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35.あなたを追って
涙とストーンズ
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サーコを見送ったあと、リャオのモノローグです。短いです。
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行ってしまった。
サーコの姿が保安検査場の向こうへ消えたのを確認すると、私は来た道を引き返した。でも涙が次から次へと溢れてきて、結局空港二階のロッカールームへ行くと、壁にもたれて泣き崩れた。
大陸にいた頃の記憶はほとんどない。でも、小さい頃から私は大の泣き虫だった。母が再婚して沖縄に来てからも、私は慣れない日本語に苦しみながら一人でずっと泣いていた。
30を超えてさすがに収まるかと思っていたが、全然治らない。KNJ商事の副社長という肩書きにおびえながら、私は日々を過ごしている。
私は人の上に立つ器ではない。第一、金城の家の人間でもない。私は中国人で、この国ではいわば「よそ者」だ。そして、日頃の私はスーツすら着ようとしない「変わり者」なのだ。
それでも、サーコはそばにいてくれた。彼女は決して私を差別せず受け入れてくれた。彼女の存在がどれだけ心のよりどころだったか。でも、今はそれもなくなってしまった。
泣き疲れて、ようやく息をつく。腕時計を見ると10時を回っていた。
昼過ぎから会議が始まる。仕事は、待ってくれない。
私はハンカチで涙をぬぐい、よろよろと立ち上がった。空港の人混みを縫うように歩き、駐車場へ向かう。
車にたどり着く。エンジンをかけるとちょうどカーラジオから音楽が流れた。
誰だよ、こんな時にストーンズをリクエストしたのは?
サーコがトモに言われて訳してたんだっけ。
“何も得ない、何も失わない、支払う価値もない、そんな人生”
確かに、何も得ず何も失うことのない人生はつまらないかもしれない。だけど。
さよなら、ルビー・チューズデイ。君が恋しいよ。
彼女の残像が心にちらつく。再び涙が出て止まらなくなる。でも、生きなければならない。私が会社を引っ張らないと従業員たちが路頭に迷ってしまう。何としてでも、生きなければ。
私は涙をぬぐった。舌を噛んで涙を止めると、車のエンジンをかけ、空港を後にした。
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これより舞台、しばらく大阪へ移ります(たまに沖縄も出ます)。少々しんどい展開となりますが、できるだけスピード展開させてカタつけます。よろしくお願いします。
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行ってしまった。
サーコの姿が保安検査場の向こうへ消えたのを確認すると、私は来た道を引き返した。でも涙が次から次へと溢れてきて、結局空港二階のロッカールームへ行くと、壁にもたれて泣き崩れた。
大陸にいた頃の記憶はほとんどない。でも、小さい頃から私は大の泣き虫だった。母が再婚して沖縄に来てからも、私は慣れない日本語に苦しみながら一人でずっと泣いていた。
30を超えてさすがに収まるかと思っていたが、全然治らない。KNJ商事の副社長という肩書きにおびえながら、私は日々を過ごしている。
私は人の上に立つ器ではない。第一、金城の家の人間でもない。私は中国人で、この国ではいわば「よそ者」だ。そして、日頃の私はスーツすら着ようとしない「変わり者」なのだ。
それでも、サーコはそばにいてくれた。彼女は決して私を差別せず受け入れてくれた。彼女の存在がどれだけ心のよりどころだったか。でも、今はそれもなくなってしまった。
泣き疲れて、ようやく息をつく。腕時計を見ると10時を回っていた。
昼過ぎから会議が始まる。仕事は、待ってくれない。
私はハンカチで涙をぬぐい、よろよろと立ち上がった。空港の人混みを縫うように歩き、駐車場へ向かう。
車にたどり着く。エンジンをかけるとちょうどカーラジオから音楽が流れた。
誰だよ、こんな時にストーンズをリクエストしたのは?
サーコがトモに言われて訳してたんだっけ。
“何も得ない、何も失わない、支払う価値もない、そんな人生”
確かに、何も得ず何も失うことのない人生はつまらないかもしれない。だけど。
さよなら、ルビー・チューズデイ。君が恋しいよ。
彼女の残像が心にちらつく。再び涙が出て止まらなくなる。でも、生きなければならない。私が会社を引っ張らないと従業員たちが路頭に迷ってしまう。何としてでも、生きなければ。
私は涙をぬぐった。舌を噛んで涙を止めると、車のエンジンをかけ、空港を後にした。
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これより舞台、しばらく大阪へ移ります(たまに沖縄も出ます)。少々しんどい展開となりますが、できるだけスピード展開させてカタつけます。よろしくお願いします。
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