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第1章 全ての始まりの記録

abyss:44 亡霊

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母さんの衝撃の告白。
実は13年前の大爆発の時、隣の街に住んでいました。という事実。


「え?」
13年前は俺がまだ5歳でアメリカから家族で日本に移住してきた時期になる。
そもそもアメリカ生活のことは話に聞いた程度で何も記憶にない。
覚えているのは5歳以降は新世界都市からずっと離れた街で高校生まで暮らしていた記憶だけ。

「どういうこと?」
「疑問がたくさん浮かんでるわよね? 私もいま思い出しながら疑問がポコポコでてきて整理しながら話しているわ」
確かに新事実が多すぎて整理しないと何も見えてこない。
母さんの推察を聞くことにした。
「その爆発の時、ハルキは家の近所の公園で遊んでいて衝撃波に巻き込まれて死にかけたの」
「死にかけたって」
爆発で瀕死の重傷を負った!? それなら普通は自分の身体に大小どこかに傷跡が残るだろう。そんな傷は何も残っていない。どうして無傷でいられた?
俺の中に不可解な疑問がたくさん沸き上がる。
母さんが何か隠しているのか?
「あなたが死ななかったのは、その時一緒に遊んでいた近所の女子大生が肉の壁になってくれたからなの。 はるかちゃんっていうんだけど憶えている?」
「…………何も覚えていない…………」
「そう、それなら覚えていない方がいいわ、彼女は即死。あなたもとても酷かったの」
「俺の記憶がないのってそれが原因なの?」
俺と目を合わせていた母さんは一瞬視線を逸らした。
「爆発の数日前にお父さんが何かを止めに行くといって出掛け、都市消滅の大爆発が起きた。出かける前に終わったら全部話すと言われ、結局お父さんは帰ってこなかったから真相は分からずじまい。昨日の襲撃でようやく真相に辿り着けてきたわ」
まさか主犯格が遠い昔の父さんの友人だったとはだれもわからないわけだ。
亡霊の例えは適切だ。

「母さんあいついま無防備だけど攻撃しないの?」
阿久津あくつは向こうで円を描くようにスキップしている。
「そうしたいのはやまやまなんだけど、無防備すぎて逆に怖い。私の第六感がやめとけっていっているのよ。情報支援隊ISAにいたパソコンオタクが誰にも知られず地下にこんな巨大な空間を作る科学技術テクノロジーは異常よ。この新世界都市の技術をもってしても作ることはできないわ。護衛なしでアイツだけしかいないってことはまだ何かあるのよ」
たしかに建築技術はどこから持ってきた? 誰がこの施設を建造した?
スキップしていた阿久津あくつの動きがピタリと止まり顔を俺たちに向けた。
「ちゅうもーーく! ヒソヒソ話はそこまでだ! こちらのディナーの準備が整ったぞ!」

プシュー

阿久津あくつの後ろにある扉が左右に開いた。
2人入ってきた。
両手を前で鎖で拘束され口を布で塞がれたティナ。怪我や衣服の乱れは特になくフード男の言ったことは事実のようだ。
もう一人は裸足に白いワンピースを着て黒い布を無造作に頭から顔、肩、お腹まで覆い隠した女だった。布はまるで喪服を着ているようなイメージを俺に与えた。
顔が全部隠れているが前は見えているのか? 女はティナの手に拘束している鎖を掴んでおり阿久津あくつに向かって歩き出した。
ティナは俺と母さんを視認すると
「フウギィーーー(ハルキ)!!!はふけぇへぇえええー(助けてぇ)!」
と、叫んでいる。
ティナは鎖を振りほどこうと必死に抵抗しているが女の力が強いのかびくともせず、すがままにズルズルと引っ張られていく。
「なぜティナをさらった!」
「理由か? ただのテンプレだ。人質がいた方が盛り上がるだろう!」
テンプレ!?
「そんなくだらない理由でわざわざ人を殺してまでさらったのか?!」
俺はティナがさらわれたときにローグの部下が3人殺されたことを思い出した。
「え、誰か死んじゃったの? あっそうふーん」
阿久津あくつはまったく興味がない返答をした。

女は阿久津あくつの前に来ると無言で手に持っていた鎖を差し出した。
女から鎖を受け取った際に阿久津あくつが小さい声で呟いた言葉を俺と母さんは聞き逃さなかった。
「お前は─── 誰だ?」
黒い布の女は表情はわからないが阿久津あくつをジッと見ていた。
阿久津あくつも黙って数秒間女から顔を反らさないでいたが
「─── まぁいいか」
と言ってこちらに振り返った。
黒い布の女は数歩後ろにがって一切微動だにせず立つ。

俺は二人のやり取りに何か不自然な違和感を感じた。
母さんを見ると母さんも同じように違和感を感じたらしい。
阿久津あくつがおかしい。
俺たちは何か思い違いをしているのではないか。

「うぐぇええっおえぇええ!!!」
阿久津あくつの隣にいるティナの様子がおかしくなったことでその考えは遮られた。バタバタうめきながら暴れ始めたのだ。
何かに苦しむかのようだ。
鎖は阿久津がしっかり握っているため逃げられないがティナは阿久津あくつから離れようと必死になっていた。
両手で口を押えていた布を無理やり剥ぎ取ると嘔吐レインボーシャワーした。
「おえええええっ、おえ、おええええ~~!」
俺と母さんは登場してまだ何もされていないティナの嘔吐に何が起きたのか状況が理解できていない。
「げほげほ!・・・くっさ!! おぇっ!」
ティナは嘔吐レインボーシャワーを吐き出し後の一言は
「くっさ!」だった。

自分の吐しゃ物に対しての感想では───ないようだ。
ティナはゼェーハー息を整え阿久津あくつを凄い形相で睨みつける。
「くっっさ、臭い! あんためちゃくちゃ臭いわよ!!! 信じられない! どんだけお風呂入っていないの!?」
ティナがまくし立て不満の言葉がでてくる。人質という立場でありながらおくせず言てしまうのはさすがティナだなー、かわいいなーと和んでしまう。
「私が臭いだと! 失礼な! そこまで言うなら、ほ~~~ら、もっと近くで嗅がせてやろう!!!」
阿久津あくつは鎖を手繰たぐり寄せティナを近寄らせる。
「ちょっと最悪! 近寄らないでよ! うぷっ本当にムリ! マジでおえっ! チョーーー臭いんですけどー!」
阿久津あくつと距離が離れていたというのもあるが俺と母さんにも微かにティナが言う<臭い>が流れてきた。

おぇ、なんだこの悪臭は!? たしかに吐きそうなほどすごく臭い。

…………俺はこの臭いはまだ嗅いだことがない。
例えるなら腐ったチーズや生ごみが腐った何倍も強烈な臭い。
かあさんは口元と鼻を手で押さえながら
「阿久津─── あんた…………」
母さんはこの臭いに心当たりがあるようだ。

「とっくに死んでいるんじゃないの?」

と冷たく言った。

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