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4話 バーニィ・フルスイング
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僕は先程炉の近くに居た、おそらくNPCだろうと思う人に声を掛けてみた。ろくにチュートリアルもせずに外に走っていく人も見受けられる中で、生産の方はそこまで人気が無いのだろうか、所在無さげにしていたり、かと思ったら思い出したかのようにリベットみたいな物を作ってみたりと暇そうにしているドワーフっぽい背の低いおっさんである。
「あの、鍛治のチュートリアルって。」
「あ!あ、ああ、俺がやってるよ。そうか、鍛治してくれんのか。」
「まだどれをメインにしてみるかはお試しって段階ですけど、まずは生産の代表というか、鍛治をと。」
「そうだろう、そうだろう。代表的な物だよな。よし、生産に必要なスミスハンマーは貸してやるから、まずはこの銅のスタッドを一緒に作ろう。一応、レシピとスキルを使った簡易型のやり方がチュートリアルで教える方なんだがな、一番最初に来た兄ちゃんには特別だ。他のやり方も教えてやろう。」
「ありがとうございます。」
クエストダイアログには『チュートリアル:鍛治』と、『クラフト:手作り』の二つが登録された。ドワーフのおっさんはにこやかに素材である銅鉱石を取り出すと、これがまずはスタンダードなやり方の方だぞと断りを入れながら炉の近くに立ってスキル『インゴット精製』を使った。
おっさんの手にあった銅鉱石は十秒程度の時間を掛けて銅のインゴットと不純物の石に分かれていく。
「銅のインゴットが出来る数はまぁ質にもよるが、平均的には鉱石二個で一つ。残りのこの石も実は更に精製が可能なんだが、百個単位でやらねえと希少成分が手元に残る分量にならねえからな。一応一回再精製すりゃあ物としてはもう残らねえ。」
「インゴットの精製率はTAの時と同じ感じなんですね。」
「おう?おめえオールドプレイヤーか。ああ、そうだな。ただ、これはだな。」
とおっさんは更に、冶金の方法を教えてくれる。物によって当然違うから、と鉄や銅、金や銀などの代表的なやり方を教えてくれたおっさんは、流石に冶金については個人でやるには金がかかるから、先ずはレシピとスキルを有効活用して物を作るんだな、と嬉しそうに言った。僕が聞き流してるんじゃなくて、ちゃんと聞いてメモ帳に書いていたからだろう。あ、メモ帳については普通のゲームみたいに自分でメモを取るとかVRじゃあ出来ないから、基本機能の中に含まれてたりする。様式は選べるし、鉛筆なのか羽ペンなのか万年筆なのかとか、外見は選べるんだよね。
おっと、話が脱線しすぎだな、と教える事が出来て嬉しそうなおっさんはまぁ、まずはやってみろ、と僕に鉱石を渡してくれる。僕は炉の近くに立ち、『インゴット精製』を使った。スゴゴゴー、スゴゴゴー、とフイゴのような音が響き出す。鍛治スキルの多寡が精製時間に影響があるとかで、僕の場合は同じ感じの量で三十秒程度だろうか、掛かってようやく一つのインゴットを作る事が出来た。
「よしよし。DEXの値もしっかり盛ってるようだな。一応それでも補正が聞いてナンボか時間が早くなってるはずだぞ。収率にも少し影響があるんだ。それじゃあ、それで作ることにしようか。鍛治スキルで覚える基礎スキルに銅のスタッドがある筈だ。」
「ありますね。」
「こいつは革細工で使う部品なんだがな、こいつをこっちに収めて貰う事で鍛治について教えた事を相殺するわけだな。よし、先ずはスキルで作ってみろ。」
「はい。」
材料と道具を準備し、レシピにあるスタートを意識する。すると、レシピの詳細に書いてあるように手がある程度勝手に動いていく。不思議な感覚だな、と思いながらもインゴットに金挟みを当てると、数秒で必要な分が柔らかく光り取れて来るので、ハンマーでひと叩きすると一回での作成単位である五個のスタッドが出来上がった。
「品質も問題ないな。」
「ありがとうございます。」
「そんで、もう一つのやり方なんだがな。まぁ、簡単に言えばスキルなしで普通に作るやり方なんだが。」
と、おっさんは炉にくべて柔らかくなったインゴットから必要な分をタガネとハンマーで切り取ると、金挟みとハンマーでコンコンと器用に叩いてたまに炉に戻して再加熱しながら作っていく。
「ほれ、完成だ。おめえもやってみな。」
「はい。」
僕もおっかなびっくりテンテンと叩いて切り取り、金挟みを返しながらハンマーで叩く。小さなスタッドなので逆に難しいかもな、と言われながらも高いDEXとWISが影響してくれたのだろう、おっさんよりもかなり時間は掛かったもののなんとか作り上げる事が出来た。システムメッセージには鍛治スキルが上がった表記が幾つか並んだ。
「おお、やるじゃねえか。合格だな。」
「ありがとうございます。」
ステータスのおかげとはいえ嬉しいものだなぁ、と思いながらもそれを言っては台無しになりそうだと素直にお礼だけを言っておく。笑顔になっていたのにおっさんは気付いたのか、嬉しそうに肩をバンバンと叩いてくれた。
「よし、これで終わりだ。作った物はこっちで貰って革細工のチュートリアルの方に回しておくからな。」
「あ、それなら僕が行きましょう。次も生産のチュートリアル受けようと思ってたので。」
「お?スマンな。言付けを書いておくから、これも持ってってくれ。」
二つのクエストが完了すると共に、新たなクエストとして『銅のスタッドの配達』が発行された。ついでに、と渡されたスタッドはみかん箱位のサイズの大きさの木箱にギッシリで、STRの少ない自分にはちょっと重そうだった。まぁ、アイテムボックスがあるから問題は無いんだけど。そして、今回のクエストではなんと、少額ながら報酬が存在していた。近距離だし、そもそもはおっさんが運ぶつもりだっただろうから報酬とか想定してなかっただろうに。僕はおっさんに礼を言ってから革細工のチュートリアルをしている場所へと移動した。
歩いて数分の革細工の場所へは案内板が付いていたこともあって、迷わずに行く事が出来た。僕よりも先に来ていた人が三人ほどスキルで革を加工したり色を染めてみたりしている中、僕は指導員と思しき人に声を掛ける。先程は何とも思わなかったのだけれど、ターゲットした時に出るレベルが三十になっているのに気が付いたから、話が早かった。
「お届け物です。これ、言付けです。」
「そうかい。有難うね。…はい、報酬。あんたは革細工のスキルは持ってるかい?あるなら教えてあげるよ。」
クエスト完了の表記と同時にシャラン、という音を立てて僕の手に小銭を乗せてくれた。続けて指導員のおばちゃんにお願いします、と頭を下げてスキルの使い方を教えてもらう。基本的には鍛治スキルと同じ感じらしく、スキルを使うと自然と体が導かれるかのように動いていく。工程も手作りの時に比べれば色々と都合よく端折ってくれている感じ何だろうね。うんうん、と思いながらも他のチュートリアルも一応終わらせてしまうことにして次々に声を掛けては教えてもらう事数時間。他の戦闘スキルも魔法のスキルも全て思い付く物は終わった、と思った所で、背後から声を掛けられた。
「うおぃっ、ココット!ココット・ジェリー!!おれだよおれ、お前のバーニィ・フルスイングだっ。」
「うん? バーニィ?? …随分とまぁ可愛くなったもんだね。」
振り返ると、そこには僕よりも二十センチ程低い、立派な胸をえっへんと張っている女の子が立っていた。肩には釣竿を担ぎ、ビクっぽい物をパイスラ状態で身に付けていた。長いアッシュブロンドをゆるいサイドテールにしてるけど、顔付きは前に見せて貰った事のある顔写真そのまま、おっとりとした感じを与える少し垂れた目は碧眼で、ほんの少しだけ薄くソバカスが残っている。
「ホントに男キャラなんだなっ。」
「うん、女キャラだと違和感があるからね。しかも自分の姿は特に見えない訳だし。それにしても、あのバーニィが女キャラねえ。」
「お前に合わせたら女キャラにするしかないだろっ。おれだって他のVRゲームで試したら違和感があったしっ。前におれも話しただろっ。」
「…それにしても、そのおっぱいは本当のサイズか?」
バーニィは顔を赤くして釣竿でべしべし僕を叩いてくる。
「ノ、ノーっ! す、少しだけだからなっ、二インチだ、二インチとカップを一つだけ上げただけなんだっ。…良いじゃないかっ、眼の保養になるだろっ?」
「まぁ、それは否定しないけど? 知っての通り、僕はおっぱいが好きだからな。」
「…そう堂々と言うのもどうかと思うぞっ?」
「良いじゃ無いか良いじゃ無いか。減るもんじゃなし。」
そう言って僕はバーニィのおっぱいを前から鷲掴みにしてむにむにと揉む。…真っ赤になってフリーズしていたバーニィは我に帰ると僕を釣竿の石搗きでごすっと突き、自らのおっぱいを隠すようにかき抱いた。
「お、お、おれがセクハラ報告しないのを有難く思えよっ!?」
「…ふふっ、バーニィは僕が大好きだからねぇ。」
懲りずに僕はバーニィの肩を抱いて頬をくっ付ける。元々僕とバーニィはTAの世界では男女逆だが結婚していたくらいである。まぁ、ゲームの中での結婚だったから、別に肉体的にどうこうがあった訳じゃなくて、お互い凄く気が許せる相手として付き合っていただけなんだけれど。エモートやら何やらでハグしたりなんだりってのはとても頻繁にしてたけど、実際にしたらどうなるかってのは気になってた訳で。
「むううっ、まぁ、それは事実だしっ、ココットのおかげでこうしてアルファテストに参加できてる訳だからなっ。」
そう言うとバーニィはくるり、と体を入れ替えて僕を抱き締めると、頬にキスをして来る。画面の隅っこには『セクシュアルハラスメント報告をしますか?』というポップアップが出ているけれど、そんなことはしない。ギャグでしても良いんだけど、流石にBANされても困るからね。因みに、バーニィが言っているのは、バーニィ名義で僕がアルファテストに参加出来る額に届く分くらいのお金を出したことだったりする。まぁ、そこまで高額な訳ではないんだけど、バーニィはリアルではアメリカ在住の三十歳。ハイスクール卒業後はずっとニートでお金が無いバーニィにとっては大金になるんだろうなぁ。それこそ妹よりは歳は上だけど、実に二十歳以上も歳が離れていたりする。
「親御さんは何て?」
「マミィは良かったわねぇって言ってたよっ。ダディは今度家に連れて来なさい、撃ち殺すからって言ってたっ。」
「一緒にゲームしたいからお金を出しました、ってだけなのになんでバーニィのダディはそんな過剰な反応を!?」
「今度は性別もちゃんと元の通りで、しかも触ったり出来るんだ、って言ったからかなっ? 前からゲーム内では結婚してる相手だっては話してたしっ。」
「確かに目の前でやったら撃ち殺されるような事はもうしたしね。…確かバーニィのダディって海兵隊の偉い人なんだっけ?」
「イェースっ、BGだよっ。」
海兵隊でBrigadier General、准将ともなれば、下手すると海兵隊の中でトップ五十に入る位の偉い人だったりする。だから中々家に帰って来ないらしいのだけど、それもあってか物凄く溺愛されているっぽいんだよね。ずっとニートでも家に居てくれればいいとか、一生嫁になんて行かなくても良いんだよとか言われているらしい。うっかりアメリカに旅行に行った日には気が付いたら海兵隊に囲まれてて、ブートキャンプにでも連行されかねない勢いだ。
「所でさ、チュートリアルって全部やった?」
「おおっ。おれはスキル少ないからなっ。料理、槍術、あとこれは外せねえだろう、釣りだっ。」
「なぬっ、ど、どういう構成にしたんだ。」
「ベーシックな前衛のビルドだぞっ。ほれっ。」
==========
バーニィ・フルスイング
ドラグーン
Lv 2
HP 88
MP 66
ST 44
STA 8
STR 11
AGI 11
DEX 11
INT 6
WIS 6
LUK 8
CHA 6
スキル
SP 1
エルフ・ドワーフ・ハーフリング・ヒューマン・ドラグーン共通語、神の血肉、初級素材箱、初級生産設備室、料理(2)、槍術(1)、釣り(5)、アイテムボックス(小)
所持金 5
==========
「…まぁ、釣りは一点で取れるしな。てか、釣りスキル取らなくても覚えられるんじゃ無いの?」
「ぐぬぬ、確かにチュートリアルのおっさんも釣ってりゃすぐスキル生えて来るって言ってたっ…。」
「たぶん料理もリアルで作れるならすぐスキル生えると思うんだけど。」
バーニィは超速で目を逸らした。…ああ、はい、料理出来ないのね。
「よし、それじゃあ僕も釣りを覚えたいから釣りに行こう。ちょっと駄弁りながらやろう。」
「おーらいっ。おれの竿を貸してやるからなっ。」
「うむ、僕もそのつもりだった。」
…釣りスキルが生えて来たのは釣り始めてから五分後の事だったとさ。
「あの、鍛治のチュートリアルって。」
「あ!あ、ああ、俺がやってるよ。そうか、鍛治してくれんのか。」
「まだどれをメインにしてみるかはお試しって段階ですけど、まずは生産の代表というか、鍛治をと。」
「そうだろう、そうだろう。代表的な物だよな。よし、生産に必要なスミスハンマーは貸してやるから、まずはこの銅のスタッドを一緒に作ろう。一応、レシピとスキルを使った簡易型のやり方がチュートリアルで教える方なんだがな、一番最初に来た兄ちゃんには特別だ。他のやり方も教えてやろう。」
「ありがとうございます。」
クエストダイアログには『チュートリアル:鍛治』と、『クラフト:手作り』の二つが登録された。ドワーフのおっさんはにこやかに素材である銅鉱石を取り出すと、これがまずはスタンダードなやり方の方だぞと断りを入れながら炉の近くに立ってスキル『インゴット精製』を使った。
おっさんの手にあった銅鉱石は十秒程度の時間を掛けて銅のインゴットと不純物の石に分かれていく。
「銅のインゴットが出来る数はまぁ質にもよるが、平均的には鉱石二個で一つ。残りのこの石も実は更に精製が可能なんだが、百個単位でやらねえと希少成分が手元に残る分量にならねえからな。一応一回再精製すりゃあ物としてはもう残らねえ。」
「インゴットの精製率はTAの時と同じ感じなんですね。」
「おう?おめえオールドプレイヤーか。ああ、そうだな。ただ、これはだな。」
とおっさんは更に、冶金の方法を教えてくれる。物によって当然違うから、と鉄や銅、金や銀などの代表的なやり方を教えてくれたおっさんは、流石に冶金については個人でやるには金がかかるから、先ずはレシピとスキルを有効活用して物を作るんだな、と嬉しそうに言った。僕が聞き流してるんじゃなくて、ちゃんと聞いてメモ帳に書いていたからだろう。あ、メモ帳については普通のゲームみたいに自分でメモを取るとかVRじゃあ出来ないから、基本機能の中に含まれてたりする。様式は選べるし、鉛筆なのか羽ペンなのか万年筆なのかとか、外見は選べるんだよね。
おっと、話が脱線しすぎだな、と教える事が出来て嬉しそうなおっさんはまぁ、まずはやってみろ、と僕に鉱石を渡してくれる。僕は炉の近くに立ち、『インゴット精製』を使った。スゴゴゴー、スゴゴゴー、とフイゴのような音が響き出す。鍛治スキルの多寡が精製時間に影響があるとかで、僕の場合は同じ感じの量で三十秒程度だろうか、掛かってようやく一つのインゴットを作る事が出来た。
「よしよし。DEXの値もしっかり盛ってるようだな。一応それでも補正が聞いてナンボか時間が早くなってるはずだぞ。収率にも少し影響があるんだ。それじゃあ、それで作ることにしようか。鍛治スキルで覚える基礎スキルに銅のスタッドがある筈だ。」
「ありますね。」
「こいつは革細工で使う部品なんだがな、こいつをこっちに収めて貰う事で鍛治について教えた事を相殺するわけだな。よし、先ずはスキルで作ってみろ。」
「はい。」
材料と道具を準備し、レシピにあるスタートを意識する。すると、レシピの詳細に書いてあるように手がある程度勝手に動いていく。不思議な感覚だな、と思いながらもインゴットに金挟みを当てると、数秒で必要な分が柔らかく光り取れて来るので、ハンマーでひと叩きすると一回での作成単位である五個のスタッドが出来上がった。
「品質も問題ないな。」
「ありがとうございます。」
「そんで、もう一つのやり方なんだがな。まぁ、簡単に言えばスキルなしで普通に作るやり方なんだが。」
と、おっさんは炉にくべて柔らかくなったインゴットから必要な分をタガネとハンマーで切り取ると、金挟みとハンマーでコンコンと器用に叩いてたまに炉に戻して再加熱しながら作っていく。
「ほれ、完成だ。おめえもやってみな。」
「はい。」
僕もおっかなびっくりテンテンと叩いて切り取り、金挟みを返しながらハンマーで叩く。小さなスタッドなので逆に難しいかもな、と言われながらも高いDEXとWISが影響してくれたのだろう、おっさんよりもかなり時間は掛かったもののなんとか作り上げる事が出来た。システムメッセージには鍛治スキルが上がった表記が幾つか並んだ。
「おお、やるじゃねえか。合格だな。」
「ありがとうございます。」
ステータスのおかげとはいえ嬉しいものだなぁ、と思いながらもそれを言っては台無しになりそうだと素直にお礼だけを言っておく。笑顔になっていたのにおっさんは気付いたのか、嬉しそうに肩をバンバンと叩いてくれた。
「よし、これで終わりだ。作った物はこっちで貰って革細工のチュートリアルの方に回しておくからな。」
「あ、それなら僕が行きましょう。次も生産のチュートリアル受けようと思ってたので。」
「お?スマンな。言付けを書いておくから、これも持ってってくれ。」
二つのクエストが完了すると共に、新たなクエストとして『銅のスタッドの配達』が発行された。ついでに、と渡されたスタッドはみかん箱位のサイズの大きさの木箱にギッシリで、STRの少ない自分にはちょっと重そうだった。まぁ、アイテムボックスがあるから問題は無いんだけど。そして、今回のクエストではなんと、少額ながら報酬が存在していた。近距離だし、そもそもはおっさんが運ぶつもりだっただろうから報酬とか想定してなかっただろうに。僕はおっさんに礼を言ってから革細工のチュートリアルをしている場所へと移動した。
歩いて数分の革細工の場所へは案内板が付いていたこともあって、迷わずに行く事が出来た。僕よりも先に来ていた人が三人ほどスキルで革を加工したり色を染めてみたりしている中、僕は指導員と思しき人に声を掛ける。先程は何とも思わなかったのだけれど、ターゲットした時に出るレベルが三十になっているのに気が付いたから、話が早かった。
「お届け物です。これ、言付けです。」
「そうかい。有難うね。…はい、報酬。あんたは革細工のスキルは持ってるかい?あるなら教えてあげるよ。」
クエスト完了の表記と同時にシャラン、という音を立てて僕の手に小銭を乗せてくれた。続けて指導員のおばちゃんにお願いします、と頭を下げてスキルの使い方を教えてもらう。基本的には鍛治スキルと同じ感じらしく、スキルを使うと自然と体が導かれるかのように動いていく。工程も手作りの時に比べれば色々と都合よく端折ってくれている感じ何だろうね。うんうん、と思いながらも他のチュートリアルも一応終わらせてしまうことにして次々に声を掛けては教えてもらう事数時間。他の戦闘スキルも魔法のスキルも全て思い付く物は終わった、と思った所で、背後から声を掛けられた。
「うおぃっ、ココット!ココット・ジェリー!!おれだよおれ、お前のバーニィ・フルスイングだっ。」
「うん? バーニィ?? …随分とまぁ可愛くなったもんだね。」
振り返ると、そこには僕よりも二十センチ程低い、立派な胸をえっへんと張っている女の子が立っていた。肩には釣竿を担ぎ、ビクっぽい物をパイスラ状態で身に付けていた。長いアッシュブロンドをゆるいサイドテールにしてるけど、顔付きは前に見せて貰った事のある顔写真そのまま、おっとりとした感じを与える少し垂れた目は碧眼で、ほんの少しだけ薄くソバカスが残っている。
「ホントに男キャラなんだなっ。」
「うん、女キャラだと違和感があるからね。しかも自分の姿は特に見えない訳だし。それにしても、あのバーニィが女キャラねえ。」
「お前に合わせたら女キャラにするしかないだろっ。おれだって他のVRゲームで試したら違和感があったしっ。前におれも話しただろっ。」
「…それにしても、そのおっぱいは本当のサイズか?」
バーニィは顔を赤くして釣竿でべしべし僕を叩いてくる。
「ノ、ノーっ! す、少しだけだからなっ、二インチだ、二インチとカップを一つだけ上げただけなんだっ。…良いじゃないかっ、眼の保養になるだろっ?」
「まぁ、それは否定しないけど? 知っての通り、僕はおっぱいが好きだからな。」
「…そう堂々と言うのもどうかと思うぞっ?」
「良いじゃ無いか良いじゃ無いか。減るもんじゃなし。」
そう言って僕はバーニィのおっぱいを前から鷲掴みにしてむにむにと揉む。…真っ赤になってフリーズしていたバーニィは我に帰ると僕を釣竿の石搗きでごすっと突き、自らのおっぱいを隠すようにかき抱いた。
「お、お、おれがセクハラ報告しないのを有難く思えよっ!?」
「…ふふっ、バーニィは僕が大好きだからねぇ。」
懲りずに僕はバーニィの肩を抱いて頬をくっ付ける。元々僕とバーニィはTAの世界では男女逆だが結婚していたくらいである。まぁ、ゲームの中での結婚だったから、別に肉体的にどうこうがあった訳じゃなくて、お互い凄く気が許せる相手として付き合っていただけなんだけれど。エモートやら何やらでハグしたりなんだりってのはとても頻繁にしてたけど、実際にしたらどうなるかってのは気になってた訳で。
「むううっ、まぁ、それは事実だしっ、ココットのおかげでこうしてアルファテストに参加できてる訳だからなっ。」
そう言うとバーニィはくるり、と体を入れ替えて僕を抱き締めると、頬にキスをして来る。画面の隅っこには『セクシュアルハラスメント報告をしますか?』というポップアップが出ているけれど、そんなことはしない。ギャグでしても良いんだけど、流石にBANされても困るからね。因みに、バーニィが言っているのは、バーニィ名義で僕がアルファテストに参加出来る額に届く分くらいのお金を出したことだったりする。まぁ、そこまで高額な訳ではないんだけど、バーニィはリアルではアメリカ在住の三十歳。ハイスクール卒業後はずっとニートでお金が無いバーニィにとっては大金になるんだろうなぁ。それこそ妹よりは歳は上だけど、実に二十歳以上も歳が離れていたりする。
「親御さんは何て?」
「マミィは良かったわねぇって言ってたよっ。ダディは今度家に連れて来なさい、撃ち殺すからって言ってたっ。」
「一緒にゲームしたいからお金を出しました、ってだけなのになんでバーニィのダディはそんな過剰な反応を!?」
「今度は性別もちゃんと元の通りで、しかも触ったり出来るんだ、って言ったからかなっ? 前からゲーム内では結婚してる相手だっては話してたしっ。」
「確かに目の前でやったら撃ち殺されるような事はもうしたしね。…確かバーニィのダディって海兵隊の偉い人なんだっけ?」
「イェースっ、BGだよっ。」
海兵隊でBrigadier General、准将ともなれば、下手すると海兵隊の中でトップ五十に入る位の偉い人だったりする。だから中々家に帰って来ないらしいのだけど、それもあってか物凄く溺愛されているっぽいんだよね。ずっとニートでも家に居てくれればいいとか、一生嫁になんて行かなくても良いんだよとか言われているらしい。うっかりアメリカに旅行に行った日には気が付いたら海兵隊に囲まれてて、ブートキャンプにでも連行されかねない勢いだ。
「所でさ、チュートリアルって全部やった?」
「おおっ。おれはスキル少ないからなっ。料理、槍術、あとこれは外せねえだろう、釣りだっ。」
「なぬっ、ど、どういう構成にしたんだ。」
「ベーシックな前衛のビルドだぞっ。ほれっ。」
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バーニィ・フルスイング
ドラグーン
Lv 2
HP 88
MP 66
ST 44
STA 8
STR 11
AGI 11
DEX 11
INT 6
WIS 6
LUK 8
CHA 6
スキル
SP 1
エルフ・ドワーフ・ハーフリング・ヒューマン・ドラグーン共通語、神の血肉、初級素材箱、初級生産設備室、料理(2)、槍術(1)、釣り(5)、アイテムボックス(小)
所持金 5
==========
「…まぁ、釣りは一点で取れるしな。てか、釣りスキル取らなくても覚えられるんじゃ無いの?」
「ぐぬぬ、確かにチュートリアルのおっさんも釣ってりゃすぐスキル生えて来るって言ってたっ…。」
「たぶん料理もリアルで作れるならすぐスキル生えると思うんだけど。」
バーニィは超速で目を逸らした。…ああ、はい、料理出来ないのね。
「よし、それじゃあ僕も釣りを覚えたいから釣りに行こう。ちょっと駄弁りながらやろう。」
「おーらいっ。おれの竿を貸してやるからなっ。」
「うむ、僕もそのつもりだった。」
…釣りスキルが生えて来たのは釣り始めてから五分後の事だったとさ。
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