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【15】生徒会

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 話は前後するが――高校では、叱責される形で人権が無くなることはなかった。
 しかし、変な形で、若干無くなった。

 私は、予習復習、朝自習、放課後の自習、休日の自習――自習はもちろん全て学校で――を免除され、部活はマネージャーという名の見学に回されたのだ。そして部活が長引いていても、規定時間になると即座に帰宅させられた。授業中にさされることも全くない。留年回避のための補講以外、すべてを免除されたのだ。なので私は小説を書いたり読書をしたりしながら、日々を過ごした。

 そして、退院後初となる本格的な期末テストの時期が来た。
 しかし私はそちらではなく、その後の冬休みの補講のことで頭がいっぱいだった。
 先生と一体一でお勉強するのだ。しかもきっと難しいはずだ。

 なので私はテストのことなど気にせず、そちらの範囲などどうでも良いので見もせず、ひたすら補講予定の教科の参考書と向き合った。ほぼ全ての教科である。ただ、いやいや予習していた頃とは違い、もう怒られることはないと分かっていたので、気が楽だった。

 毎日よく眠れるようになっていたので、すぐに頭にも入ってくる。
 怖いのは留年だけだった。
 テストは、点数が悪くても怒られない自信があったのだ。歪んだ人権の恩恵だ。

 なので一夜漬けすることもなく、適当に期末テストに臨んだ。

 きっと最下位周辺というか最下位だろうなと思いながら、成績一覧を見て、私は最初、プリントミスがあると思った。学年二位と書いてあったのだ。

「安静にしていろって言ったのに、家で勉強していたのか!?」

 最初に言われたのはこの言葉だったような気がする。答案返却時は、先生方は皆、今までとは異なり、特に何も言わなかったのだ。だが、最終的な成績表を配られた時に言われたのである。

「え? いえ? してないです。補講の勉強をしてます!」
「補講の勉強? 具体的には?」

 私は、従兄が受験で使っていた参考書の名前を挙げた。
 他に持っていなかったのだ。買う選択肢も思いつかなかった。
 今考えてみれば、あれは、とっても難しい参考書だったのだと思う。

 それを丸暗記していたのだ。先生は、とても複雑そうな顔をしていた。
 その後何かをいくつか質問された。
 勉強時間とかだったと思う。以前と現在の比較的な感じだ。

「おそらく雛辻は、一人で自由気ままに勉強するのが向いてるんだな」
「そ、そうですかね?」
「今後も朝自習等には出席不要だ。ただし、家で今の状態を継続するように」
「はい!」

 私は、それは留年しないために必要なのだと信じきっていた。
 こうして冬休みの補講を乗り切り、休み明けテストを迎えた。
 四位だった。前回は偶然だろうが、今回はテストが簡単だった。

 そうしてテストや補講をのりきり――私は暇な時は仲良くなった、別のクラス担当の数学の先生がいる数学準備室に遊びに行くようになった。パズルみたいでとても面白い。ずっと数学をやっていた。

 生物は、この高校の進学速度だと、秋に終わっていたので、生物部以外で学ぶ機会は参考書しかなく、私は得意だったのでもう全然見なかった。

 そして他の人はみんな一月に聞かれていたのだが、進級がかかっていた私だけまだだった、文理のクラス分けの相談が始まった。二年時に分かれるからだ。小説家になる気満々で(無論、ごくごく少数の人にしか言わなかったが)、私は文系に進むと言った。文系じゃないと小説家は向いていないという思いもあったのだ。完全に気のせいである。

 先生方は、数学と生物が私の取り柄だと確信している様子で、理系に行けと迫った。病気をしてからは、医大にいけとはあんまり言われなくなっていたが、それも含めて、とにかく理系コースに進んでおけと言われた。理系の利点を蕩蕩と説かれた。

 だが私は、かたくなに拒否した。私が拒否するのは、とても珍しいことである。押しに本当に弱いのだ。だからこそ先生方も説得したのだろう。五人がかりで説得されたのだ。けれど私の頑固さに、先生達が折れた。おそらく、初めて私の頑固な面を見たからだろう。

 さて、文系に進んだ私であるが、テストの度に先生に泣かれて、今からでも理系に行かないかと何度も言われることとなった。理由は一つだ。私が、国語も社会系も英語系も、とにかく文系が全部、文系コースの人々の平均くらいだったからである。一年時の学年での成績が良かったのは――圧倒的に理系が平均点が悪かったからであるらしい。理系志望者は相当数いるのだが、数学やら理科系教科は、そこまで得意じゃない人が多かったかららしいのだ。

 二年時からは、総合成績も出るが、文理別の成績も出る。それとそれぞれにしかない授業もいっぱいあった。

 さてこの結果、文系クラスなのに、総合テストと模試では、数学一位が私という不思議な事態が発生してしまった。理科系も同様である。一位じゃなくても、三位以内だった。そして肝心の文系の方は、全然ダメ。特に、文系でしかやらない授業は、全くできない。私は数学準備室に遊びに行って、漢字の勉強をしていた。

 仲の良い数学の先生が吹き出していた記憶がある。この先生は、別に文系でも良いし、好きな方に行けば良いよと言ってくれた唯一の先生だ。

 なお数学に限っては、私が一位か三位の時、必ず、二位の子がいた。その子はいつも二位だったような気がする。優香ちゃんだ。彼女も数学準備室にちょくちょく来ていたので、私達はとても仲良くなった。広大くんも来ていた。二人はちゃんと数学を勉強していたが、私は古典をやっていたような気もする。

 優香ちゃんは医大志望、広大くんは農業系の某大学志望だった。二人共現在は、お医者さんと専業農家だ。夢をきちんと叶えたのである。当時から将来設計が完璧だった二人だ。素晴らしい。無計画の私とは違う!

 勉強嫌いの私だが、小説家になるにはこのくらいの苦労は必要だと確信していた。なので日本史の勉強などをしていたある日、広大くんが言った。

「なぁ雛辻、副会長やらない?」
「んー?」

 よく聞いていなかった私は、聞き返したつもりだった。
 しかし広大くんは、「うん」って聞こえたらしい。

「私会計やるね!」

 優香ちゃんがそう言った時、私は顔を上げた。
 何の話かわからないでいたら、数学の先生が頷いた。

「そういえば、七村くんと雛辻さんは、中学時代も会長と副会長だったんだっけ」

 そんな雑談を、そういえばしたこともあったかもしれない。

「僕、次、顧問なんだよね。ちょうどいいよ、雛辻さんもやってよ」

 意味がわからなかった。しかし話を聞いていて、ちょっとだけわかった。なんでも、次の顧問がその先生だと知って、そういうのが大好きな広大くんが、会長をやりたいと宣言したらしいのだ。なお、彼は応援団長も兼任することになる。

 それを聞いていた優香ちゃんも会計か書記のどちらかをやるつもりで話していたらしく、たった今、会計に決めたそうだった。進学校の生徒会など、完全に雑用係の別名である。立候補者など誰もいない。

 だからほぼ、顧問の先生の推薦で出馬し、みんなが丸をつけて、終わりだ。つまり、ここで頷いちゃったら、私は副会長になってしまうのだ。嫌だ!

「ごめんなさい。受験勉強に専念したいから」
「「「してないじゃん」」」

 三人の声が揃った。泣くかと思った。一応、しているつもりだった!

「部活もあるしさ!」
「「「見学じゃん」」」

 はっきりと言われた。マネージャーとは、誰も言わなかった。

「委員会もあるし!」

 私のこの発言で、ようやく三人が少し黙った。

 実は、私の高校には、ちょっと県をまたいだ地域で有名な委員会があったのだ。報道系である。何度も賞をもらっている委員会で、他校と受賞争いをしている感じだった。在籍するほとんどの生徒は帰宅部で、この委員会に専念していた。部活以上に忙しいのだ。

 これも私が初期に忙しくなりすぎた理由の一つでもある。委員会は、部活と違ってすぐに決まったのだ。文章を書くのが好きだった私は、ためらうことなくそこに入った。その委員会の合宿やら、大会やらにも何度か行った。その時の一人に、ちょっと有名な漫画家さんになった人がいたりする。

 さて、部活はマネージャーという名の見学者になり、どころか週に一回くらいしか顔を出さなくなっていた私である。だから数学準備室にいっぱいいたのである。委員会も、大会や合宿は免除という名の禁止になった。だが、記事を書くことは許されていたのだ。国語は全くできない私であるが、校内新聞のようなものに書いていた記事は、結構人気だったのである。私は、自分には文才があると信じていた。周囲に見る目がないと思っていたのだ。だって、適当に書いた読書感想文を受賞させる県なのだ。

「――雛辻さんは、文章を書くのが好きなの? それで文系に行ったの?」
「はい!」

 先生に聞かれたので、私は笑顔で頷いた。
 すると先生も笑顔になった。

「それだけ好きで、コースまで文系にするほどなんだから、どんなに忙しくても書いちゃうくらい好きってことだよね! じゃあ、生徒会に入っても、書けるよね! だって、文章を書くのが大好きなんでしょう? それに、生徒会、暇だし!」

 返す言葉が無かった。確かに大好きだ。きっと、どんなに忙しくても書くだろう。
 それにNOといったら、自分で自分のその考えを否定することになる。
 そんなんじゃ小説家になれない!

「わかりました!」

 こうして上手く乗せられて、また私は、副会長になってしまったのである。
 私も馬鹿だったが、みんなの頭もおかしいと思う。
 その後、書記と補佐を無事に探しあて、生徒会が始まった。

 そして――暇な雑用係というのが、大嘘だと発覚した。

 もしかしたら、行動力のある広大くんが革命を起こしていたのかもしれないが、私が想像していた帰宅部的な感じとは違ったのだ。イベント盛りだくさんで、文化祭の年(三年に一回)と重なったこともあり、ものすごく面倒くさくて忙しかった。

 文化祭には晶くんと広野さんが来た。

 女装男装コンテストなどというくっだらないものが開かれて、男装した私を見て、二人は盛大に笑っていた。消えればいいのにと思った。何に笑っていたかというと、どこからどう見ても、男装に見えないという所にだ。お殿様の格好をしているのに! 恥ずかしいのにお殿様の格好をしたのに! なのに男装に見えないと言われた! その上、似合ってるねとか言われて、殴り飛ばしてやりたくなった。

 その後、生徒手動で制服変更が行われたり、指定鞄の変更が行われたり、今までそんなイベントなかったじゃんみたいなのが企画されたり、ひどい生徒会だった。全校生徒が、受験勉強の気分転換になって良いよね的な雰囲気でのっかったのも悪い! 楽しかったけどさ! そして修学旅行の次期になった。この高校は、三年時は本当にもう予備校状態になるので、二年の終わりに行く。こうして私は、小学時代以来、久々に海外へと出かけた。



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