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第2章

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 村長は手にしていた松明の火を囲炉裏に移し、話を聞いていたがやがてこう言った。
「有り難い話ですが、そこまでしたいただくわけには」
「説明しましたように、私たちは義勇団として世の中の不道をただし、困っている人々を助けるのが目的です。今この村を見捨てて立ち去るならば、それはもう義勇団とは言えないでしょう」
 アポさんが説得を続ける。

「しかし、お返しをせぬというわけにはまいりませぬ」
「恩というのは、時に鉄の鎖よりも強く体を縛るもの。村長殿が悩まれるのはわかるが、もう少し気楽に考えられてはどうかな」
「村にとどまっている間は米を食わせてもらい、もしもそれでなお恩を返しきれないと感じられた場合には今後の義勇団の活動で人手がいる時に協力してもおらうというのは、どうでしょうか。もちろん領主様の同意を得なけれなならないし、冬以降の話ではありますけど」
 ねそこさんに続いてアポさんが語る。

 村長は少し悩んでから決心した。
「承知しました。お申し出を喜んでお受けいたします」
 ほっとする俺たちに村長は頭を下げて言った。
「実は巫女方に頼みたいことがるのです。明日の朝早くにでも領主様のもとへ使いを出したいと思っているのですが、盗賊どもをかわして無事にたどり着けるかどうかわからず決めかねておるのです。もしも巫女様が護衛についてくださるのなら、心強いのですが」
「いいよ。私が行くね」
 アドラドさんが即決する。
 村長はかなり安堵した様子で、深く息を吐いた。
「よろしくお願いいたします」

「しかし、水を差すようで悪いが、今から使者を出して間に合うのか。そもそも領主が救援を出してくれるのかの。そして塩の事は領主に話しておらぬのであろう。まずい事になりはせぬか」
 ねそこさんの疑念に村長が答える。
「お仰せのように、塩の事は申しておりません。そこは隠さねばならぬ事。そして領主様が村のために武者たちを送ってくるかどうかも難しいところ」

 村長はそこまで言うと両手で頭を抱えて吐息を吐いてから、手を降ろし言葉を続けた。
「ですが望みもあります。昼にも申しましたように、今は領主様のもとへ人数を差し出しておる時期で、この村にいるのは戦を知っているが年老いた者と戦を知らない若い者ばかりなのでございます。盗賊どももその事を知っておって、強気になっておるのかも知れませぬ。ですがそろそろ戻ってくる頃。そうなればかなり防戦も楽になります」

「なるほど。途中で行き会って道を急いでもらえばいいわけだね」
「到着はいつ頃の予定ですか?」
 アドラドさんに続いてアポさんが質問した。
「わかりませぬ。わしらは暦で日々を刻んだ暮らしをしておるわけでないので。しかしそう何日も先ではないでしょう。うまくいけば明日に着くかもしれませぬ」
「わかりました。それについてもおそらく私たちに協力できる事はあるでしょう」
「よろしくお頼み申し上げます」
 村長が頭を下げた。

「一つ私たちからもお願いがあるのですが」
 アリシアさんはそう言って、義勇団が支援活動するためにどこか空き地を貸してほしいと頼んだ。
「寝泊まりもされるのなら、家の中の方がよろしいのでは」
「いえ、私たちは空を飛んだり地に潜ったりしますので、野ざらしの方がつごうがよいのです」
「ならば、北の広場をお貸ししましょう。祭事や皆での作業に使う場所ですが今はあいております。明日、そこで村の者にこれからの事を説明しますので、その後からお使いください」
「感謝します」
「皆様に話しておかなければいけない事を一つ忘れておりました。奴らの中に一人、忍びと思われる者がおりますぞ。先ほど奴らが逃げ出した時、目くらましの煙を使いおりました」
「それは耳寄りな情報ですね」
 アポさんが考え始める。

「今特に話さなければならない事はある? なければその使者の人たちと打ち合わせに行くけど」
「そうですね。細かい話はあるけど、明日でいいでしょう」
 アポさんが答えた。
 他の巫女さんも特にないようだった。

 村長が家を出ると、ねそこさんがつぶやいた。
「ああは言ったものの、恩を着せるような事になったら少し申し訳ないの」
「大丈夫。ねそこさんが腹いっぱい飯を食うのを見たら、きっと村の人もこれで恩は返せたと思うようになるよ」
 そう言ってアドラドさんは村長の後を追う。

 こちらの世界の忍びの者とは、俺のいた世界の現実の忍者の様なものだろうか、それとも物語の方に近いのか。誰かに詳しく聞きたいところだが、今は明日に備えて休むべきだろう。
 俺は犬たちと触れ合ってから、もう一度眠りについた。
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