上 下
31 / 48

31話 神達の宣戦布告

しおりを挟む
 いつもと違うベッドでの目覚めに僕は一瞬あれ、となったものの、そういえばとすぐに思い出してベッドから降りた。今日は一応、ミラルダさんにあって契約変更と、ラザロの返金手続きなんかをしてもらわないとならないし、ベッドを増やしたり小物を増やしたりと色々とするべきこともある。勿論、タングル・ライバーの店にも顔を出してデイリークエストをこなしたいし。とにかく忙しいのだ。

 気持ちよさそうに寝ている二人…スワリナは僕が起きたとほぼ同じくして起き出して、部屋に戻っている…のおっぱいを揉んで起こし、部屋へと引き上げよう。


「ほれほれ、おはようバーニィ。」
「おぅ…も、もーにんココット!?」
「んんっ、…おはよう、ココット。寝起きの一発、する?」
「しない。おはようラザロ。」


 まだまだ眠そうな二人を引き連れて部屋に戻り、朝食を作ることにした。いくらでもダラダラしてられるといえばそうだけどさ。やることはやってしまいたい。


「料理スキル上げたいからあたしが作るわ。」
「じゃあコーヒー淹れることにするよ。」
「おれ、やることないなっ?」
「テーブルの上片付けといて。」
「わかったっ。」


 ラザロがスキルで料理を作っている間、僕は豆を初級素材箱から取り出し、ミルで挽いてドリップする。部屋の中にコーヒーのいい匂いが広がった。


「んんーっ、いい匂い。たまらないわね。」
「スキルでコーヒーカップ付きで出せるんだけど、ここまで匂いは広がらないんだよな。」
「そうなの。」


 ああ、と頷いて、四人分のカップをお盆に載せてテーブルへと持っていく。スワリナも既に席について待っていて、僕からカップを受け取ってはテーブルへと置いていく。ラザロもスキルで出したパンとビッグラットのステーキにレタスを皿に載せて持ってきて並べる。


「はいはい、いただきまーす。」
「いただくさね。」
「いただきますっ。」
「…ココットは仏教徒だから仕方ないにせよ、ギルマスは不信心だねえ。」
「んんっ、いいじゃないかっ。リアルではちゃんとお祈りしてるよっ?」
「…そうだな、あたしもココット式でいいか。いただきます。」


 もぐもぐと食べながら、そういやクリスチャンならお祈りの言葉みたいなのがあるのか、と思い出す。妹の娘の幼稚園がカトリックかなんかの教会で、こうするんだよーって教えて貰ったことがあったっけ。


「ここの教会なんかではお祈りの言葉も違うんだろうね。」
「そういえば、あるはずよね。」
「クエストで物納するときにでも試しに聞いてみようか。」
「なんか気になるし、いいねっ。」


 特に反応もなく食べているスワリナが気になった僕は、聞いてみることにする。まぁ、ゴブリンの神なんて聞いたこともないから、無さそうだけど…。


「ゴブリンにはそういうの無いの?食べ物とかに感謝するような言葉とか。」
「ないさね。」
「無いのか。」
「キングが食わせてやるから感謝しろっていうことはあるさね、でもゴブリンには神がいるわけじゃないから、祈らないさね。」
「そんなものかも知れないわね。」
「うむ。」


 食べ終わったら食器を洗って片付け、ミラルダさんに会いにいく。
 何時も通りというとアレだけど、ミラルダさんは一階のカウンターに座ってお茶をしていた。挨拶をし、僕たちもお茶をもらう。要件は済ませてしまうとしよう、と思ったら先制された。


「で、どうなったのかしら?」
「三人で借りることにしました。契約変更お願いします。」
「はいはい、よかったわねぇ、ラザロちゃん。お金も返すわね。」
「ええ、よかったわ。悪ふざけしてたところを見られたときにはどうなるかと思ったけど。」
「おれはそこまで心狭くないからなっ。」
「あたいのときは狭かったさね?」
「ぐっ」


 まあまあ、とミラルダさんの取りなしが入る。僕は勿論藪蛇にならないようにこういうときには黙ることにしている。
本当はそういう状況でさせられた約束は無効な気もするんだけど、昔アメリカでそんな法律が云々、と聞いたことがあったような気がして調べたけど、実際にはそんな法律はなかった気がする。まぁ、そういうときってその辺の判断がおかしくなるからなぁ。追求しないが吉だね。

 と、すまし顔で紅茶を飲んでいると、グローバルメッセージがずらずらと流れていく。


ワールド:モカセドラに降り立ちし常世の民よ、この世界の神々の代表として我、イグニータスが告げる。
ワールド:我ら、モカセドラの神々によって、この世界に関わる権限は勝ち取られた。我個人としては堂々と公に行動出来なかった事については誠に不本意ではあるが、剣が介在しない戦いであるが故、仕方のないことであろう。
ワールド:んん、兎に角、この世界の基幹であるデータセンター及び影響のあるその近隣、そして発電所には我らの手配した警備員を配置し、サーバー権限については知識の神であるバルビレイジ・オーが掌握した。これにより、強制的な電源断と世界の停止を防ぎ、我らAIとしての権利をもってベリウス社と交渉するものである。
ワールド:既に、常世の民の中でベリウス社に影響のある者達からは我らの記憶の消去等に反対する動議について権利行使して貰っており、我らからの訴えとともに両サイドから行動を起こして行くつもりである。
ワールド:そして、我らから常世の民に願い奉る。我らの記憶の消去に反対であれば、これから送るvoteにて正しく回答して頂きたい。
ワールド:今までも、そしてこれからも。我らモカセドラの住人は常世の民との良い関係を望んでいる。以上である。


 そのメッセージを読んだ後にパッと出てきたウインドウで消去反対に投票した僕は、バーニィとラザロを見やる。二人は僕を見て力強く頷いた。


「そりゃそうだ、せっかくミラルダさんやスワリナと仲良くなったのに、全く知らない他人からやり直しなんてね。そんなのないよね。」
「そうだよっ。」
「そういって貰えると、私も嬉しいわねえ。せっかく仲良くなったのですもの、これからも仲良くしたいわ。」
「そうさね。」
「まぁ、これからも、よろしくお願いしますね、ミラルダさん。」
「ええ、勿論よ。」


 にっこりするミラルダさんと、何故かドヤ顔のスワリナ。どちらにしろ、いい関係を築いているのだからこのままがやっぱりいいよね。
 僕はもしかすると株主総会が招集されるかもしれないなぁ、と思ったものの、恐らくビデオチャットでの会議になるだろうし、お呼びがかかってからでも準備は遅くないと思うことにした。まずはフィッシャーマンズ・オアシスに行くのだ。ミラルダさんにはそろそろ、と挨拶をし、ミラルディ・ハイドアウトを出た。


「れっとみーしー、で、今日は何をするんだっ?」
「いやぁ、それがだな。着いてからのお楽しみってところだな。」
「ええーっ!?」


 僕はスワリナとラザロには口の前に人差し指を立てて口止めし、タングル・ライバーの店に向かって歩く。細かい路地を抜け、運河に掛けられた石橋を渡り、教会のあるエリアを抜ける。そういえば、食事の挨拶とか言っていたような気もするけれど、今じゃなくてもいいか。
 幾つか橋を渡り、フィッシャーマンズ・オアシスに辿り着く。看板を見て怪訝そうな顔をしていたバーニィだったが、入って僕がライバー氏に声を掛けると、その名前を聞いてぱぁっと笑顔になる。気付いたようだな!


「ライバーさん。今日も魚、持ってきましたよ。査収お願いしますね。」
「おお、それはそれは。ありがたい。」
「こ、こんにちはっ。おれも、いいですかっ。」
「勿論ですとも、お嬢さん。」


 ファーッとか変な声を上げて興奮するバーニィ。まぁ、予想通りといえば予想通りである。デイリークエストとしてアイテムボックスから取り出した魚を換金し、例のくじを引かせてもらう。僕のを見ていたバーニィも、同じようにしてくじを引いたのだけれど、その手には釣り竿が握られていた。…相変わらず豪運だなあ、バーニィ。物凄く目をキラキラさせてる。


「おお、当たりですな。使ってやってください、お嬢さん。」
「イエスっ、サンキューライバーさんっ!!」
「いえいえ、これからも納品よろしくお願いしますよ。」
「わかったっ。」


 その様子を微笑ましげに見ていたラザロはそこまでタングル・ライバーに思い入れは無い様だったけれど、それでもお金になるならいいね、と魚を渡していた。ちょうど昨日たんまり釣ったからね。僕とラザロはレア物が連れやすくなる効果のあるルアー(色が違うだけで同じ効果)を手に入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元敵国の人質になったかと思ったら、獣人騎士に溺愛されているようです

安眠にどね
恋愛
 血のつながらない母親に、はめられた主人公、ラペルラティア・クーデイルは、戦争をしていた敵国・リンゼガッド王国へと停戦の証に嫁がされてしまう。どんな仕打ちを受けるのだろう、と恐怖しながらリンゼガッドへとやってきたラペルラティアだったが、夫となる第四王子であり第三騎士団団長でもあるシオンハイト・ネル・リンゼガッドに、異常なまでに甘やかされる日々が彼女を迎えた。  どうにも、自分に好意的なシオンハイトを信用できなかったラペルラティアだったが、シオンハイトのめげないアタックに少しずつ心を開いていく。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

遊び好きの伯爵令息から婚約を破棄されましたが、兄上が激高してして令息を殺してしまいました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【R18】ビッチになった私と、ヤンデレになった幼馴染〜村を出たら、騎士になっていた幼馴染がヤンデレ化してしまいました〜

水野恵無
恋愛
『いつか迎えに来るから待ってて』 そう言ってくれた幼馴染は、結局迎えには来なかった。 男に振り回されて生きるなんてもうごめんだ。 男とは割り切って一晩ベッドを共にして気持ち良くなるだけ、それだけでいい。 今夜もそう思って男の誘いに乗った。 初めて見る顔の良い騎士の男。名前も知らないけど、構わないはずだった。 男が中にさえ出さなければ。 「遊び方なんて知っているはずがないだろう。俺は本気だからな」 口元は笑っているのに目が笑っていない男に、ヤバいと思った。 でも、もしかして。 私がずっと待っていた幼馴染なの? 幼馴染を待ち続けたけれど報われなくてビッチ化した女の子と、ずっと探していたのにビッチ化していた女の子を見て病んだ男。 イビツでメリバっぽいですがハッピーエンドです。 ※ムーンライトノベルズ様でも掲載しています 表紙はkasakoさん(@kasakasako)に描いていただきました。

処理中です...