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第2章

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 オオサンショウウオについては知っている人も多いと思うが、少しだけ説明しておく。

 現生の両生類は足のない無足目とカエルのグループである無尾目、そして有尾目に分けられる。有尾目の動物は名前のように長い尾を持っているが、さらにサイレンのグループとイモリを含むグループ、そしてサンショウウオのグループの三つに分けられる。オオサンショウウオはそのサンショウウオのグループに属し、有尾目で最大級の種で日本固有種だ。

 足を使って陸上を這う事も出来ないわけではないが、一生を水中ですごし、幼生の時は鰓で呼吸するが、変態して肺で呼吸するようになる。
 体は平べったく、浅瀬でも移動しやすい。岩の様な色と質感の肌、小さな眼と大きく広がった口は、俺には愛嬌があるように見える。前足には4本の、後足には5本の指がある。平たくて短い丸みのある指がある手の部分は、思わず両手で握手したくなるような可愛さだ。


 いや、もちろんいきなり手を握ったりはしませんよ。


 俺がオオサンショウウオの巫女さんに見とれていると、チカさんがこちらに戻ってきて声をかけた。
「きららさん、お久しぶり」
「チカさん、こんにちは。一月ぶりかな」
「いえ、一年と一か月ぐらいです」
「そうかー。この人たちは?」
「立ち話もなんですから、すわって話しましょう。きららさんも第一階梯の方が陸上ですごしやすいですよ」

 そこまで言ってからチカさんは何かに気づいたのか、付け加えた。
「服は持ってますか?」
「ふくー?」
 きららさんは考え込んでしまった。
「私たちが着ているのが服ですよ」
 チカさんが自分の服の左袖を引っ張ってみせる。
 きららさんはなおも考え込んでいたが、ようやく
「ある」
 と答えて、「携界収容」の術で出して見せた。
 それはねそこさん以外の巫女さんたちと俺が着ているものによく似ている。

 きららさんが着替えている間に俺はアリシアさんにたずねた。
「セリアン教団ではこの服を着るのが普通なの?」
「わたしたちの教団に限らす他の教団でも、旅をする時にはこの様な衣装を着る事が多いですね。私たちは特にセリアン教団である事を示すものは付けませんが、所属する教団を示す印をつける方が普通です」
「セリアン教団はなぜ付けないの?」
「あえてそうしなくてもわかりやすいからね」
 アドラドさんがそう言ってフードを降ろし、うさ耳をぴょこんと立てる。
 なるほどと感心する俺に、アリシアさんは付け加えて言った。
「正式な儀式の時にはセリアン教団独自の衣装を着けます。いずれお見せする機会もありますよ」

 第一階梯になったきららさんは桃色の髪を胸の下ぐらいまで伸ばし、虹彩は青く、色白で、背は普通ぐらい。普通ぐらいというのは今の日本の成人女性の平均ぐらいという意味だ。きららさんを見て、俺はあらためてこちらの世界の住人は髪や眼の色が多彩なのだなと思った。

 きららさんはチカさんと会った事はあるが、他は初対面だそうだ。
 自己紹介と、俺の素性についての説明の後で、アポさんは村の様子を見に飛び立っていった。
「きららさんはどうしてここに?」
 アリシアさんが訪ねると
「魔魚が発生して」
 魔魚というのは俺たちが出会った野槌を魔獣と巫女さんたちが呼ぶように、世界の孔と一体化した魚なのだろう。

 きららさんともう一人の巫女さんは、何体かの魔魚と遭遇してそれらを捕獲した。だが、二人とも「世界漏孔補綴」の神術を使えないので、誰かそれを使える巫女に託すため、もう一人が魔魚を神殿まで運び、きららさんは原因を探りに川を移動してきたのだった。そしてこの近くまで来ると「魔臭」がしたので近づいてみたら俺たちがいたのだ。

「魔臭ってなんですか?」
 俺の質問にアドラドさんが答えた。
「それはちょっと世界の仕組みについて説明しなければいけないね。詳しい事はアポさんに聞けば喜んで話してくれるから、今は簡単に話すね」
 知りたかったこの世界の特異な点について、ようやく少し情報を得られるらしい。
 俺はアドラドさんの話を謹んで聞いた。
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