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第1章 全ての始まりの記録
abyss:46 最強登場
しおりを挟む天井からの滝のような水柱の洪水が降り注ぐ。
ドッパシャーン!
ズドドドドドドドドドッ
母さんは寸前のところで回避し水の直撃は免れたが床にブチ撒けられた大量の水に飲み込まれズブ濡れで流される。
そして阿久津も流されていた。
お前も流されるのかよ!
母さんは水流に飲まれながらも床のわずかな凹みを指で掴みその場で耐える。
「水は─── ただの水のようね」
多少飲んでしまったが水に害がないことを体内と皮膚の状態から瞬時に判断。
まだ天井から水が流れ落ちていたが、徐々に水柱が細くなっていく。
濡れた上着とズボンは動きの妨げになり邪魔なだけだ。
夜春は濡れた上着とズボンを素早く脱ぎ捨て俺の方に投げ飛ばす。床に落ちるとドシャっと鈍い音がした。
上着を脱いだ母さんは肌を隠す黒いピチっとしたと戦闘用タイツと両手、両足に頑丈なアーマープロテクターを装着していた。細身でスタイルが良いがタイツ越しでも筋肉のつき方から全身鍛えているのは一目瞭然。
ホルスターサスペンダーに背中に鍔の無い短刀、両脇に飛びナイフ、腰に2本ナイフを仕込んでいた。
闘い慣れしているというか、一体どれだけ奥の手を隠し持っているんだ。
濡れた髪の毛を無造作にかきあげ背中の短刀を2本抜き腰を落として構えを取る。
二刀流で攻防一体の零距離格闘術に古武術・コマンドサンボ・シラットを巧みに組み合わせた連撃が繰り出される。
昔、母さんとの組み手したとき何度挑んでも瞬殺された思い出がよみがえった。
半分水に浸かりながら不敵に笑った顔マークの阿久津が起きあがり
「わかりやすい予想通りの行動です!」
大量にぶち撒けられてた水は床に水溜りを作っていたが床の隙間から排水され徐々になくなっていく。
「で、あるならば! これならどうする?」
落ちてきた水に向けて両腕を上から前に振り下ろした。
落下する水が止まっていく。
水柱の落下地点の中に今の水で一緒に落ちてきたであろう人物が蹲っていた。
蹲っていた男は膝をついて立ち上がった。
上半身裸。無骨で肩幅が広く所々に傷がある。目が引きつけられたのは彫刻のように腹筋、胸筋がギチギチに鍛え抜かれ相当な修羅場をくぐり抜けてきた強者と一目で分かる。
立ち上がった背丈は190センチ近い。水滴をポタポタと垂らした濡れた黒髪は肩まである。髭を無造作に生やした少しやつれたイケメンおじさん。
イケおじの不自然な部分は腕なのだが、肩から指先までが人間の腕ではなく人の腕より長い機械になっていたこと。
両指の爪は鋭利なナイフになっている。
イケおじのヤバさは敵の隠し玉の兵器という位置づけで間違いはない。
圧倒的な生物として格の違いを見せつけられ俺は勝てるイメージが沸かなかった。
まさに――― 最強。
ブバァ!!!
イケおじの姿を見た母さんが鼻から血が吹き出した。
さっきまで大きな外傷がなく元気だった母さんが急にボタボタと血を流しだした。
「ハァハァハァ!」
と呼吸が荒い。
内臓を損傷していた!? 水に遅効性の毒でも入っていたのか!?
「母さん!」
母さんは鼻を手で抑えながらもう片方の手を左右に振って違うと返事をした。
「相変わらず、すごくいい身体していたから………… 興奮しちゃった」
なぜか顔を高揚させ艶っぽい笑みを浮かべていた。
「ハルキ、あの人が誰か分かる?」
俺は目の前に現れた男の顔をマジマジと見た。
髭が生えているがこの顔は─── 家の写真にいた人
「─── 父さん!!!」
髭を生やしたイケおじの口元がニヤリと笑った。
「ハルキか、大きくなったなぁ!」
とても優しく色気のある声だった。
その声を聞いて母さんは
「ああっ! しゅき!!!」
と悶えている。
俺は何一つ思い出せないから初めましてな感覚しかないが念願の父さんに再会することができた。
母さんが鼻血を出す気持ちがわかるくらいヤバカッコいい。
横にいるティナも俺と父さんの顔を何度も見返して
「将来の姿カッコよすぎやば」と感想を漏らしていた。
「夜春、ずっと待っていた、見つけてくれてありがとう」
「あなたぁー! やっと会えた! ずいぶん寄り道を食ってしまったけど迎えにきたわ!」
2人は見つめ合い、笑顔をかわす。
13年間絶対に生きていると信じていた母さん。
13年間助けに来ると信じていた父さん。
2人の信頼関係の強さを見せつけられた。
俺にはまだよく分からないけど、これが愛する強さというものなのだろか。
「――で、弱点はどこ?」
母さんはキリッと表情を切り替え父さんに端的に質問する。
「首から下がすべて乗っ取られていて感覚がない。痛覚もなくなっている。俺が自分で動かせるのは頭だけだ」
父さんが的確に答える。
2人とも頭の切り替えが早い。
「首の後ろに全神経を操る機械がつけられているからこれを破壊して欲しい。多分死にはしない」
「おっけ~! ついでに悪趣味なクソダサい両腕も切り落としてあげるわ!」
この闘いは父さんを無力化し、母さんが勝てば後は阿久津を倒してすべてが終わる。
問題は勝つことが出来るかどうか。
なぜなら母さん曰く、父さんの強さは母さんより強いからだ。
13年間監禁されていた父さんと13年間牙を磨き続けてきた母さん、普通の肉弾戦なら母さんに勝機があがるだろうが、父さんは未知の機械の身体に魔改造され戦力が不明。
これまで闘った改造人間たちですら超人的な強さだった。
アドバンテージの差はどれほどなのか…………。
「感動の再開はそろそろいいかな? 私の命令で将暉がお前たち全員を殺し、将暉に悲しみと後悔を味合わせてから自らの両手で首を刎ねさせてやる! 抗ってもがき苦しんで出来るだけ長く私を楽しませてくれたまえ!」
阿久津が両手を広げ嬉々として叫ぶ。
「ティナちゃん、あなたには私の闘いをしっかり目に焼き付けておいて欲しいわ」
母さんのティナに何かを託すような言葉、嫌な予感しかない。
「どういうことですか!?」
ティナの質問に答えず
「あなた、全力で行くわ!」
母さんが短剣を構え真っ直ぐ父さんに駆け出す。
「来い! 踊ろうぜ!!!」
両腕と爪を広げ攻撃体勢になる父さん。
お互いに探し続け、待ち続けた夫婦は13年ぶりに再会出来た。
夜春は助けるため。
将暉は命令に逆らうことが出来ず殺すため。
2人の愛は火花を散らすかたちで激闘が繰り広げられた。
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