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39話 取引

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握手も終わり、手を離そうとしたらメーカが手を握ったままどころかもう片方の手で更に手を包み込んできた。
何事!?と思っていると、じっと目を見て何某か喋っている。

「…スワリナ、彼女はなんて?」
「…私を手玉に取るなんて中々やるじゃない、婿に来ないかって言ってるさね。」
「え!?」

その言葉に女性陣がじろり、とメーカを睨みつける。
スワリナが一応、説明してくれたようで一度手離したものの、特に反省するような感じもなければ、商談が終わったはずなのに特にどこかへ行くこともない。もちろん、僕たちがここを去らないと物資の集積地に居ていいわけじゃないっていうこともあるかもしれないけれど。

まぁ全く何も用事がないわけでもないから、いいかとスワリナにバレム族との最前線を教えてもらえないか聞いてみることにする。
アイテムは入手したけれど、戦闘経験もちゃんと積みたいからね。
誘導の光でも貰えればいいかな、と思ったのだけれど、どうも彼女は僕らを先導するといってるのだとか。

「むううっ、やな予感がするよっ!!」
「かといって、用がないから帰れっても言えないし、困ったわね。」
「誘導してもらったら、後は危ないから帰れって言えばいいさね。」
「それで行こう。」

こちらに背を向けて歩いていくメーカに、僕らは粛々とついていく。
昔どうだったかな、と思い出しながらミニマップ上で位置を把握しながら歩いていれば、右翼の辺りで戦闘が繰り広げられていた。
地の利をちゃんと活かしているようで、狭い入り口から入ってこようとしているバレム族を三対一くらいになるようにして片付けている。
向こうも不利なのをわかっているからか、魔法や飛び道具を飛ばしてこちら側の戦闘員に集られないように突っ込んでこようと努力しているようなのだけれど、ゴードン一族のほうが上手のようで、そこから先には攻め込めてきてないようだった。メーカに話を聞いてみても、暫くこの状態で膠着状態なんだとか。
こちらとしても、その入口から突っ込んでいくと逆に多対一になりかねないので、初期に侵攻された場所を取り戻せないでいるのだとか。

本来は侵入口を後ろから押さえて、内部を掃討すれば良さそうなものなのだけれど、彼らからしたらインスタンスから出ちゃうとダメだからね。
同じインスタンスが維持されるのは前はボスを倒しちゃえば外に出れば即リセット、そうでなければ数時間程度だったけれど、僕らなら外から攻めることも可能なのは大きいかもしれない。ただ、入口を見つけてあげないとならないけどね。


「ここから突入する?たぶんだけど、盾を構えたスワリナに女王の咆哮クイーンズ・ロアーを撃ってもらえば範囲ノックバックがかかるから、突入すること自体は可能だと思うけれど。」
「そうねぇ。でも外から入る入口、多分別にあるでしょ?あたしたちみたいに光で誘導されてくるならさ、そのまま戦闘始めちゃう人が多いだろうから、向こうの味方をする人が出てくることを考えたらそっちから突入したほうが多分楽よ。」
「さっきのやり取りでゴードン族の評判上がっちゃってるしっ、そっちから入っても遠慮なくやれるねっ?」
「こういうのは両方上がるってのはあんまり無いか…。まあいいや。外から回る方法で行こう。」

僕らは一度外に出ることにして、スワリナからまだ一緒にいようとしていたメーカに外に出ると伝えた。
…なんか、思いっきりがっくりと項垂れてるのを見るとちょっとかわいそうな気もするんだけど。でもこう、ペット的な感じで一緒にいたいみたいな感じじゃなくて、婿にどうこうって話だからね。そっち方面は今の所は十二分に間に合ってるし、ケモナーでもないから。

きっと、コントラクトサーバントすれば百パーセント成功しそうな気もするけど。
って、そうか。

「コントラクトサーバントしちゃえば、送還してついてこなくしちゃえるんじゃないの? 最初の頃、スワリナもそうしてたし。」

みんなからジト目で見られている気がする。純粋にいい手だと思ったんだけどな。

「ブリューマスターって役職があるんだから、彼女と契約したらここの人たちが困るんじゃないの? ココット。」
「いえす!きっとそうだよっ。やめようっ。」

思いとどまらせよう、という感じで二人が畳み込んでくるのを聞いていると、逆に契約しちゃいたい気持ちにもなってくるのが不思議なところで。
ふと、スワリナを見るといつのまにか何かメーカと話し込んでいた。
メーカは大きく頷いたり、首を振ってみたりと何やら忙しそうだけれど、こっちをチラチラ見ながらスワリナと会話を続けている。
その視線に気がついたのか、バーニィがスワリナに何か言おうとそちらを振り向いたのと同じタイミングで、スワリナがこちらに向けて言葉を発した。

「メーカは主のものになりたいそうさね。仕事はチーフに一言言伝れば何も問題ないらしいさね。」
「のーうぇい!!!!あ、あ、!!」

顔を真赤にしてダメだと言いたい様子のバーニィはもちろんかわいいんだけどね。
ラザロは自分も後発だからか、苦笑していた。

「ちゃんと序列は守るそうさね。あと、あたいやヨメにもふかふかの毛皮触らせてくれるって言ってるさね。」
「あたしはオッケーよ。」
「!!ふ、ふかふか、もふ、もふ…。」

まるで掌返しのように食い気味でラザロがオッケーし、もふもふすることを考えて悶始めたバーニィを見て、まあそういう事をするって約束するわけでもなし、と僕はコントラクトすることに決めた。
そうなれば、後は実際にコントラクトサーバントしてしまったほうが会話が可能になるだけ早そうだし、とコントラクトサーバントを唱える。

『我に従い、我に仕えよ。献身を持ってその証とせよ。コントラクトサーバント。』

淡い緑の光が僕からメーカへと伸び、彼女を包み込む。光は一瞬輝いてからヨーカに吸い込まれていくと同時に、彼女を光の粒へと変えて消滅させる。
これまでずっとスワリナを召喚していたこともあって、スキルは充分二体目のサーバントを召喚できる値になっている。すぐにヨーカを喚び出すと、目の前にふわり、と現れた。

「主、契約ありがとうございます!!!」

そういって抱きついて来ようとするのをバーニィが押し留めようとして一緒になって抱きしめられた。
コボルト達、結構腕長いんだよね…。
メーカはしっかりと鎧を着込んでいるから、もふもふっとしないでバーニィは固い鎧と僕の体からサンドイッチされる形になってしまう。救いは僕がローブしか来てないことくらいかな。

「もがぁっ」
「おっとと、バーニィが潰れちゃうからそのへんで。」

メーカを引き離し、チーフに報告に行ってもらう。僕らは一応待ってたほうがいいのかな、ということで一度戦闘をしてみることにした。
戦闘しているコボルト達に突入するからと声を掛け、コボルト達の攻撃でバレム側が少し引いた瞬間を狙って突入する事を説明した。
向こうもいつも通り、突入なんてしてこないと思っているところへの突撃だろうし、なんとかなるだろうしね。

バレム族が寄せたところにゴードン一族が攻撃を集中し、こりゃたまらんと引いたところで射線を開けてもらい、風魔法で吹き飛ばすのを狙って押し込む。

『風よ、塊となりて敵を撃て。ウィンドクラスター』

僕の魔法を合図に、みんな一斉に駆け込む。
よくよくみると便乗しようという感じなのか、コボルト達も数匹順序よく入っていく。抜け目ないなぁ。
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