リベラティオ

pome

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1章◆Ac scribere fabula

Coctura

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少女視点



じゅうじゅうと音を鳴らしながら、今夜の料理と格闘すること一時間。


「で、できましたぁ!」


完成したが、目の前にあるのは少し焦げたり、不揃いに切られた野菜が見受けられる不格好な料理だ。


「おお、お疲れ様。」


「ありがとうございます、あの」


「ん?」


ど、どうぞ…と緊張しながら料理を出してみる。


「リベラも一緒に食べるぞ。」


「は、はい!」


慌てて席についてからいただきます、と手を合わせた。
少し緊張気味に食べてみる。ん、まぁまぁ美味しいかな?食べれなくはない。


「ん、美味しい。」


「ありがとうございます。」


見た目がちょっとアレだが、味は悪くない。
前から少し苦手かもしれないと思っていたが、やはりラウルス様が手伝ってくれないと見た目はちょっと悪くなるようだ。


「次回は頑張ります…!」


「まぁ料理は慣れだしな。」


と2人で、食べ終わる。

「「ごちそうさまでした。」」


これもすっかり習慣になりつつあった。
食器を全て持っていこうとすると、さっと私の分まで彼が持っていってしまう。


「あの、私がやりますから!」


「いや、昨日あんなこともあったのに部屋の掃除の後、宿の仕事も手伝ったんだろ?」


あんなこと、と言われてて昨日の情事を思い出した。
ぼっ、と急激に顔に熱が集まる。


「あぅ…すみません…」


「ん?なんで赤くなるんだ?昨日あんなに高熱まで出して激痛だったんだろ?洗い物くらい任せていいから。」


熱と痛み……どうやら情事あっちのことではなかったらしい…勘違いに余計に恥ずかしくなった。


「…何でもありません、私もお手伝いします。」


「…まだ本調子じゃないんだろ?大丈夫なのか?」


「体調はバッチリですよ。」


そうか、と言いながら食器を洗う彼から洗い終わった食器を受け取り、水滴を布で拭っていく。


「そういえば、本日はどちらへ?」


「商業都市のコーラスに買い物と、ケントゥリア王国までギルド依頼の確認だな。」


「ケントゥリア王国?」


調理時に洗い忘れていた鍋を洗いながら説明してもらう。

【ケントゥリア王国】
ちょうど主人公達の住む大陸の中心辺りにある王国。
そんなに大きい国ではないが移動の拠点として活用されるため、交通税を高めに取っている。
交通の要所であるのでギルドの本部が置かれており、ケントゥリア王国は、魔物の平原と呼ばれる多くの魔物が現れる土地が南にある為、ギルド本部には多くの討伐依頼が寄せられることになる。


「あそこは報酬が良い依頼が多いんだ。」


「そうなのですね。」


最後の食器と調理器具を片付け終わり、ハッとした様子でラウルスは鞄をゴソゴソと触っている。


「どうしたのですか?」


と後をついていくと、これ、と渡されたのはお金の入った袋。しかも結構重い。


「あの、これは?」


「お小遣いだよ。頑張ってくれてるから好きなもの買えるようにと思って。」


「…!」


しかしこれを受け取ってしまってはいけない気がする。
そもそも奴隷にお金を持たせるなど驚きだ。


「いえ、そんな恐れ多いです…」


「いや、せっかくだし」


「お断りさせていただきます、お心だけ頂戴しておきますね。」


正直好きなことにと言われても分からない。
欲しいものなどもう既に沢山貰っているのだ。
これ以上何も貰えない。


「………そっか。」


「お心遣い痛み入ります、ですがそのお金はもっと重要なことにお使い下さい。」


むしろ私のほうが何か返さねばならぬというのに。
未だこうして様々なものを返せずにいる。
しかし、彼から貰った小遣いで何かを返すのは違うだろう…何せ、元は彼のお金なのだから。


「それに、欲しいものも特にありませんし。」


納得いかない様子のラウルス様だが、ここは譲れない。
その旨を伝えると「そこまで言うなら。」と引き下がってくれた。
ラウルス様お風呂に入ってくる間に寝間着に着替える。


「そろそろ寝るか。」


「おやすみなさい。」


「おやすみ。」


さぁ、今日も遅い。
昨日とは違い、いつも通りに私はベッド。
ラウルス様はソファで眠る。





視界の端に橙色に熱せられた鉄がちらつく。
首を絞められる苦しさ。
肌を叩く鞭の音。
ナイフで切りつけられる身体。
そこから燃えるような痛みと、熱がどろりと溶け出して身体の外に出る感覚がした。
無理矢理に髪を掴まれて、得体のしれないモノを飲まされることもあった。


声を出してなるものか。


「どうした、命乞いでもしてみるがいい!」


「どんな事をすれば声を出すんだ?」


「ほれほれ、飯だぞ、食べろ。」


硬いもので頭を殴打される。
打たれる頬に、鳩尾を蹴られる感覚。
べしゃり、と目の前に落とされる汚物。

吐き気と目眩。
ぐらぐらと、視界が揺れる。


心臓の鼓動と一緒に、痛みと熱が疼く。
ひりつく肌は、酷い色になっていた。



暗い、くらい闇の底にいる。



「ーーー、ーーー!」



上を見ると、彼がそこにいた。
ラウルス様が必死に手を伸ばしていた。



「ーーー、」



私を呼んでいる。
だけど、声も姿もすぐに闇の奥に見えなくなって。



ずるっ、と足が引きずられた。
いつの間にか足首には足枷と鎖が。
その鎖を引かれる感触がして思わずどこから、と周りを見渡した。
足枷の鎖は傍の大きな穴に続いており、そここらズルリと引っ張られている。
穴を覗き込んで、見なければよかったと後悔した。



「…ひっ」



足元の鎖が伸びる大きな穴。
その向こうには、今まで私を慰みものにしてきた男たちや、奴隷商人たちが、ぐちゃぐちゃに混ざったような肉塊の化物が叫び声を上げている。
喉が引きつり、思わず拒否の言葉が出る。



「ぁ、ぁ…いやだ…」



がりがりと地面をひっかき、そこに留まろうとするも地面を爪が削るばかり。
金属が引き摺られる音と共に、鎖と繋がった身体は徐々に穴へと引きずり込まれていく。


「■■■■■■■■■■■■!!」


聞き取れそうな、しかし多くの人間の言葉が一斉に放たれたようなおぞましい化物の雄叫びが聞こえる。
化物の皮膚は所々橙色に燃えて、時折肉の焼ける匂いがする。化物の口の中には無数の手が手招きしていた。




「いや、やめて」








「だれか」












「ラウルス様…!」












「たすけて…!」















「リベラ!!」



はっきりと上から声がする。
頭上から光が指して、化物がいる穴へと落ちる瞬間に



ぱきり。
鎖が、ちぎれる。


薄い髪色になった彼がこちらに手を伸ばす。

手を伸ばす彼の手を私はーーー……




必死に。




………



……








「っ!!!!」


「リベラ、大丈夫か?!」


「はっ、はぁ…っは…ぁ…」


夢の中の手を掴んだ瞬間に目が覚めた。
ああ、やはりアレは夢か。


「魘されてたぞ。」


「はぁ、ラ、ウルス…さま…」


かつての心の傷は、こうして時々夢に現れては、悪夢となって時々私を苦しめる。
ひどく喉が渇いて、掠れた声しか出なかった。


「すごい汗だな…水は?」


「………。」


ゆるく頷くと、グラスに入った透明な水が渡される。
手に渡されたグラスがとても冷たく感じた。
一気に水を飲み干すと、喉の渇きが癒やされていく。
ほぅ、と安堵の息が漏れる。


「ありがとうございました。」


「大丈夫か?」


「…はい。」


「……そうか。」


少しの沈黙。


彼は、苦しいなら言ってくれと言ったのだ。
このくらいなら、許されるだろうか。


少しだけ


ほんの少しだけ。


今日、だけ。


「……………本当は、」


「ん?」


「本当は、もう一度寝るのが、怖い、です…」


ちらりと顔を見ると、優しく微笑まれて頭をポンポンと撫でてくれる。


「よく言えました。」


優しい笑顔に心臓がきゅぅ、と音を立てた気がした。


「…眠るまで手、握ってるから…大丈夫だ。」


「はい、ありがとう、ございます…」


ふわ、ふわ、優しく、優しく。
ガラスに触れるように大切に頭を撫でる感触がする。
眠気に誘われるように目を閉じると、暗いはずのまぶたの向こう。そこには、誰かがいる。
美しい海のように青い髪がさらり、と落ちてきて。
とても優しげな手が頭を撫でながら、見えない顔のその人が柔らかく微笑んだ気がした。


(あなたは、だれ…?)


ふつり、と意識が途切れて
深い眠りへと沈んでいった。






続く
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