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5.照喜名(てるきな)裕太と……

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At Southern Hospital, Nakagusuku and Urasoe City, Okinawa; October 31, 2021.
The narrator of this story is Yuta Terukina.

ようやく14時回りました。普通の日曜日に戻った!
とはいえ売店には午後販売分のハロウィン限定パンプキンプディング目当てに新たな行列ができてます。うわあ、僕は今年もありつけそうもないな。リハビリ室に向かうと専門学校生がせっせとお片づけしていた。患者さん達はイベント楽しめただろうか。

そういえば、有夏梨ゆかりたちどこ行ったんだろ? 脳外科のナースステーションへ向かおうとしたら、里香さんが僕に駆け寄ってきた。
「今日は楽しかった! 病棟で有夏梨ゆかりと一緒にラテアートしたんだ。患者さんのコップにミルクを泡立てて、チョコペンと爪楊枝でお絵描きしたの。別室では有料でデコスイーツ作りもしてたみたいよ。シリコンのクリームにボタンとかパーツ乗っけてさ」
へえ、そりゃ良かった。デコスイーツ作りは細かい作業だから患者さんの機能回復訓練にもなるしね。話しながら僕らは駐車場へ向かう。
「裕太、あたし乗せてくれる?」
あれ、里香さん有夏梨ゆかりとバイクで来たんじゃないの? 
「あれ、言わなかったっけ。壮宏たけひろ君の車で一緒に来たんだけど」
そ、そうなんだ? じゃ、有夏梨ゆかりは?
壮宏たけひろ君と一緒に帰ったわよ」

ええ? 何それ聞いてないよ! しかもあの胸の谷間が開いたままの格好で二人きり?!

「裕太、心配し過ぎ! あれベージュの胸パット縫い付けてるだけだよ。そんなに焦ることじゃないわ」
そ、そうか。言われてみればそうだよな。いかん。どうも娘のこととなると頭にすぐ血が上ってしまう。……でも、二人きりで車に乗っていることに変わりはないんだよね?
「そこのところは確認してないなー」
どうして里香さんそんなに平然としていられるの? ああ、これは男親と女親の違いでしょうか?

コツコツコツ。車のドアを叩く音がする。金髪の食いだおれ太郎、いや、上間先生だ。
「照喜名、ごめーん。俺、西原まで乗せてもらえる? 多恵子は夕方まで勤務だし、壮宏たけひろはさっさと帰っちゃうし」
あ、どうぞどうぞ。僕たちは席を一旦降りる。松葉杖の上間先生は助手席にご案内して、里香さんは後ろへ。って、上間先生は壮宏たけひろ君と有夏梨ゆかりのこと知らないんだ? 話を振ってみる。
「ええ? 有夏梨ゆかりちゃん乗せて帰ったの? あいつ免許取り立てなのに?」

僕と上間先生は互いに顔を見合わせた。しばし無言。
「あ、でも、今朝は安全運転だったから、大丈夫よきっと」
里香さん、どうして君はそんなに楽観的なの? た、確かに壮宏たけひろ君は小さい頃からよく知っていて、無茶する子ではないけど。でも、ちょっと、うーん。

とりあえず一般道から西原へ向かう。途中で給油します。混んでるなー。なになに、ハロウィンくじ?
「本日2000円以上の給油でくじ引きできますよ」
じゃ2000円分入れちゃおう。
「長掛かいするなら俺、トイレ行ってくるよ」
そう言って上間先生は降りてった。
3分後、奥のスタンドが空いて案内される。あんなに混んでいたのに、いま給油してるのは僕の車だけ。暇になったらしき店員さんに声掛けてくじ引きをする。上間先生戻ってきた。店員さんがつぶやきました。
「いつものことです。混む時は凄くて、波が引くようにいなくなって。その繰り返し」
上間先生が呟いた。
「バーゲンセールとぅ同様ゐぬぐとぅやいびーさやーさい?」
店員さんが驚いてる。
「アメリカさん、うちなーぐち上手ですねー!」
僕らは吹き出しそうになるのをすんでのところで噛み殺した。あ、くじは4等です。次回300円給油サービスだって。
西原の多恵子さんのご実家に到着。多恵子さんのお父上が上間先生のサンシンのお師匠さんです。降ろすついでに上間先生に給油サービス券あげちゃいました。
「いっぺーにふぇーでーびたん」
松葉杖つきつき先生は鼻歌交じりに去っていきました。

20分後、僕らも浦添の自宅に到着した。有夏梨ゆかりは既に家にいた。
デートじゃなかったんだ? 拍子抜けというか、素直に胸を撫で下ろしていいんだろうか。彼女はテーブルにスプーンを3つ置いて、紙袋から何か取り出した。
「どうぞ。壮宏たけひろ君がお父さんお母さんの分も買っておいてくれたの」
これって、ハロウィン限定パンプキンプディング! 彼はやっぱり気が効く子だな。おっと、だからといって二人の仲を認めたわけじゃないぞ。僕は空咳をする。でも里香さんは笑って言った。
「みんなでいただきましょう。裕太、食前のお祈り、お願いね」
はいはい。僕らは席に着く。二人が手を合わせて目を閉じていることを確認し、僕はお祈りを唱える。

「天の神様。サザン・ホスピタルのハロウィンイベントが一人の怪我人もなく無事に終わったことを感謝します。
また、神様が僕らの行きの道帰りの道を守って下さったことを感謝します。
壮宏たけひろ君が僕らの分まで限定のプディングを用意してくれました。どうか彼を祝福してください」

僕はちらっと有夏梨ゆかりを見る。彼女は僕の視線に全く気づいていない。
僕は心の中で祈る。
神様、どうか愛する妻と可愛い娘と共に食卓を囲める幸せな日々を、もう少しだけ、もう少しだけ保っていてください。

「与えられた日毎の糧に感謝して、いただきます!」
僕らは舌鼓を打ちながら、日曜のティータイムをくつろいでいた。
(ハロウィンinサザン・ホスピタル FIN)

最後までお読みいただきありがとうございました。この物語1PVにつき1円を軽石被害に苦しむ糸満市へ寄付、というイベントを行ってました(数年前のことです。ご参加いただいた読者様ありがとうございました)。
なお「サザン・ホスピタル短編集」での壮宏君と有夏梨ちゃんは2003年生まれですが、この物語ではドタバタ感を出すために1歳繰り上げましたことをお詫びいたします。
関連作品としてノベルアッププラスに「沖縄軽石除去作業ボランティア体験記」があります。お読みいただきましたら幸いです。https://novelup.plus/story/800672900
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