マッチ売りと騎士

ぬい

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【6】外套(★)

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 翌朝目を覚ましたルナは、毛布を被りながら赤面した。昨日はいつの間にか眠ってしまったが――夢では無いようだ。おぼろげに、帰ると言ったギルの事も覚えている。何より、肌にキスマークが散らばっている。

 入浴する事にしたルナは、一人で満ち溢れた気持ちになった昨夜の事を思い出して赤面した。ギルの事が大好きだ。それはもう間違いがない。

「ギル……」

 今日も早く会いたい。そう思うと、マッチ売りの仕事にもハリが出てきた。

「すみません、マッチを――」
「お。ルナじゃないか」

 その日、ベリルが再び通りかかった。ベリルは、ルナを見ると、何か思案するような顔をしてから、ポケットに手を入れた。そしてリボンを一つ取り出した。

「たまには結い上げてみても良いかもしれないね」

 その場でベリルはルナの髪に触れ、後ろでふんわりと髪をまとめた。

「うん、可愛い」
「有難う、ベリル」

 お礼を告げながら、ルナはギルの事を考える。ギルにも可愛いと思ってもらいたい。一度そう考えると、自分の服装が気になった。ボロボロである。ルナはあまり縫い物が得意ではないため、ツギハギ部分は糸がほつれている。その時、リズの事を思い出した。リズのように可愛らしい格好が出来たら良かったのになと考えてしまう。

「マッチをもっと売って、食べ物の他に服を買ってみよう……」

 ルナは気合いを入れる事にした。しかしこの日も、ベリル以外にマッチを買ってくれる人はいなかった。それでもベリルが買ってくれただけ、成功だ。そう考えながら陽が落ちるのを待っていると、今日は少し早い時間にギルが訪れた。

「聞いて! 今日はマッチが売れたの」
「そうか。それは何よりだが――その髪は?」

 いつもとは雰囲気がガラリと違う。より、色っぽい。そんなルナを見て赤面しそうになりつつギルは聞いた。体を重ねた事も理由なのか、ルナに艶があるように見える。

「ベリルがリボンをくれたの」
「ベリル? 誰だそれは」
「あそこの角の美容院の美容師さんなの」
「似合っているが――そうか。美容師か。美容師といえどルナに触るのは許せない。が、似合ってる……」

 ブツブツとそう述べてから、ギルが歩き出す。ルナもその隣を歩く。小屋につくと、この日は袋からギルがハムを取り出した。そしてそれを切り、サラダを作った。レーズンが入ったパンも袋から出てきた。ルナはうっとりしながらそれを見る。

「いただきます!」

 早速食べ始めたルナを、ギルは優しい表情で見守っている。
 食後、ルナは入浴する事にした。体をいつもより丁寧に流しながら、ルナは少し緊張していた。お風呂に入ると言ったルナをギルは止めず、代わりに『待っている』と言ったからだ。ギルはいつも、騎士団の宿舎で夕食と入浴を済ませてから訪れているらしい。

 浴室から出たルナを、ギルが抱きしめた。まだ濡れた髪を撫でながら、ルナの耳元に口付ける。ツキンと体が疼いたルナは、真っ赤な顔でギルを見上げる。それから二人は唇を重ねた。ギルの舌がルナの歯列をなぞる。必死で息継ぎをしたルナが舌を出すと、ギルが甘噛みした。

「ン」

 その刺激に声を漏らしたルナの服を、ギルが乱していく。寝台へと移動し、ギルはルナを抱きしめた。そうして優しく押し倒す。ギルは昨夜と同じ首筋にキスマークを散らしていき、それからルナの左の乳頭を舐めた。片手は蕾へと伸ばし、優しく芽を刺激する。

「ぁ、ぁ……ァ……ん」
「綺麗だな、ルナの体は」
「貧弱じゃない?」

 ルナはお世辞にも豊満な胸をしているとは言えない。だが慎ましやかに膨らんでいる胸を、愛おしそうにギルは掴む。そして優しく愛撫しながら、微笑した。

「確かにもう少し太っても良いかもしれないな。俺が太らせてやる」
「あ……ああ!」

 ギルが指を二本、ルナの中へと進めた。それをかき混ぜるように動かす。そうされるとルナの体の奥がジンと疼き、透明な蜜が秘所から溢れ出した。それを指で救い、ギルが音を立てて指を動かす。水音が恥ずかしくて、ルナは赤面した。

「ん、ぅ……あ、あ」
「ルナはココが好きみたいだな」
「ン!! あ、あああ!」

 ギルが昨夜見つけたルナの感じる場所を刺激する。そうされると、ルナの体がピクンと跳ねた。次第に規則的な指が強くそこを刺激するようになり、ルナは生理的な涙を浮かべた。全身に快楽が響くようになる。その時ギルが挿入した。張り詰めていた肉茎で、深々とルナを穿つ。楔を打ち付けられて、ルナは嬌声を上げた。

「あ、ああ……あ、ン――!!」

 ルナのリボンが解けて、髪が乱れる。それを指で梳きながら、ギルはルナを抱き起こして上に乗せた。下から貫かれて、ルナは慌ててギルに抱きつく。昨日よりも奥深くまで穿たれる形となり、ルナは喉を震わせた。

「あ、あア!! あ――っ、ン、う、あ、ああ!」

 腰を揺さぶりながら、ギルがルナの目元の涙を拭う。そして一際強く突き上げて、精を放った。ルナもその衝撃で絶頂に達した。白液と透明な蜜が混じり合っている。繋がったままですぐにギルは硬度を取り戻し、再び動き始めた。

「あ、あ、あああ!」
「全然足りないぞ。もっとルナをくれ」
「ン――!!」

 この日二人は、一晩中交わっていた。そして朝方、ギルは帰っていった。毛布に包まったままでそれを見送り、ルナはもう一眠りした。ギルの温度が消えた寝台が少しだけ寂しかった。

 本格的に朝が来てから、入浴を済ませたルナは、本日も仕事へと向かった。
 すると午後になってすぐ、ルナの前に立ち止まった者がいた。ルナは声を掛けようとして、立ち止まった。そこに立っていたのは、リズだったからだ。

「なによ、その外套」
「これは……」
「王国騎士団の騎士の外套じゃないのかしら?」
「うん……」
「どうして貴女がそんな貴重な品を着ているのかしら?」
「借りているの。冬の間」
「嘘は止めたらどうかしら? 貴女のような孤児ごときに、騎士が外套を貸してくれるはずがないじゃない。どうせ落し物を盗みでもしたんでしょう?」
「違うよ! 本当に借りてるんだよ!」

 ルナが声を上げると、リズが眉間にシワを刻んだ。そして忌々しいものを見るような顔をした。

「誰に借りたっていうの?」
「ギルだよ?」
「ギル?」
「その……恋人に借りたの!」

 正直にルナは説明したつもりだった。だが、リズが今度は驚愕したような顔をした。

「恋人? 貴女、恋人がいるの? 私にすらいないのに、どういう事!?」
「え、えっと……」
「そう。ふぅん。どうせ体でも使ったんでしょう! はしたないわね」
「……」

 ルナは戸惑った。違うと思いたいが、出会いを思い出すと、ギルが己を買おうとしていた事を思い出す。ルナはギルが片想いをしていた事など知らないから返答に詰まってしまったのだ。するとリズが勝ち誇ったように笑った。

「娼婦の真似ごとをしているなんて、売り子失格ね。お父様にはきちんと報告しておくわ」
「やめて! 違う。私は娼婦の真似なんかしてないよ!」
「貴女の嘘なんてお見通しなのよ。とにかくその外套は脱ぎなさい」
「え……だけどこれは、私が借りていて……」
「私が返しておくわ。責任を持って、ね。そうしたら、私にも素敵な騎士様が声をかけてくれるかも知れないわ」

 リズはそう言うと、ルナの外套を掴んだ。慌ててルナが服を抑えたが、体格の良いリズの方が力は強い。そのままリズはルナの外套を剥ぎ取った。

「返して……!」
「嫌よ。それでは、失礼いたします」

 そう言うとリズは歩き始めた。近くには、馬車が止まっていた。ルナは追いかけたが、リズが乗り込んだ馬車はすぐに走り出した。走っても馬車には追いつけない。雪に足を取られて、そのままルナは転倒した。マッチが散らばる。

「寒い……」

 赤い薄手の外套のみとなったルナは、涙ぐみながらマッチを拾った。手袋を見て、ギルを思い出す。折角ギルが貸してくれたものなのに、リズが持って行ってしまった。それが辛くて、涙を零しそうになったが、必死にこらえる。そして立ち上がった。マッチの売り込みを再開する。

「マッチはいかがで――」
「いらない。話しかけるな」

 通行人達は冷たい。凍えながら、ルナはそれでも声をかけ続けた。しかしこの日もマッチは売れなかった。ルナは陽が落ちたので、ギルが来てくれるのを待っていた。

「ルナ?」

 するとやってきたギルが、驚いた顔をした。そしてその場でルナを抱きしめた。

「外套はどうした?」
「……リズが持って行っちゃったの」
「どこの誰だそれは?」
「……っ」

 ギルの腕の温度を感じたら、ルナの涙腺が緩んだ。一気に悲しさが溢れてくる。すると焦ったようにギルが涙を拭ってから、自分の外套を脱いだ。最近着ていた新しい外套だ。それをルナの肩にかける。

「今日からはこれを使え」
「ギル……」

 泣きながらルナは頷いた。この日は紙袋を片手で持ち、ギルはルナの手を繋いで、道を歩いた。そして帰宅すると、改めてルナを抱きしめた。ギルの体が少し冷えていた。ルナはそれに気づいて唇を噛んだ。

「ごめんね。ギルが寒かったでしょう?」
「気にするな。正装の方に魔術がかかっていると話しただろう? 外套はただの飾りのようなものだ」

 ギルはルナの髪を優しく撫でてから、頬に口づけをした。
 この日ギルは、ルナを抱きしめて横になり、朝になるまでついていた。


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