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14話 日用品

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 どちらにしても、最初にログオフするのは三週間後くらいになる予定なんだけどね。PDT朝八時に開始されたアルファテストだから、お昼には一旦ログオフして昼飯を取ってもらったりして来てもらう予定にしている。僕も同じくご飯やらトイレやらその他諸々を済ませてくるつもりにしてるから、タイミングを合わせてログインし直すつもりなのだ。元々僕もバーニィも廃人と呼ばれるクラスタの人間だから、正直飯も食べずに遊び続けるのはそこまで苦にならないのだけれど、今までのゲームと違ってささっとトイレに行ってくる!と言って抜けると一日から半日は帰ってこないとかそういう感じだし、ゲームをするには健康でなくてはならないから、睡眠もしっかりと取りたいのだ。…バーニィはともかく、僕はもう良い歳したジジイだからね。


「よし、それじゃあ…。」
「お皿、お皿っ。」


 今朝もそうだったのだけれど、スキル外で何かをすると途端に生活に必要な道具がたくさん必要になってくる。サンドイッチを作っても置く皿が無いとか、水を取り出してもコップ一つ無いとか。当然、せっかく備え付けのキッチンとかがあっても使いようが無かったりする。初級生産室のキッチンには一応調理に必要な刃物から何から揃ってはいるけれど、お皿は無い。なにせ、スキルで例えばビッグラットのステーキなんかを作ると、可もなく不可もないような、食べ終わると自動的に消滅するようなお皿が付いてくるのだ。必要が無いし、ゲーム内で普通に暮らしたいなら生活に必要な物品は作ってね?という事なんだろうと思う。

 僕はバーニィが隣で見ている中、木工スキルでお皿やらカップやらを次々と作っていく。必要個数プラスひとつ。ミラルダさんが来たりする事を想定して足してみたり。ついでに鍋敷きなんかも端材を組み合わせたりして作る。この辺はスキル外だったりするけれど、遥か昔に鑿や鋸を使って小さな椅子なんかを授業で作ったりした事を思い出しながら、ハンマーでコツコツと溝を切って組み合わせていく。半ば手慰みというか、気分転換的にスキル外で少し時間を掛けて作ったりするのは楽しいなぁ、と思いながら、バーニィは暇じゃないのかと思ってバーニィの方を見ると、真似してみようと思ったのか、ハンマーで鑿ではなくては手を叩いている姿を目撃した。…痛そうだ。まぁ、ステータスの振り方的にSTRちからAGIびんしょうを重視してるっぽいからなぁ。STAすたみなも必須である事を考えればDEXきようWISはんだんに振ることが出来るポイントは限られてるからね。


「ぐぬぬ…。ココットはDEX高いんだったっけかっ?」
「ああ、高くしてるよ。不器用だったら上手く物が作れないからね。僕が生産と魔法寄りにしてるのは知ってるよね。」
「うんっ。でも見てると楽しそうなんだよっ。」


 バーニィの頭をぐりぐりと撫で、三つ目の鍋敷きを作る。既に木工のスキルはモリモリと上がって、四十を超えてきている。まぁ、目当ての生産物があるんじゃないから、スキルをガンガン上げなくちゃ、という訳でも無いのだけれど、木工や建築といったスキルは生活を豊かにするのに役に立ちそうなんだよね。それに、一応暇な時に何か役に立つかもしれないと思って、ウェブサイトで木材の継ぎ方なんかを何となく眺めて、こういったものもあると覚えてたりする。実際にそれが作れるかと言われるとやった事がないからわからないけれど、木工スキルが上がるにつれてきっと補助的な事になってくれると思うんだよね。
 バーニィからのリクエストで今度はフォークとスプーンを作る。一応、これも鍛治のレシピにあるのだけれど、無かったらこんな細かい作業、どうやったら良いんだという感じだよね。スプーンはハンマーでコツコツと叩いて出来ちゃうし、フォークはハンマーで大まかな形にした後、ヤスリをちょんと当てたら完成してくれる。…しかし、綺麗な色をしてるけど、すぐ緑青吹いちゃうんじゃあ危なくて食べられないんだけど、その辺りはどうなってるんだろう。それが気になって銅のタンブラーも作るか迷ってるんだけど。


==========
銅のスプーン
DEX+1

銅で作られたスプーン。
製作者:ココット・ジェリー
==========


 …今の所問題ないって事かなぁ。鉄が手に入るようになったらまた作るしかないか。


「ワッツアップ、何悩んでるんだっ。」
「いや、ほら、銅って緑青吹くよね。緑青って毒だから、どうなのかな、って。」
「オーマイガッ、緑青が毒って古いよっ。映画とかで出てくるのは精錬技術がまずくてヒ素が溶け出してくるからだって話だよっ。普段からちゃんとお手入れすればいいんだよっ。」
「そ、そっか。おじさん昔に聞いた事をそのまま覚えてたよ…。」
「ノーっ!そういう意味じゃないのにっ!?」


 これもジェネレーションギャップなのか、と気持ち項垂れた僕にバーニィが焦った様子で抱き着いてくる。鎧の上からじゃなければなぁとか考えつつも、だからね、とか焦って話しているバーニィの頭を撫でる。


「問題無いならいいんだ。…そうだ、初級の宝石細工でガラス玉の扱いがあったんだった。頑張ってこう、コップのようなものを作れないかな?」
「…俺には無理だけどっ、ココットならいけるんじゃないっ? 動画とかでやり方調べるのも手だよねっ。」
「何度かテレビでやってるところを見たから大雑把には覚えてるんだけどね。」


 まぁ、作る事に固執する必要もないか。今の所がっつり生産したから、レベルも上がって来ているし、既にギルドランクもKから一つ上がってJランクになってるわけだし。戦闘ビルドのバーニィとしては、少しは戦いたいだろうしね。僕は部屋着に使えそうな裁縫の生産物を幾つか作ると、一度生産を切り上げる事にした。


「水を飲むためのカップにお皿、サラダなんかを盛り付けられるようなボウル。フォークとスプーンに、箸。一応お玉とフライ返しにフライパンも作った。部屋着も最低限は揃えたし、後はちょっと依頼でお金を稼いでから、お店を冷やかしてみようか。」
「そうだねっ。デートっ!デートっ!」
「お、おう。」


 家で使う物はキッチンとかに片付け、嬉しそうなバーニィを連れて冒険者ギルドへと向かう。昼に近くなって、旧市街には人が溢れている。路上で屯してこちらを値踏みする者、物乞いをする人達、そして痩せてはいるけど元気な子供達。今日は天気も良いし、過ごしやすい時期でもあるから、みんな何処と無く元気に見える。爽やかな風に僕も元気を貰いながら歩いていく。


◇◇◇◇◇


 僕らが受けたのは、ドラコルム近郊の農園でゴブリンによる作物被害が発生しているので駆除してほしい、という依頼だった。ドラコルム近郊であれば、街中と違ってモンスターが発生するのは仕方ないにしても、盗賊が根城にしている銅鉱山も近くにあるはずだ。危険性としてはそれなりにあるんだけれど、これはあくまでもゲーム。ぎりぎりの戦いで敗れて死んだとしても、ホームポイントで復活が可能なわけだし、いつまでも街中の依頼だけこなしていてもゲームの楽しみは半減する。生産スキルを上げる事で多少はレベルも上がった事だし、外に出ないとね。
 視界端のミニマップに依頼の農園の場所が強調表示されているのを確認すると、チュートリアルをした洞窟がある所の近くである事が分かった。街中ではともかく、街を出てからはちゃんと武器を担ぎ、いつでも戦闘が出来るように準備する。いつも通りバーニィと鼻歌を歌いながら歩いて行くと、道沿いに木の行き先表示が立てられており、目的の農園へ行く道はここで分かれている事がわかる。


「ココットっ、こっちだねっ。」
「そうだね。」


 バーニィはサイドテールを揺らしながら、嬉しそうにこっちを見てくる。僕はやはり多少なりとも街にこもっていた事でストレスを与えていたのかな、と思って目を眇めてその様子を見ていると、道の向こうから誰かが走ってくる様子が見えた。どんどん近づいてくるに従って、ドラグーンの女性である事が分かったところで相手の脅威度を測ってみる事にした。
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