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27話 ラザロ・ドランクコーク

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 あたしがネットワークゲームに没頭し始めたのは、息子が高校シニアハイに入る頃だっただろうか。それまでも子育ての合間に、仕事の合間にとちょこちょこと色々なゲームを遊んでいたものの、長い時間を掛けて遊ぶほどの余裕は無かった。
 生まれ育った環境から、一旗揚げようと移住する旦那に息子を連れて付いて行ったはいいものの、今まで生まれ育った地元で作り上げたほどのコミュニティがすぐにできるわけでも無く、旦那は仕事で常に忙しくしていて家には寄り付かず、息子はそんな母親の事なんてどうでもいいというか、反抗期でうるせえババアとかいって憚らず、その割に柔軟性の高さを見せて友達をたくさん作り、遊びに行ったり反抗期のクセに友人を家に連れて来たりととても忙しい様子だった。

 最初はそれでも旦那にも息子にも手間暇かけて構っていたのだけれど、必要じゃ無いなら別に良いじゃない、と割り切る事にしたのだ。それでも地域の中に出て行くのは億劫だったし、息子がある程度大きくなっている、とは云ったってもあたしは十四で妊娠が発覚して十五で産んだわけで、三十になったばかりのあたしはまだ若い部類に入るらしく、外で一人遊び歩くのには危険がある。そこで目を付けたのが、息子達がワーワーギャーギャー言いながら遊んでいた、True Adventureである。家事なんて狭い家の中ならすぐに終わる。仕事に行っている旦那に学校に行っている息子。やつらは昼飯なんて放っておいても勝手に買って食うし、晩飯も帰ってくるかすらわからない旦那の分と、息子の分は適当に作って置いておく。

 早速廃人プレイをし始めたあたしに息子は最初は奇異の目を向けたけれど、口うるさくあれしなさいこれしなさいとか言わなくなるなら問題は無かったらしい。まぁ、ババアがゲームとかトロくさいのに何を、とか言い出したから、効率良いやり方教えなさいよとか程度は構ったけれどね。それで面倒くさいとかいいながらもそれなりにコミュニケーションを息子が取るようになったから、結果としてはよかったのかもしれない。

 だけれど、肝心の旦那がいただけない。あたしが旦那に構わなくなったことを一旦は浮気でもしてるのかと疑ったようなのだけれど、そもそも放置していたのは旦那の方で、仕事にかまけてあたしを蔑ろにしてきた事を突っついてやると、誰が食わせてやってるんだとかブチ切れて大暴れ。後ろ暗い所でもあると思ったのだろう、探偵にあたしの事を調べさせたみたいなのだけれど、そもそもゲームに熱中し始めた時点で食材やら何やらの類は宅配で頼んでいたし、家に篭ってゲームをしているだけだったからね。ちょっと外出した時につけられていたのに気付いたあたしが探偵を締め上げてやったら、依頼された事を吐いたから、あたしは好きなだけ調べると良いよと言ってやったし、結果として何も出ないのは当然の事だったからね。まぁ、それで旦那への愛に冷めたあたしは何も気にすることが無くなって、更にゲームに熱中することが出来たんだ。

 そんなこんなで息子とはゲーム絡みでコミュニケーションを取っていたから、若くして結婚するとなった時にもちゃんと話をして相手の女の子とも仲良くなれた。…旦那はその頃になっても仕事仕事って言って息子が彼女を連れてきた時にも帰ってこなかったけれどね。

 そんな旦那が死んだのは、孫が生まれて半年の頃だった。働き過ぎて心不全。健康を維持するための努力を怠っていたというか、仕事では成功していたのに仕事が大好きで休みも取らずに働いていれば、食事にどんなに気を使っていたとしてもダメだっただろう。幼馴染だった旦那に対する愛は冷めていたけれど、流石に死んだ時にはちゃんと妻としての役割は果たして葬式やら遺産分与やらはしっかりとした。旦那はそんな妻でも一応愛してくれてはいたらしく、自分が長くない事が分かっていたのだろうか、あまり税金が掛からないように整えてくれていたのである。あたしはありがたくそれを受け取ったけれど、自分がこの先生きていくのには充分すぎる金額だったことで、住まいを引き払ってあまり人付き合いの面倒が無さそうな所に引っ越しをする事にしたのだ。息子は婿入りしたし、不要な、というかゲームに没頭して遊ぶだけの生活に必要な物だけを残して綺麗さっぱり売ったり捨てたり息子に押し付けたりして、そこそこ治安の良い所にある小さなアパートメントに引っ越してゲームに没頭したのだった。

 バーニィとの出会いは、その当時人気な狩場での事だった。その場所はモンスターの沸きが良く、入り組んだ地形の両端に陣取れば何とか二つのグループが共存出来る場所で、メンバー募集に応じて参加して来たのがバーニィだったのだ。あたしは既に一時間程その場所で狩を続けていただろうか。入れ替わり立ち代わりに人が抜けたり入って来たりし、いつの間にかあたしがリーダーになっていたのだけれど、モンスターを引っ張ってくるプルしてくる役もしていた為、てんてこ舞いになっていた所をバーニィが人の管理やドロップ品の管理まで受け持ってくれたのだ。チャットで参加してくる人への対応や、抜ける人への戦利品の山分けなんかをしてる間にモンスターを反対側のグループに持っていかれるなんて事も無くなり、グンとリズムが良くなったのは覚えている。それでも相手方も流石と言うべきか、リズムが良くなったこちら側に負ける事なくモンスターを取っていく。後になってバーニィに聞いた事だけれど、相手方にはココットがリーダーとして指示を出していたらしく、個人チャットではココットに手加減してくれと頼んでいたらしい。

 その後数回、野良で一緒にグループを組む事があった事で意気投合し、バーニィの率いるギルドへとお世話になる事にした。バーニィの率いるギルドは後にレイドもバリバリこなす一線級のギルドになったけれど、あまりギスギスする様な事もなく、人の良さが良い感じに出たギルドだった。偶にレイドのドロップアイテムで揉める様な事もあったけれども、それが原因で脱退する様な人が続出なんて事もなく、MMO自体の衰退、追加コンテンツの同じ様な内容の焼き直しによる人員減以外で特に人も減らず、とても良いギルドだった。

 ココットとはバーニィと同じ様に野良で何度も一緒になって気が合う仲間となったが、ココットはバーニィのギルドには参加しなかった。あたしとしては下ネタも話せる上にリアルを聞いてどっかで会おうとか寄ってこようとしない貴重な友達と話すのは大好きだったから、ギルドに参加してくれないのは残念でバーニィと二人でしつこく誘ったものだった。
 その後暫くしてからチャットチャンネルという、ワールドワイドで複数人が同時に会話の出来るシステムが追加されてからは、同じギルドじゃなくても話せればいいか、と互いにログインしていればどうでも良い話で盛り上がれる関係に落ち着き、バーニィとココットがゲーム内で結婚してても御構い無しに性的な事も含め色々な事を話したものだった。

 レイドが無い日にはココットを誘っては少人数でダンジョンに潜ってアイテムキャンプをしたり、ココットがクエストをしたい、と言えば有り余る時間を使って交代で数日間クエストアイテムが出るまで狩り続けたり。逆に大人数が必要なクエストではココットに参加してもらい、生産アイテムを提供してもらったりと、その関係はTAVRが出るまで、つい最近まで続いていた。何せ、TAはVRが出る事でサービスの提供を終了したんだけれど、最終日までしっかり遊んでいたのだ。キャラデータはVRに引き継がれないのは分かっていたけれど、チャットで話していたかったし、TAをしっかり覚えていたかった。

 ココットは普通にココットの名前で出資者リストに名前を連ねていたのだけれど、あたしはオプションが全て貰えるほどの投資が息子に知られるのもアレだ、という事でバレない様な名前を使って投資したおかげでココットにすらアルファテストから参加するのが知られていない始末だったのは失敗だった。VRをプレイする事自体は伝わっていたはずだけど。

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