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24.副社長の厄日

厄日はつづく 午後の部

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瀬長島のホテル着きました。あちこちの役員の皆様すでに歓談が始まっている様子。スマートフォンをバイブモードにして私は社長の隣、出口に一番近い方の席を取ります。ビュッフェスタイルなんでいろいろ見繕いながら皿にサーブする。今日は魚の唐揚げにしようかな。料理って自分で作るのもおいしいけど、ホテルのお料理はとても参考になる。この唐揚げ、ゆず胡椒で食べるんだ。へえ。
席に着きます。社長はビールのようです。私は運転手なのでさんぴん茶。
「そういえば金城さん、もうじきご結婚ですって?」
……ぎくっ。声の主を見れば、あー、あの糸満の工場長!
「いえいえ、あきお君の彼女さんは高校卒業したら就職するらしいんですよ」
父が笑顔で応対している。私、冷や汗を吹きながら黙って食べる。あ、ゆず胡椒でくしゃみが出そう。ハックション!
「ご就職ですか。そうですよねまだお若いですし社会経験もいくらか必要でしょうし」
「私としては早く孫の顔が見たいんですが、ねえ、あきお君?」
ハ、ハックション! お父さん、ここでプライベートな話はやめてくださいってば、ハックション!

あ、スマートフォンが着信してブルブルいってます。
「ちょっと失礼」
ここぞとばかりに私は席を立ちトイレを目指す。ハ、ハックション!
「あの、もしもし?」
ハンカチで鼻を押さえつつ問いかける。
「あー、副社長。サガワです」
良かった。サガワさんつかまえた。
「今、西町着きました。さきほど停電復旧しましたよ」
おお、復旧早かったね。お疲れ様です。
「で、何が原因だったの?」
「配電盤でヤモリが感電死してたそうです」

そうですか。ヤモリがエサを取ろうと配電盤に入り込んじゃったんですな。そして感電した、と。沖縄あるあるです。

「経理サーバーのパスワード、再度セットアップしてマイクロソフトチームに置き直しました。もう大丈夫です」
「お疲れ様でした。ごめんね、他のメンバーはみんなランチタイムに出かけているのに、サガワさんだけ除け者みたいになっちゃって」
「いえいえ。こちらは午前年休取ってましたから気になさらずに」
「そうも行かないですよ。今度、日を改めてディナーでもご一緒に」
「そうですか、じゃあ、楽しみにしています」
私はちょっと声を作る。
「なんなら“あけみ”で付き合ってあげる」
「あ、あの、ちょっと、それは」
サガワさん、しどろもどろだ。可哀想に、素直なんだからなもう。えーっと、やりすぎるとセクハラというかパワハラになりますんで、声を戻す。
「うふふっ。あきおで行きますよ。ご心配なく」
「は、はあ」
「社長連れて三時には戻りますから。メンバーによろしく伝えて」
「わかりました。では」

電話を切って、気が付いた。あれ、不在着信してる。

少々ご説明申し上げます。
私の電話、番号が2つ入ってます。一つはメインの電話番号で会社で使っています。社員とのやりとりが主ですが、ラインでトモやサーコとも繋がっています。もっとも、二人ともトークが主であまり音声電話では掛けてきません。
もう一つが、サブの電話番号。先日スマートフォンを新調しましたので格安E-SIMを購入しました。郵便局とか宅配業者さんとかへはサブの番号でやり取りをしています。で、こちらで新しくラインアカウント取って、ちょっとした情報を集めたりですとか、こないだ、さつきさんとも繋がりました。
もっとも、ラインアプリはスマートフォン1台ではメインの番号でしか動かせないんで、サブアカウントのは別のタブレットにアプリを入れて動かしています。さつきさんへは、こちらの事情でライントークしかできないってサーコから伝えてもらっています。

つまり。不在着信はさつきさんからサブ電話へ直接あった模様です。
あれ、さつきさん今日は昼勤じゃなかったっけ?

トイレの個室から掛け直します。声を作る。
「さつきさんこんにちはー。すみません仕事中で気づかなくって」
「あけみさん! お忙しいところお電話ありがとうございます。いつも麻子がお世話になって」
「いえいえ。それで、どうしました?」
すると、さつきさんは急に改まった調子で
「あの、あけみさん。プライベートなご質問ですが、その、おつきあいしている方っていらっしゃいます?」

えーっと。
脳裏に浮かぶのはトモの姿。でも、付き合っているとは言えないな。言ったら回し蹴りされるわ。
ええっ、サーコはどうなのかって? それはノーコメント!

さつきさんの声が続く。
「もし、いらっしゃらないようでしたら、私の職場に素敵な外科医がいて、もう四十代なんですがまだ独身で」
わ、わ、わ。ちょっ、ま、待ってください。私、男性だからお見合いできません。
……と伝えたくても、それは難しい相談です。だって、サーコは二年前からちょくちょく事務所に泊まりに来ているんだもん。
「さつきさんが夜勤の時に女の子一人で留守番させるより、うちでお泊めした方が安全です」
さつきさんにそういって、泊めてるんだから。私が男ってバレたら事件にされちゃう!

「えっと、あの、今、急にそのお話を伺っても心の準備が」
「そうですね、そうでしたね。じゃあ、ゆっくりお考えになってください。じゃあ、また」

さつきさんの電話が切れた。そうだ。気が付くとくしゃみが収まっている。良かったのか、何なのか。
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