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09.ジング氏からのプレゼント

ジング氏、ママにプレゼントをする

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LGBTの方々をめぐるトラブルの一つの例を書きました。トモの韓国での大学の思い出など少々韓国語交じりで書いてます(翻訳会社チェック済みです)。

へ? 使用済みって、どういう意味? あけみさんが目くばせする。
「男性のブリーフよ。精液付いてるやつ」
ええっ? マジで? それって? あまりに想定外で私は日本語が出てきません。それに、犯罪心理学にはそこまで詳しくないんです。

矢上さんが答えた。
「もちろんごみの不法投棄ですし、つきまとい行為に当たります。この時点でママさんが軽い錯乱を起こされたので、犯人の知らない場所へ避難するようアドバイスしました」
つまり、犯人わかったんですね。
「聞き込みですぐわかりました。近所の大学生でした。年上の女性が好みだったようです。単に個人の好みの段階なら良かったのですが、下着の窃盗に加え不法投棄となると、被害者へ身体的危害を及ぼす危険性がありました」
矢上さんはビールをぐっと飲み干した。
「犯人が素直に警告に従ったので示談にして事件は解決かと思われたんですが、そうはならなかった」
すると、あけみさんが話を引き取った。
「この事件のせいでママが女装、いや、性転換したってアパートの大家さんにバレちゃったの。契約違反とかナンクセつれられちゃって」

とても不運なケースです。しかし、LGBT当事者が避けて通れない話でもあります。
契約時から異なる性へ転換したばあい、法律上の性別とともに名前が変更となるケースがあります。賃貸契約は法的行為ですから、契約書の個人情報をアップデートしなくてはなりません。それが大家さんや不動産会社の理解を得られないケースというのは残念ながら存在します。
「ママは、パパの家へ引っ越し準備をしていた。せめて賃貸契約満了まで表面上は普通の男性として過ごしたかった。でも、事件に巻き込まれたせいで、警察沙汰になったせいで、事情を知った大家さんから即日退去を命じられた」
あけみさんは、ため息をつきながら今度はチーズたらを持ってきてくれました。そして自分もグラスを持ち出すと、矢上さんからビールをお酌してもらいながら怒った声で
「なーんかさ、やってられないわよね。ママは被害者なわけじゃん。一方的な被害者。それなのにバカな学生が勝手につきまとってゴミまで投げつけて、で、被害者側が住まいから追い出されるんだからね! それでママ、一週間くらい休んでるの。戸籍の性別変更ができたら結婚式挙げるんだって、あんなにルンルンだったのに。ホント、かわいそうよ!」
私、聞いていてとても気の毒に思いました。ママさんは性転換手術を終えて、ようやく心の平安を手に入れることができるはずだった。それを、犯罪行為で台無しにされてしまった。
「結婚式、挙げるご予定で?」
「うーん、この騒ぎで、どうだろう。ちょっと、すぐにはむつかしいんじゃない?」

「そうだ」
思いついて私は、両手を後ろへ回してネックレスを手にするとそのまま上へ持ち上げ頭をくぐらせた。右手でペンダントトップのクロスをつかむ。
「これ、クロムハーツです。ママさんへプレゼントしたいので、差し上げてもらえますか」
突然のことで、あけみさんも矢上さんもあっけにとられている。あけみさん、しげしげと眺めて、叫んだ。
「トモ、これ、本物じゃないの! 10万は下らないわよ?」

私、高校の時から将来は宣教師になると決めていました。宣教師になるには神学校へ行く必要がありますが、大卒以上が入学要件とされます。そこで私は心理学科へ進学しました。同級生たちは盛んにミーティン(日本でいう合コン)をやってて彼女作るのに必死でした。数合わせで呼ばれた私が酒の並ぶテーブルに聖書持ってってみんなに配ったら、

눈치 없는 사람KYなやつ

そう言われました。

너 바보 아냐?あんた馬鹿なんじゃないの?

姉からもそう言われました。まあ、そうですよね。否定はしません。でも、当時の自分は恋愛にあまり興味がなかった。さっさと大学卒業して神学校へ行きたくてしょうがなかった。そしたら、私が沖縄へ行く前に姉が卒業祝いだと言ってクロムハーツのクロスをくれました。

만일의 경우에는万一の場合は 이것을 팔아서 돈으로 바꿔これを売ってお金に換えて조금은 도움이 될 거야少しは役に立つから.”

まさか10万円以上するとは思いませんでした。でも、いいです。ママさんはパパさんときちんと挙式して、神様から祝福をもらって幸せになってもらいたい。
「うちの教派、同性婚の挙式も何件か執り行ってます。ですから、うちで挙式できると伝えてください」
「わかった。沖縄にはまだ正規のクロムハーツ取扱店がないのよ。だから、ママとても喜ぶと思う! トモの言葉、必ず伝えるね?」
あけみさんは涙で大きな瞳を潤ませてうなずいた。そばで矢上さんも微笑んでいた。私は立ち上げる。
「すみません今日は早めに失礼します」
「お話しできてよかったです。また機会があれば息子のことをご相談させてください」
握手を交わし、私はその場を離れた。

前回のように松山から国道58号線を横切り、国際通りを歩く。雨がパラついてますが酒が回って火照った体にはちょうど心地いい。
ちょっとだけ考える。
ペンダント、サーコにあげた方が良かったかな。でも、そんなことしたら、彼女はきっと。

私は首をブンブン振って考えるのをやめ、いつしか牧志の事務所を目指し駆け足になっていた。
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