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45話 ミラルディ・ハイドアウトの謎

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キッチンでお皿をじゃぶじゃぶと洗う。洗剤も無ければスポンジも無いので、仮に作った洗い桶と布を使ってゴシゴシとこする感じになる。
そこまで脂分が多い食事じゃないけれど、やっぱりお皿についた油をちゃんと落とそうとすると大変なので、今度ミラルダさんに聞いて洗剤代わりにしているものを買ってこなければ。

「今日は何するのっ?」
「ミラルダさんに手錠を渡しに行って、あとは釣り。いつもの王城の隣のところだけど。」
「ああ、あのりんごのところね。」
「懐かしいでしょっ。」

ラザロはそこまでドラコルムに入り浸ってなかったはずだからなぁ。やっぱり苦笑してる。

階段を降り、一階へ。どやどやとちょっと騒がしくしてしまったかなと思いながら降りていくと、ミラルダさんがカウンターの椅子に座り、お茶を嗜んでいた。
いつも通り。安心する光景だね。

「おはようございます。」
「おはよう。」

みんなそれぞれに挨拶を交わし、最後にメーカを紹介する。
コボルトとはいっても、普通のコボルトよりも体が大きくて女性っぽいしなやかさが強調されている感じだからね。
ミラルダさんも特に驚くようなこともなく、笑顔で握手をしてくれていた。

「あ、ミラルダさん、忘れる前に渡しておこうと思うのですが。」
「あら、もう手に入れてきたの?ココットさん優秀ねえ。」
「いえいえ、今回の件についてはスワリナのお手柄ですよ。言葉が通じたもので、すぐ手に入りました。」
「そうなの。スワリナちゃん、偉いわね。」
「う、そ、そうでもないさね。」

手錠をミラルダさんに渡し、照れて顔を赤くするスワリナをニコニコしながら眺めているとメーカがそういえば、と切り出した。
話している最中だけれど、クエストが完了になって経験値がたっぷりと入ってくる。

「ミラルダ殿、酒の醸造に使ってもいいスペースはあるだろうか。」
「お酒?作るの?」
「ええ、主が作ってみてくれとの事でしたから。」
「それなら、地下室があるから、そこを貸しましょうか。地下二階が半分空いてるのよね。」
「え、地下なんてあったんですか。」
「あったんですよ。」

驚いて聞いてしまった僕に、笑顔で返したミラルダさん。
すっと立ち上がると、ついてきてね、と歩き出した。

階段の横。たしかにそこに扉があり、小さな部屋があるだろうことは知っていたけれど、その中に地下へ降りる階段があることは知らなかった。
ミニマップ上でも未確認だからグレーアウトされていた部分なので、仕方ないのだけれど。

そもそもミラルディ・ハイドアウト自体の床面積は結構広い。
地下一階の収納庫自体はほぼほぼ上階と同じような床面積だろうと想像がつくのだけれど、地下二階は隣の建物の地下も使っている様子で、三倍ほどの広さがあるのだとか。
天井も三メートル程あるだろうか。階段室から右手にあるドアを開けて中を見ると、内部には大きな金属のタンクがずらりと並び、何か複雑な機構が動いている様子が見て取れた。

「あら、こっちじゃなかったわ。」
「え?今のは!?」
「うふふ、こっちはねぇ、旦那が作って残していった自動醸造設備よ。素材を入れておくと勝手にお酒が出来上がるの。別に入り口があってね、旦那の友人が管理して販売までしてるわ。」

二の句が継げない、というのはこういう事を言うのだろうか。
ミラルダさんはそんな僕らを笑顔で見たあと、ぱたんとドアを閉め、反対側のドアを開けた。

「こっちの部屋がね、空いているの。少し向こうの部屋の機構の予備部品が置いてあるけれど、それはあっちの部屋に移せるくらい少ないから大丈夫よ。ここなら、上の部屋の倍額でなら貸してもいいわ。こちらの部屋はね、魔道具で管理してるからその分維持費があるのよ。少し高くてごめんなさいね。」
「大丈夫です、借ります。」

僕らはミラルダさんと契約を更新して、こちらの部屋も借りた。どっちにしても三人で契約しているわけだから、合わせて三部屋分になったとしても一人一部屋換算だしね。魚や料理の販売にレイド戦の収益、この間のポウでの上がりで年単位で借りてもお釣りが来るし。
それに色々と棚とか作ってアイテムボックスに常時入れておく必要のないアイテムについては移しておけるし。

ちなみに換気や排水についても設置されている魔道具で問題なく出来るみたいで、水道もちゃんと設置されてる。火を使っても酸欠にならないようになっているとか、かなりすごいと思うんだけど。魔道具すごい。僕らも生産スキルや付与とかを上げていくと同じことが出来るようになるんだろうか。

釣りに行くよりもまずは醸造設備を整えてしまおうということで、ラザロも木工スキルを持ってはいるから、と手分けして作ることにした。
メーカによるとそこまで大きな樽とかは必要ないらしく、そこは助かるところだった。小さめのサイズの樽なら今でもスキルで作れるし、それ以上といっても中くらいのものであれば、スキル外だけど小さめの樽の延長上で作れそうな感じだったからね。あまり大きいやつについては無理そうな感じだけど。

どんな感じで作るのか、メーカに聞いてみると、どうやらワインに似た酒のようだった。
レード平原で自生するとある植物の実を集めて来て作るらしいのだけれど、男衆の仕事だったようでメーカは採集に出たことはなかったのだとか。だからどこに採集のポイントがあるかも知らないらしい。まぁ仕方ないよね。

そこまで多くない道具だけれど、スキル外で作るとなれば結構な時間が掛かってしまった。
道具をそのまま地下の部屋に残し、遅いお昼を食べようということで階段を登り、部屋へと一度戻ることにした。



また簡単な調理をバーニィに任せて新聞を読んでいると、メールが届いているのに気がついた。

「株式総会のお知らせ来たよ。」
「ああ、そっかっ。ココット株主だもんねっ!」
「うん、今回はどう考えてもAIたちの事だろうねえ。ビデオチャットでの参加でいいはずなんだけど。」
「それじゃ、その前後の時間みんなでログアウトかしらね。」
「そうだねっ。休憩もちゃんと取らなきゃだしっ。」
「緊急らしいから、現実時間で一週間後だね。それにしてもまぁ、最短だなんて。」
「根回しをできるだけさせない心づもりかしらね。」
「うーん、ああ、でもベリウスは現経営陣五十%ぎりぎりしか持ってないはずだ。しかも持ち合わせのはずだから、切り崩しをされるとまずいわけね。」

そういう僕もなんだかんだで結構持ってるしね。最近はそこまで発行してないはずだけど、浮いてるやつを何度も買い増ししてあるから、多分五%近く持っているはず。
他の今アルファ版をプレイしている知り合いも結構買っていた人が確かいたはずだし、横で連絡を取れればこっちで議決権を握ることも可能なわけか。
開催の日時を早く設定しても、アルファ版プレイヤー側の株主にとってはこの現実時間よりも加速されている時間の中にいれば結束する時間はある。
勿論、プレイヤーじゃない人達から委任状を集めることが中々に難しいわけだけれど。

ご飯を食べつつ、どうしたらいいかを話していると、個人チャットがやってきた。

『よお。今大丈夫か? ドーレンだが。』
『ああ、大丈夫だよ。久しぶりだね。』
『そうだな、チャットですら二年ぶりか? こうやって話すのは初めてのはずだが。』
『そうだね。……で、株式総会のことかい?』
『話が早い。さすがだな。』
『何がさすがかはわからないけど、メールが来たタイミングでだからね。ドーレン、確かかなり持ってたよね、株式。』
『議決権付きなら二十五%持ってるぞ。確か、ココットお前三%くらい持ってなかったか?』
『買い増したから五%近くあるはずだよ。で、二人で三十%くらい行くわけだけど。どっちにつく?』
『何いってんだおめえ、AI側に決まってんだろ。ココットもモンスターと契約してたくらいだからこっち側だろ?』
『まあね。』
『言っとくけどお前さんの分を入れて四十%超えたぞ。…よし、俺は内部の切り崩しに掛かるわ。総会の出席頼むぞ。それじゃあ一回ログオフして交渉してくるからまたな。』
『またね。出来ることがあったら言ってくれよ。』
『勿論さ。こっち側についてくれるのが決まっただけで出来ることの一番大きいことは終わってんだがな。また変化があったら連絡する。じゃあな。』

にやけた僕を不思議そうに見ていたみんなに、僕は言う。

「いい戦いに持っていけそうだよ、株式総会。」
「やったさね。」
「よかったっ。」
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