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第2章

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 アポさんの見つけた開けた場所へと俺たちは移動した。
 ゆるやかな斜面が切り立った崖へと続いていて、丈の低い草におおわれているが木は全く生えていない。

 アドラドさんが足でとんとんと地面をたたいた。
「たぶん、地滑りの跡。ここにあった木立がまるごと崖から落ちたようだね」
 そう言われると不安になる。今立っている場所がずるずると後ろの崖へとすべり出しそうな気がしてくる。
「また起こるおそれはないの?」
「今すぐにという話なら、大丈夫だよ」

 そしてアドラドさんはぴんと耳を立てて周囲をうかがっている。
 俺は聞き耳を立てるとはこういう状況なのかと、少しふざけた事を考えながら、じゃまにならないように息をひそめていた。
 アドラドさんは頭を180度近く左右に振ってその範囲の音を探り、周囲の状況を教えてくれる。

 六頭の犬は間隔をあけて東からこちらを包囲する形で距離を詰めてきた。明らかに、こちらを目標にしている。
 対してこちらは崖を背にして木立から少し離れた位置で、野犬の群れを迎え撃つかまえになった。
 アリシアさんが前面に立ち、アドラドさんはその後ろですり抜けてきた犬への備え。そしてアポさんは俺のいるあたりで上空を飛び回って状況を監視し、俺はその下でただ立ち尽くす。

 アリシアさんは第五階梯まで昇り、オオアリクイの姿となって二本足で雄々しく立っている。その体からは普段の穏やかさとは違う闘気の様なものを感じられた。
 俺は思わず、
「できれば犬をあまり傷つけないでください」
 とあつかましいお願いをしてしまった。
おうとも!」
 アリシアさんは力強く俺の願いに応えてくれた。。

 最初に飛び出してきたのはやや小柄な犬、威勢良く吠えながら走ってくるものの、あっさりとアリシアさんに捕まえられ、勢いよくはるか遠くに投げ出される。
 続いて二頭の犬が先を争いながらやってくる。
 一頭がアリシアさんの右手に噛みつき、その隙にもう一頭が左から襲いかかるが、アリシアさんは右手の大きな爪を犬に噛ませ、左の犬には舌を巻き付けて動きを止めてから左手でつかみ、ぐるぐると回りながら勢いをつけて犬たちを向こうに放り出す。

  だが、その間に四頭目が後ろ側に回り込んでいた
 アドラドさんが素早く前進してその犬の背後に迫る。
 一躍すると
「けり」
 の声とともに強力な足の一撃で犬を襲う。
 犬はアドラドさんの蹴りを巧みによけたが、その後ろ足にアリシアさんの舌が巻き付く。そのまま犬は上に放り投げられ、落ちて来るところをアリシアさんの両腕に捕まえられ、大きく振りかぶった動作によってやはり遠方に放り投げられる。

 五頭目の犬が警戒しながらゆっくりと近づいて来た。
 大型の犬で体重は俺よりもかなり重そうだ。いや、アリシアさんよりも重いだろう。
 顎も丈夫で、人の腕の骨ぐらいは噛み折れそうに見える。
 おそらくこれが群のリーダーか。俺はそう思い、緊張しながら戦いを見ていた。

 アリシアさんと犬はしばらく警戒しながら対峙たいじしていた。
 アリシアさんはわざと隙をみせたりするが、その犬は乗ってこない。
 突然アポさんが上空から急降下して犬にせまり、攻撃というよりは牽制と思われる急接近を行った。
 だが、犬はひるむと見せかけて一気にアリシアさんとの距離を詰めた。
 跳躍してアリシアさんに飛びかかる。もしもアリシアさんが見かけのような身体だったら犬に押し倒されていたかもしれない。
 だが、巫女の力を使うアリシアさんはびくともせず両腕で犬を受け止め、そのまま持ち上げる。左腕を犬に噛まれそうになるが、気にせず高く持ち上げると背をそらせて勢いよく放り投げた。

 残りは一頭。ほっとすると同時に、ここで油断するのはよくないと俺は思いなおした。
 だが最後に残った犬は群の中でも一番小柄で、俺でも何とかなりそうなぐらい貧弱だった。
 その犬は悲しく嘆くような歌うような声で吠えると、こちらに向かってくる
 だが、あっさりとアリシアさんによって、群の仲間たちと同じ方向に弧を描いて投げ飛ばされていった。
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