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13話 朝食を

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 雨戸を閉めてはいたものの、隙間から漏れる朝日の中、バーニィから足まで使ってガッチリとしがみつかれた状態で僕は目を覚ました。抱き枕というには僕は大きいと思うんだけれど。まぁ、二人とも風呂にも入ってなければ体も拭かずに寝たんだけれど、一応臭くはないようで僕はホッとした。というか、そこまで再現してるのかは知らないんだけどね。
 バーニィを優しく起こすと、キスをねだって来たのでそれに応える。一応空腹になっても、戦闘時にST(スタミナ)が回復しないとか、ダッシュするとすぐにへばって走れなくなるだけなので、街にいる分には必ずしもご飯を食べることは必須ではないはずなのだけれど、この世界は空腹までしっかりと再現してくれている様子だし、どうせなら色々なことを楽しみたい。ということでパンを神の血肉スキルで取り出し、飲めば消えるボトルに入っている水も取り出す。


「出来たらレタスとハムとか、チーズとか手に入れたいものだね。コーヒーも飲みたいなぁ。」
「…料理、頑張るよっ。初級素材箱だとチーズは出せないけど、ウサギのハムとビッグラットのステーキは作れるし、サンドイッチの材料だと思うけどレタスがあるからねっ。」
「へえ。…ああ、一応コーヒー豆も初級素材箱のリストにあるのか。僕のスキルだとコーヒーを作れないみたいでリストにないけど、バーニィのリストにはある?」
「あるよっ。スキル三十五かなっ。」
「ていうか、あれか。サンドイッチとかがあるってことは、スキル五十辺りにバスケットがあるんだろうな。」
「…そうだと思うんだけどっ、俺のスキルまだ五十なってないんだっ。」


 バスケットというのは、複数の種類のサンドイッチやドリンクをコンバインして作るグループやレイド向けの食料のことで、普段食料は一人しか食べる事が出来ないのだけれど、指定した場所に展開されるバスケットや、大鍋と呼ばれる食料においては、十二人から四十八人まで食べる事が出来るものだった。勿論、ただ食べるというよりはステータス向上のエフェクトが目的だったりするのだけれど、この世界でならみんなでワイワイ食べるのも良いのかもしれないね。
 エプロンも欲しいよねっ?とか言いながらバーニィが初級素材箱からコーヒー豆とかを取り出して料理をしに生産室へと入って行く。僕もバーニィだけに初級素材箱のチャージを使わせるのもあれだから、とレタスを取り出してバーニィに手渡す。流石に料理を作れないバーニィでも、サンドイッチくらいは作れるんじゃないかなーと思っていたものの、どうにも怪しい手つきなのを見て包丁を取り上げた。


「俺も出来るからっ!」
「まぁまぁ、バーニィはコーヒーを淹れてくれるかな? 僕じゃスキルが足りないからね。」
「…ううっ、わかったっ。」


 仕事は振りつつも危ない所はさせない作戦を決行するのだ。
 僕は神の血肉のパンを二人分さっさと切り分け、低いスキルでも作れるウサギ肉のハムを作る。レタスを千切るくらいなら問題ないだろうとバーニィに手渡し、生産室内の台所の空きスペースでちぎって貰いながらウサギ肉のハムをカットしてしまう。よし。これで危なくない、と思ってバーニィから渡されたレタスを見ると、大きさはバラバラな上、洗ってない様子だった。…ありがとう、と言って受け取ってささっと水で洗い、大きさを知らないふりして調整し、パンに挟んでしまう。そういえば、皿も無いんだよなぁと思いながらもバーニィに一個手渡し、僕も自分の分を持つ事で今回は誤魔化すことにした。


「コーヒーありがとね。」
「もうちょっと俺にもちゃんと手伝わせろよっ。」
「…バレタカ。」
「もうっ。」


 プンスコしているバーニィだったけれど、やっぱりちょっとでも手を加えたものは美味しかったのだろう、サンドイッチというには若干豪快なパンを食べると、笑顔が戻ってきた。


「美味しいねっ。」
「うん、コーヒーも美味しい。」
「…俺、ブラック苦手なんだ…。」
「…牛乳とか、探してこよっか。家賃も無事払えるしね。」
「だからココット大好きなんだっ。」


 パンを片手に抱き着いてくるバーニィをいなしながらも、僕はコーヒーを飲む。僕の肩に額をぐりぐりして満足したのか、バーニィは僕の隣にちゃんと座り直すと、僕の方にコーヒーをこっちを見ない風にそそっと押し出して、ボトルの水をラッパ飲みしていた。顔を上げたことで下ろした髪がさらりと滑り落ちる様子が少しセクシーだ。

 パンを食べ終え、視界の隅で時間を確認すると朝の八時を回ったところだった。ミラルダさんは起きているだろうか。研究職の人達にありがちなのは、深夜まで起きていた挙げ句にお昼過ぎまで起きてこないという事なんだけれど、ミラルダさんがどうかまではいまいち付き合いが浅すぎてわからない。水のボトルを手に僕に寄りかかり、窓から射し込んできている朝日を浴びてまったりしているバーニィをつついて活動を始める旨お知らせした。


「まずは家賃を払いに行こう。そしたら生活必需品の製作と、依頼を受けに行くでどうかな。」
「オーライっ!」


 僕らは装備を整えてからミラルダさんの所へと向かう。…生活必需品に、普段着も入れないとダメな気がするなぁ。
 てんてんと階段を降りて行き着く先の一階のカウンタースペースでは、ミラルダさんが優雅にコーヒーを飲んでいた。カウンターの上には目玉焼きにトースト、色とりどりの野菜のサラダと僕らよりもさすがちゃんとした朝食を摂っていらっしゃる。


「おはようございます、ミラルダさん。」
「おはようっ!」
「あら、おはよう。ココットさんとバーニィちゃん。」


 ニッコリと優しい笑顔で応えてくれたミラルダさんに、早速僕の稼いだ金貨二枚を取り出して二ヶ月分の家賃を支払う。ちょっと驚いたような顔をしたミラルダさんは嬉しそうに笑うと、お金を受け取ってくれた。


「もうそんなに稼いだの? 昨日の今日なのに、お二人は優秀なのねぇ。」
「いや、ちょうどいい依頼に当たりまして。」
「頑張ったんだっ。」


 ちなみに、物件の家賃についてはヘルプ欄に記載があった。契約者がログインしている日が家賃の対象になるらしい。所有している物件はメニューからリストで表示出来るし、残日数の表示もされているのが見える。でもまぁ、ミラルダさんにはログオフする時には言っておくのが良いかもしれないね。だって、お風呂はいってご飯食べて睡眠を取って、と八時間留守にしたならば、こちらの一日はリアルの十分だから四十八日は留守にしちゃうわけだし。
 しかし、そういう計算で本当に良かったよ。だって、一ヶ月分家賃を払っても今ここで寝にリアルに戻っただけで半月分滞納する事になってしまう。それじゃあ楽しめないというか、よっぽどお金を稼いでおかないと、リアルで買い物にすら行くのにも躊躇する事になる。ただでさえ、僕とバーニィの活動時間はタイムゾーンが違っているんだからね。一応、今回のアルファテストの期間中は出来るだけ時間を合わせる事を約束していて、どちらかといえば周りに何も言われる事のない、僕がバーニィの時間に合わせる事にしているのだけれど。それは勿論サーバがアメリカに設置されているから、メンテナンスが向こうの時間の早朝とかに行われる事になる事を分かっているからでもある。サーバが落ちる予定の時間にしっかりと睡眠を取っておくのは時間を有効に活用するにはマストだからね。
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