだ』
『ゲームやりたいからパパ活だなんてあり得ないよ。真美、思いとどまって』
と、千恵美も続く。
『真美、ギャンブルで身を持ち崩して売春だなんて最低だぞ。家の人だって、口ではそう言ってても心配してるだろ。帰ってやれ』
遥の言葉も悲痛だ。でも真美は頑なだった。
『ああ、いいんだよいいんだよ。真美はねー、ガチャを回せればそれでいいんだよ。真美はガチャを回したい、だからお金が欲しい、そんな真美にお金をくれる人がいる、その人に身体を売る、シンプルイズベストだよ』
真美…。もう今の真美には、誰が何を言ってもダメみたい。時間ばかりが過ぎて、夕方の六時になる。きっと真美、パパとやらに会っているんだろうな。どんな人なんだろう。真美、いったい何をされるんだろう。…いや、それより何より私は、真美の髪型が気になる。私はツイッターを開けた。
『ゲロダサヘアって何?まさか、ほんとに黒髪のおかっぱ?M美、それだけはやめて。パパと何をしたっていいから、それだけは…』
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