33 / 54
第2章
26
しおりを挟む
村長は手にしていた松明の火を囲炉裏に移し、話を聞いていたがやがてこう言った。
「有り難い話ですが、そこまでしたいただくわけには」
「説明しましたように、私たちは義勇団として世の中の不道をただし、困っている人々を助けるのが目的です。今この村を見捨てて立ち去るならば、それはもう義勇団とは言えないでしょう」
アポさんが説得を続ける。
「しかし、お返しをせぬというわけにはまいりませぬ」
「恩というのは、時に鉄の鎖よりも強く体を縛るもの。村長殿が悩まれるのはわかるが、もう少し気楽に考えられてはどうかな」
「村にとどまっている間は米を食わせてもらい、もしもそれでなお恩を返しきれないと感じられた場合には今後の義勇団の活動で人手がいる時に協力してもおらうというのは、どうでしょうか。もちろん領主様の同意を得なけれなならないし、冬以降の話ではありますけど」
ねそこさんに続いてアポさんが語る。
村長は少し悩んでから決心した。
「承知しました。お申し出を喜んでお受けいたします」
ほっとする俺たちに村長は頭を下げて言った。
「実は巫女方に頼みたいことがるのです。明日の朝早くにでも領主様のもとへ使いを出したいと思っているのですが、盗賊どもをかわして無事にたどり着けるかどうかわからず決めかねておるのです。もしも巫女様が護衛についてくださるのなら、心強いのですが」
「いいよ。私が行くね」
アドラドさんが即決する。
村長はかなり安堵した様子で、深く息を吐いた。
「よろしくお願いいたします」
「しかし、水を差すようで悪いが、今から使者を出して間に合うのか。そもそも領主が救援を出してくれるのかの。そして塩の事は領主に話しておらぬのであろう。まずい事になりはせぬか」
ねそこさんの疑念に村長が答える。
「お仰せのように、塩の事は申しておりません。そこは隠さねばならぬ事。そして領主様が村のために武者たちを送ってくるかどうかも難しいところ」
村長はそこまで言うと両手で頭を抱えて吐息を吐いてから、手を降ろし言葉を続けた。
「ですが望みもあります。昼にも申しましたように、今は領主様のもとへ人数を差し出しておる時期で、この村にいるのは戦を知っているが年老いた者と戦を知らない若い者ばかりなのでございます。盗賊どももその事を知っておって、強気になっておるのかも知れませぬ。ですがそろそろ戻ってくる頃。そうなればかなり防戦も楽になります」
「なるほど。途中で行き会って道を急いでもらえばいいわけだね」
「到着はいつ頃の予定ですか?」
アドラドさんに続いてアポさんが質問した。
「わかりませぬ。わしらは暦で日々を刻んだ暮らしをしておるわけでないので。しかしそう何日も先ではないでしょう。うまくいけば明日に着くかもしれませぬ」
「わかりました。それについてもおそらく私たちに協力できる事はあるでしょう」
「よろしくお頼み申し上げます」
村長が頭を下げた。
「一つ私たちからもお願いがあるのですが」
アリシアさんはそう言って、義勇団が支援活動するためにどこか空き地を貸してほしいと頼んだ。
「寝泊まりもされるのなら、家の中の方がよろしいのでは」
「いえ、私たちは空を飛んだり地に潜ったりしますので、野ざらしの方がつごうがよいのです」
「ならば、北の広場をお貸ししましょう。祭事や皆での作業に使う場所ですが今はあいております。明日、そこで村の者にこれからの事を説明しますので、その後からお使いください」
「感謝します」
「皆様に話しておかなければいけない事を一つ忘れておりました。奴らの中に一人、忍びと思われる者がおりますぞ。先ほど奴らが逃げ出した時、目くらましの煙を使いおりました」
「それは耳寄りな情報ですね」
アポさんが考え始める。
「今特に話さなければならない事はある? なければその使者の人たちと打ち合わせに行くけど」
「そうですね。細かい話はあるけど、明日でいいでしょう」
アポさんが答えた。
他の巫女さんも特にないようだった。
村長が家を出ると、ねそこさんがつぶやいた。
「ああは言ったものの、恩を着せるような事になったら少し申し訳ないの」
「大丈夫。ねそこさんが腹いっぱい飯を食うのを見たら、きっと村の人もこれで恩は返せたと思うようになるよ」
そう言ってアドラドさんは村長の後を追う。
こちらの世界の忍びの者とは、俺のいた世界の現実の忍者の様なものだろうか、それとも物語の方に近いのか。誰かに詳しく聞きたいところだが、今は明日に備えて休むべきだろう。
俺は犬たちと触れ合ってから、もう一度眠りについた。
「有り難い話ですが、そこまでしたいただくわけには」
「説明しましたように、私たちは義勇団として世の中の不道をただし、困っている人々を助けるのが目的です。今この村を見捨てて立ち去るならば、それはもう義勇団とは言えないでしょう」
アポさんが説得を続ける。
「しかし、お返しをせぬというわけにはまいりませぬ」
「恩というのは、時に鉄の鎖よりも強く体を縛るもの。村長殿が悩まれるのはわかるが、もう少し気楽に考えられてはどうかな」
「村にとどまっている間は米を食わせてもらい、もしもそれでなお恩を返しきれないと感じられた場合には今後の義勇団の活動で人手がいる時に協力してもおらうというのは、どうでしょうか。もちろん領主様の同意を得なけれなならないし、冬以降の話ではありますけど」
ねそこさんに続いてアポさんが語る。
村長は少し悩んでから決心した。
「承知しました。お申し出を喜んでお受けいたします」
ほっとする俺たちに村長は頭を下げて言った。
「実は巫女方に頼みたいことがるのです。明日の朝早くにでも領主様のもとへ使いを出したいと思っているのですが、盗賊どもをかわして無事にたどり着けるかどうかわからず決めかねておるのです。もしも巫女様が護衛についてくださるのなら、心強いのですが」
「いいよ。私が行くね」
アドラドさんが即決する。
村長はかなり安堵した様子で、深く息を吐いた。
「よろしくお願いいたします」
「しかし、水を差すようで悪いが、今から使者を出して間に合うのか。そもそも領主が救援を出してくれるのかの。そして塩の事は領主に話しておらぬのであろう。まずい事になりはせぬか」
ねそこさんの疑念に村長が答える。
「お仰せのように、塩の事は申しておりません。そこは隠さねばならぬ事。そして領主様が村のために武者たちを送ってくるかどうかも難しいところ」
村長はそこまで言うと両手で頭を抱えて吐息を吐いてから、手を降ろし言葉を続けた。
「ですが望みもあります。昼にも申しましたように、今は領主様のもとへ人数を差し出しておる時期で、この村にいるのは戦を知っているが年老いた者と戦を知らない若い者ばかりなのでございます。盗賊どももその事を知っておって、強気になっておるのかも知れませぬ。ですがそろそろ戻ってくる頃。そうなればかなり防戦も楽になります」
「なるほど。途中で行き会って道を急いでもらえばいいわけだね」
「到着はいつ頃の予定ですか?」
アドラドさんに続いてアポさんが質問した。
「わかりませぬ。わしらは暦で日々を刻んだ暮らしをしておるわけでないので。しかしそう何日も先ではないでしょう。うまくいけば明日に着くかもしれませぬ」
「わかりました。それについてもおそらく私たちに協力できる事はあるでしょう」
「よろしくお頼み申し上げます」
村長が頭を下げた。
「一つ私たちからもお願いがあるのですが」
アリシアさんはそう言って、義勇団が支援活動するためにどこか空き地を貸してほしいと頼んだ。
「寝泊まりもされるのなら、家の中の方がよろしいのでは」
「いえ、私たちは空を飛んだり地に潜ったりしますので、野ざらしの方がつごうがよいのです」
「ならば、北の広場をお貸ししましょう。祭事や皆での作業に使う場所ですが今はあいております。明日、そこで村の者にこれからの事を説明しますので、その後からお使いください」
「感謝します」
「皆様に話しておかなければいけない事を一つ忘れておりました。奴らの中に一人、忍びと思われる者がおりますぞ。先ほど奴らが逃げ出した時、目くらましの煙を使いおりました」
「それは耳寄りな情報ですね」
アポさんが考え始める。
「今特に話さなければならない事はある? なければその使者の人たちと打ち合わせに行くけど」
「そうですね。細かい話はあるけど、明日でいいでしょう」
アポさんが答えた。
他の巫女さんも特にないようだった。
村長が家を出ると、ねそこさんがつぶやいた。
「ああは言ったものの、恩を着せるような事になったら少し申し訳ないの」
「大丈夫。ねそこさんが腹いっぱい飯を食うのを見たら、きっと村の人もこれで恩は返せたと思うようになるよ」
そう言ってアドラドさんは村長の後を追う。
こちらの世界の忍びの者とは、俺のいた世界の現実の忍者の様なものだろうか、それとも物語の方に近いのか。誰かに詳しく聞きたいところだが、今は明日に備えて休むべきだろう。
俺は犬たちと触れ合ってから、もう一度眠りについた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる