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12話 生産物の納品

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 街灯で仄かに白く照らされた石畳は、人気の無さも相まって涼しい風を尚更冷たく感じさせている。石造りの多い街中とはいえ、この街区では余裕を持って建てられている家々の隙間から、風が強めに吹いて来ているのだ。バーニィは鼻歌をふんふん機嫌が良さそうに歌っている。僕も歌唱のスキル上げも兼ねて、知っている歌の場合には合わせて小声で歌ったりする。…カラオケなんてここ何年行ってないだろう。稼ぎが安定して、おひとりさまを決めてからは、ただでさえ少なかった外出も減った。英語が話せたという事もあって、TAでは減少してきていた日本人コミュニティに拘らずにプレイしていた結果、オフ会も開催される事が無くなったんだよね。昔は三十人でしゃぶしゃぶ屋に行ったりゲーセンで遊んだりしたもんだけれど。って、昔の事を思い出したりしている間に僧院に辿り着いた。


「すいません、冒険者ギルドの依頼で納品に来たのですが。この時間でも可能ですか?」


棍を手に立っていた、僧兵さんというか守衛さんに声を掛けた。


「大丈夫です。私が承ります。」
「えっと、それじゃあ何処かで品物を…。」
「はい、中へどうぞ。」


 守衛さんの後について僧院へと入っていく。VRになる前は何度も来たことのある場所だから、一応大まかに内部構造は知ってるわけだけれど。…というか、秘密の地下道とかも知ってます。そんな事は話せないけれど、入ってすぐ右の小部屋に案内されてそこで作った品物を並べていく。この部屋は僧兵さんの待機所というかそういった場所なのだろうけれど、掃除は行き届いていて無駄な物が全く置かれていない。壁にはシフト表みたいなものが一応貼られているけれど、セキュリティの問題なのだろうか、時間みたいなものの記載は無かったりする。


「はい、数を確認致しました。ローブを三十、杖を二十。間違いなく受け取りました。トークンは六個と四個になります。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、こちらも有用なエンハンスメントが付いてるものが多くて助かります。まだまだ受け付けておりますので、またよろしくお願いしますね。一応、依頼を受けていらっしゃらなくてもトークンを先出し出来ますから、それを持って冒険者ギルドに行っていただいても問題ありませんから。」


 一応、裁縫や木工に限らず、生産で作ったものには特定の性能が上がるエンハンスメントが付く物もあったりするのだけれど、この依頼用のレシピでもエンハンスメントは設定されている。服や杖としての品質にばらつきは出ないんだけどね。でも、エンハンスメントはランダムだから、制御出来ないんだよな、と思いながら、再度お礼を言って僧院を後にする。これから冒険者ギルドに行って報酬を受け取って、歩いて家に帰る間にまた初級素材箱のチャージが溜まっていくだろうし、そうすれば何かしら生活に必要な物も作れるかも知れない。そう思いながらギルドまで歩いていく。貰った家具も一通りなんだかんだで揃ってはいたけど、壊れている物もあれば二人で使うには小さいものもあったりするんだよね。アイテムボックスもあるとはいえ、どうせ物を入れ過ぎて溢れてくることが想像できるから、部屋にも格納出来るスペースを確保しておくに越したことはないと思う。


「ココット、そういえばだけどっ、お皿とか鍋とかって木工とか鍛治で作れるのっ?」
「んー、一応リストにはあるよ。スキルを覚えた段階で作れるようになるものって結構いっぱいあるんだよね。それに、初級生産室には木工用の轆轤まで準備されてるから、お皿とかならレシピが無くても作れる気はする。」
「へ~!すごいんだねっ。俺も試してみようかなっ。」
「スキル生えて来るかもね。」


 因みに背凭れの付いている椅子とかになると、さすがにスキル覚えたてでは作れなかったりする。僕は杖を二十本作ったから、スキルが二十三まで上がっていて小さいものとか単純なものは作れるようになってるけど。
 そんな話をしながら到着した冒険者ギルドは深夜の今でも人気が多く、カウンターにも列が出来ていた。僕らも短い方の列の最後尾について、バーニィと更にあれ作ってみようとかこれ作ってみようとかそういう話をする。ちらりと周りを見てみると、定食っぽいのを食べている人たちもいたりして、そういえばまだこの世界に来てからスキルで出したパンと水しかお腹に入れてないなぁ、と思い至った。まぁ、余裕が出て来てからでいいような気もするんだけど。
 列と言っても、せいぜい五人くらいの列だったこともあって、そこまで待たずに僕の番になる。


「これ、僧院への納品で受け取ったトークンです。」
「承ります。…はい、金貨二枚と銀貨五十枚になります。」
「ありがとうございます。」

 隣ではバーニィもちょうど受け取っていた様子で、目をキラキラさせて僕の方を見ていた。僕は頷いて返すと、受付のお姉さんに再度礼を言ってからカウンターから離れ、バーニィと合流する。


「俺の方は金貨一枚と銀貨五十枚になったよっ!」
「まぁ、クエスト受けた時点で分かってはいたけど、これでとりあえず家賃は払えそうだね。」
「エヘヘ。嬉しいよなっ。」
「ああ。でもまぁ、素材箱が無かったとしたらこんな簡単にお金稼げなかっただろうし、素材箱と生産室はアルファテストだけって話だからなぁ。ベータ以降はどうしたもんかねぇ。ミラルダさんともまた同じように会えるとは限らないし。その辺がテストだとちょっと切ないね。」
「…このままデータ引き継いでくれれば良いんだけどねっ。」
「僕もそう思うよ。これから色んな人達と関わり合いが出来ていくけど、接していても普通に人と一緒だしね。」
「うんっ。」


 僕らは明日ミラルダさんに家賃を払う事にして、まずは布団で寝る事にした。一応、ベッドは不用品の中に二つあったのだけれど、二つ並べた時点でバーニィからクレームが入って少し大きい方のベッド一つだけにされている。残念ながらまだ布団は干せていないから、少々埃っぽいのは諦めるしかないだろうね。
 ホーム帰還アイテムで帰ってきた僕らは武器なんかをアイテムボックスに片付けると、一応水を飲んでから布団に転がる。因みに、装備を全解除した後の姿は下着姿に近いものになるのだけれど、出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるバーニィの下着姿にはおじさん、正直ドキリとしてしまう。バーニィを見ているとニヤニヤしているから、どうも作戦通りと言いたいようなのだけれど。


「俺も捨てたもんじゃないだろっ? お腹もリアルから引っ込めてないし、お尻もそのままだぞっ。」
「おっさんをあまり誘惑しないように!」
「良いじゃんっ。俺はココットが大好きなんだっ。」
「…でも今日は寝よう。別に逃げないから。」
「…うん。」


 まぁ、さっきからものすごく欠伸を繰り返していたし、目もしょぼしょぼしている様子だったのは見てわかってるからね。あっさり諦めてくれるだろうとは思ってた。キスを求めてくるバーニィに優しくキスを返し、抱き着いてくるのを優しく撫でてから布団を被って睡眠を取ることにした。

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