上 下
8 / 48

8話 冒険者ギルド

しおりを挟む
 普通の酒場位の広さだろうか、六、七人は座れる丸テーブルが、カウンターに向かう人の事を考えて少し通路っぽくなっている中央を挟んで両方片側六つずつ、全部で十二個並んでいる。僕らは巻き込まれてもそれはそれで面白いかもしれないけれど、一応二列になっているテーブルの奥の方へと腰を落ち着ける。僕らの周りには一応人もいるけれど、ニヤニヤしながら絡まれているのを眺めているか、我関せずとご飯を食べているかの二択な感じなので特に問題は無さそうだ。


「…で、私にどうしろというんです? 先輩方。」
「だから言ってるだろ? 簡単な事さぁ、ちょっとこっちに来て酒でも注いでくれりゃあいいんだよ。」
「…それだけです?」
「あ? おう、それだけだ。…おめえさんが望むならそれ以上の事もやってもらうがよ、別に酒を注いでくれるだけでいいぜ。」


 グヘヘ、とスキンヘッドのガタイのいいおっさん冒険者がニヤついてはいるものの、絡まれている中性的な人、おそらく女性と思しき人はあからさまにガッカリした顔つきになった。…何を期待していたんだ、何を。
 と、何かに気づいた様子で女性は目をキラキラさせると、胸を張って言い放った。


「断るといったらどうする? さぁ、どうする!?」
「んぉっ!? つってもよぉ、おめえさんが俺の椅子にぶち当たったのを美人なおめえさんから酌をして貰うのでおあいこにしようってだけだったんだがよ。…断るっつーなら別にいいぜ?」
「えっ!?…美人…?」


 頬をポリポリと掻きながらおっさんは困惑したような顔をする。発端が何かはイマイチわからないからなんとも言えないけど、聞いてる限りじゃ女性がおっさんの椅子に足をぶつけたのが原因っぽいから、ほんのちょっとだけ難癖つけて美人の酌でもゲットしよう程度だったのかもだ。まぁ、あんまり品行不公正な事をしてるとギルドからクレームが来たりしそうだし、しつこくしすぎないようにして済ませるとかその程度なんだろうなぁ。
 ブツブツ言ってる女性を放っておいて、おっさん達は肩を竦めてまた酒を飲み始めた。…終わりかなー、と思ってバーニィに目配せをして立とうとしたところで女性が少し頬を染めた感じで仕方ないわね、とテーブルにあったピッチャーを取ると、おっさんの木のジョッキに注いだ。


「こ、これでいいんでしょ。私、依頼があるからもう行くわ。」
「お? へへ、ありがとよ。気を付けて行けよー。」


 ニヤけた笑顔になったおっさんとがそう言うと、照れたような顔をした女性がズカズカと歩いてウエスタンドアを押し開けて出て行った。


「ツンデレさんだな。…あれだ、外に出やがれ、って感じで決闘っぽくなるのをあの子は期待してたんだろうね。」
「オーマイガッ、ライトノベルの読み過ぎだよっ。」
「…バーニィも絡まれるかも?」
「ノーサンキュー。それを言ったら、ココットが女侍らせやがってって絡まれると思うよっ?」
「バーニィの方が読み過ぎじゃないの?」
「エヘヘっ、ゲームしてない時は読んでるからねっ。」


 褒めてない褒めてない、とバーニィの額をつん、と突き、僕らの用事を済ませるべくカウンターへと向かう事にする。
 カウンターにはドラグーンのお姉さんが二人ほど座っていた。一人は現在進行的な感じで接客中というか、何やら手続きをしている様子なので僕らは隣の方の人に声を掛ける。


「すいません。登録をしたいんですけど。」
「はい。そちらの方もですか?」
「いえすっ、俺もだよっ。」


 元気印なバーニィに、お姉さんの頬が緩む。カウンターに置いてある十五センチ四方位の箱を僕らの前に持ってくると、ある場所を指す。


「ここに指を置いてもらっていいですか。あ、一人づつですよ。」
「はい。」


 僕がまず先に、と指を置くと、システムメッセージが流れて登録された事を教えてくれる。と、同時にお姉さん側に小振りなカードがぺろり、と出て来たのが見えた。それをお姉さんから受け取ると、バーニィも続いて登録処理をする。


「一応、公的な身分証にもなりますけど、ギルド以外で提示を求められるのは関連施設の利用時くらいだと思います。一応、再発行は出来ますが、結構いいお金が掛かりますから無くさないようにしてくださいね。」
「まぁ、ドラコルムに入るのも普通に通り過ぎてきたしねえ。」
「ええ、他の種族の首都も似たようなものだと思います。」


 じっとカードを見ていたバーニィが早速アイテムボックスに仕舞い込み、お姉さんに質問を投げかけた。


「関連施設って何があるのかなっ?」
「提携している安宿と、訓練施設ですね。あと、ギルド内で飲食をするのが安くなったりしますよ。」
「宿屋はどれくらいのお値段なのっ?」
「食事無し一泊一銀貨ですね。とは言っても、人一人横になる事が出来るかどうかのせまーい個室に藁のベッドですから、早くちゃんと稼ぐようになって普通の宿に泊まることをお勧めします。雑魚寝じゃないので女性でもそれ程危険では無いですが、それでも問題が起こる事もありますからね。」


 そして、バーニィはワクワクしてるような顔で質問を続けた。あれか、そろそろあれを聞くのか。


「ね、依頼の仕組みってどうなってるのかなっ?」
「依頼は街の人たちが出してくれるものや、商人の方達が護衛を求めたり、品物を求めていたりと色々ですね。ただ、その難易度から受けられる人というのが限られて来ます。その判断にはギルドランクというものが用いられています。」


 バーニィはとても興奮した様子で、落ち着きが無くなり始めて来ている。うーむ。


「ランクはですね、KランクからAランクまであります。昇格する条件には依頼達成件数とレベルが関係してきます。基本的には必要なレベルは各ランク毎に十区切りになってますから、わかりやすいと思いますよ。」
「そっか、レベル十まではKランク、レベル百でAランクか。」
「Sランクとかはあるのっ!?」


 お姉さんがにっこりと笑って言う。


「ありますよ。ただ、Aランクで色々な条件を満たして初めてSランクになる、という形ですから、今はSランクの方はいらっしゃいませんね。」
「ふおーっ!」


 バーニィが、がたんがたんと騒ぎ始めたけれど、どうも止めようが無いというか。とりあえずどうどう、と宥めてみる。


「ノーっ! 俺は馬じゃないぞっ!?」
「まぁまぁ、いいから落ち着くように。周りの人から生温かい視線で見られてるぞ?」
「ふぐっ…。」
「あんまり騒ぐと追い出されても知らないからね。」
「…これくらいなら、皆様同じ反応をなさる方も多かったですし、問題ありませんよ。」


 ぐぬぬ、となっているバーニィにお姉さんは優しい微笑みを向けてくれた。それで、とお姉さんは壁の方を指差した。


「そちらの伝言板に依頼の紙がたくさん貼ってありますので、もし受けるようでしたら依頼の紙の下側が短冊状になっていて、クエストの受注番号なんかが書いてあるところがありますから、切り離して持ってきてください。紙の右上には大きく受注可能な最低のランクが書いてありますから、それを目安にしてくださいね。」
「わかりました。見てみますね。宿代を稼がないと。」
「最低金額がありますから、それなりに収入を得ることは出来ると思いますよ。頑張ってくださいね。」
「サンキューっ。」


 僕らは伝言板の前へと移動すると、先程女性に絡んでいたおっさんがふらりふらりこっちにやってくる。…定番のイベントだろうか、と思っていると、おっさんが声を掛けてくる。…こら、バーニィ。目をキラキラさせないように。


「おう、おめえら。カウンターの声が聞こえてたんだけどよ、今日が初仕事か?」
「ええ、これから初仕事を探そうかと。」
「いえーすっ。」


 さっき女性からは訳のわからない反応をされただけに、普通に答えた僕らに気を良くしたのか、おっさんは幾つかの依頼書を指差し、この手のは金額の割にキツイとか、あの魔法があれば楽チンだ、とか教えてくれる。


「よおし、色々教えてやったんだから、いっちょそこの元気な姉ちゃんよう、いっちょ酒注いでくんねえか。」
「依頼受けてからでいいかなっ? 一応俺、ココットの嫁さんだからホントに一回注ぐだけだぞっ?」
「おう、それでいいさ。ジョッキ空にして待ってんからな。」


 女の人に酌をしてもらうのが好きなおっさんなのかな。まぁ、根は親切な人なんだろう。どうしてもスキンヘッドで悪人顔なだけに、普通に笑顔を浮かべてもニヤニヤになってしまうようなんだけど。僕らは依頼の番号をメモると、またカウンターへと戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元敵国の人質になったかと思ったら、獣人騎士に溺愛されているようです

安眠にどね
恋愛
 血のつながらない母親に、はめられた主人公、ラペルラティア・クーデイルは、戦争をしていた敵国・リンゼガッド王国へと停戦の証に嫁がされてしまう。どんな仕打ちを受けるのだろう、と恐怖しながらリンゼガッドへとやってきたラペルラティアだったが、夫となる第四王子であり第三騎士団団長でもあるシオンハイト・ネル・リンゼガッドに、異常なまでに甘やかされる日々が彼女を迎えた。  どうにも、自分に好意的なシオンハイトを信用できなかったラペルラティアだったが、シオンハイトのめげないアタックに少しずつ心を開いていく。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

遊び好きの伯爵令息から婚約を破棄されましたが、兄上が激高してして令息を殺してしまいました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【R18】ビッチになった私と、ヤンデレになった幼馴染〜村を出たら、騎士になっていた幼馴染がヤンデレ化してしまいました〜

水野恵無
恋愛
『いつか迎えに来るから待ってて』 そう言ってくれた幼馴染は、結局迎えには来なかった。 男に振り回されて生きるなんてもうごめんだ。 男とは割り切って一晩ベッドを共にして気持ち良くなるだけ、それだけでいい。 今夜もそう思って男の誘いに乗った。 初めて見る顔の良い騎士の男。名前も知らないけど、構わないはずだった。 男が中にさえ出さなければ。 「遊び方なんて知っているはずがないだろう。俺は本気だからな」 口元は笑っているのに目が笑っていない男に、ヤバいと思った。 でも、もしかして。 私がずっと待っていた幼馴染なの? 幼馴染を待ち続けたけれど報われなくてビッチ化した女の子と、ずっと探していたのにビッチ化していた女の子を見て病んだ男。 イビツでメリバっぽいですがハッピーエンドです。 ※ムーンライトノベルズ様でも掲載しています 表紙はkasakoさん(@kasakasako)に描いていただきました。

処理中です...