誕生日のプレゼント

くるみあるく

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3.写真館

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あたしは涙を拭うと、写真館の扉を開けた。蝶番ちょうつがいからギーッっという音、次に、カランカランというドアにつけた大きな鈴の音。
撮影を終えたのだろう。奥から花嫁衣装をきた新婚さん夫婦とご親族が出てきた。あ、この花嫁さん知ってる。近所に住んでいた湖城こじょうチカさん。そうか、今日が結婚式なんだ。壁に掛かったカレンダーを見ると今日の六曜は「先勝」、つまり午前中からアクションした方がゲンがつく。それで近くの美容室で着付けしてうちで撮影したのね。
「あら、粟国さん、お客様ですよ?」
あたしが首を振ろうとしたら、人々の後ろから男性が現れた。あたしは息を呑んだ。父だ。
「すみません本日はこれから那覇へ行くので」
父はベレー帽を被り、白い半袖のワイシャツに茶色のスラックスを着ていた。そう、緑がかったグレーのベレー帽! 上の大きなボタンの部分がちょっとスレているんだ。ああ、懐かしい。
「いや、あの」
何と言っていいのかわからずあたしは硬直した。まさか20年後の娘ですとは言えない。すると、新婚さんのご親戚の方がこう言い出した。
「お姉ちゃん観光客ね?」
思わず、うなずく。
「は、はい」
「ここは写真館だからお土産は売ってないよ?」
「え、ええっと」
どうしよう。どう言葉を繋いだらいいのかな。すると、父が笑った。
「ハハハ、沖縄の写真館は大和とはそんなに変わっているかねー」
どう返事して良いかわからず、あたしも笑顔で返すしかなかった。
「粟国さん、今日はありがとうございました。それじゃ」
花嫁さん達は本当に行列をなして写真館からぞろぞろ出て行った。お客を見送った父があたしに話しかける。
「お姉ちゃん、ここは店仕舞だから。僕はこれから向かいのそば屋行くけど、お姉ちゃんも来る?」
え? 12時を回って確かにお腹が空いてきた。でもあたしは首を振る。財布にはもう小銭がない。そばを食べたら浦添へ帰れなくなる。え、帰ってどうするのかって? さあ?
「どうしたの。お金の心配してる?」
「ま、まあ」
「観光客の皆さんはよく郵便局使っているみたいだけど、今日は日曜日だからねー」
ご推察とはちょっと理由が違うのだが。まさか財布にある2002年の夏目漱石は使えないだろう。すると父はまた笑った。
「今日は私がご馳走するよ」
「ええ?」
驚くあたしの腕を取って、父が扉の向こうのそば屋を指さした。
「遠慮しないで。名護のそばは美味しいよ、是非食べて行きなさい」
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