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四章:類が変なの呼んで来た
P.80
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「恋のお呪い……」
棟内の階段を、一段ずつ時間を掛けて下りながら夏樹はまひろの言葉を復唱した。
「えぇ、その人からのお願いは……要約すると『好きな人が出来たから、繋がりが出来るか想いが成就されるお呪いを教えて欲しい』ってもの」
数段先で、まひろは同じペースで階段を下りている。
「そーんな簡単に結ばれる方法なんて有んのかねぇ」
瞬は困ったように眉を寄せて言った。
その後ろで、和輝は思いつく限りの『お呪い』を思い出している。
消しゴムの、カバーで見えない部分に好きな人の名前を書いて持ち歩く。パワーストーン。最近だとSNSを利用した現代的なものも有ったか。
どれも学生の間で行われているような、信憑性の低いものだ。鈴鳥が欲しているのは、きっとそんな何処かで聞き覚えが有るものではないのだろう。
「ちなみに夏樹ちゃんは、そういうのに心当たりは?」
まひろに訊ねられ、夏樹は暫し真剣な顔で悩みながら顎に手を当てた。
「……無いッスねぇ」
いつの間にかサークルの一員のように混じっている夏樹は、和輝と同じような結論に至った様子で唸った。
「逆にまひろさんは何か知らないの?」
そのまま訊き返されて、まひろは苦笑する。
「私達は『体験』するのは得意だけど『調査』は二の次なのよねぇ」
「逆だろ」
呆れて優弥が首を振った。
負けじと、まひろは涼しい笑みを浮かべたまま彼に返した。
「あら、別に全くしないなんて事はないわよ。肝試しの時だって、ちゃあんと事前に現地の写真撮ってたでしょう? ねぇ、舞」
しかし、舞からの応答が聞こえない。
「本条さん? どうしたの、その……」
舞は先程の写真の内の一枚、籠飼翔の写真をじっと見つめたまま押し黙っている。
あまりに真剣な顔つきだった故、様子を訊こうとした和輝も言葉を失ってしまった。
「何だ、一目惚れか?」
からかう様に、優弥が鼻先で笑った。
「面白そうな話だが、関係がややこしくなるぞ」
それでも良いならお前の好きにすると良いさ。
そんな風にも取れる言葉を言い終わり、優弥は一番最初に階段の底へ足を着けた。
「アタシ、やっぱりこの人知ってる」
瞬が棟の扉に手を掛けたと同時に、舞は急に口を動かした。
「籠飼君でしょ。別の大学の人」
「舞ちゃん、知り合いなの?」
舞の発言に気を取られ、瞬は扉の解放が疎かになっている。
中途半端に開かれた扉から侵入したうだるような熱風が、和輝達の身体を撫ぜた。
「知り合いって程じゃないけど……高校の時の先輩で、バスケ部に居て……」
口籠る舞を尻目に、痺れを切らした優弥が力を込めて扉を押した。
瞬がつんのめって転び掛け、油の切れた鉄扉が古めかしい音を立てて垂直に開く。
その音に掻き消されるように「……アタシの好きだったヒト」と舞が口を尖らせて小さく付け加えた。
棟内の階段を、一段ずつ時間を掛けて下りながら夏樹はまひろの言葉を復唱した。
「えぇ、その人からのお願いは……要約すると『好きな人が出来たから、繋がりが出来るか想いが成就されるお呪いを教えて欲しい』ってもの」
数段先で、まひろは同じペースで階段を下りている。
「そーんな簡単に結ばれる方法なんて有んのかねぇ」
瞬は困ったように眉を寄せて言った。
その後ろで、和輝は思いつく限りの『お呪い』を思い出している。
消しゴムの、カバーで見えない部分に好きな人の名前を書いて持ち歩く。パワーストーン。最近だとSNSを利用した現代的なものも有ったか。
どれも学生の間で行われているような、信憑性の低いものだ。鈴鳥が欲しているのは、きっとそんな何処かで聞き覚えが有るものではないのだろう。
「ちなみに夏樹ちゃんは、そういうのに心当たりは?」
まひろに訊ねられ、夏樹は暫し真剣な顔で悩みながら顎に手を当てた。
「……無いッスねぇ」
いつの間にかサークルの一員のように混じっている夏樹は、和輝と同じような結論に至った様子で唸った。
「逆にまひろさんは何か知らないの?」
そのまま訊き返されて、まひろは苦笑する。
「私達は『体験』するのは得意だけど『調査』は二の次なのよねぇ」
「逆だろ」
呆れて優弥が首を振った。
負けじと、まひろは涼しい笑みを浮かべたまま彼に返した。
「あら、別に全くしないなんて事はないわよ。肝試しの時だって、ちゃあんと事前に現地の写真撮ってたでしょう? ねぇ、舞」
しかし、舞からの応答が聞こえない。
「本条さん? どうしたの、その……」
舞は先程の写真の内の一枚、籠飼翔の写真をじっと見つめたまま押し黙っている。
あまりに真剣な顔つきだった故、様子を訊こうとした和輝も言葉を失ってしまった。
「何だ、一目惚れか?」
からかう様に、優弥が鼻先で笑った。
「面白そうな話だが、関係がややこしくなるぞ」
それでも良いならお前の好きにすると良いさ。
そんな風にも取れる言葉を言い終わり、優弥は一番最初に階段の底へ足を着けた。
「アタシ、やっぱりこの人知ってる」
瞬が棟の扉に手を掛けたと同時に、舞は急に口を動かした。
「籠飼君でしょ。別の大学の人」
「舞ちゃん、知り合いなの?」
舞の発言に気を取られ、瞬は扉の解放が疎かになっている。
中途半端に開かれた扉から侵入したうだるような熱風が、和輝達の身体を撫ぜた。
「知り合いって程じゃないけど……高校の時の先輩で、バスケ部に居て……」
口籠る舞を尻目に、痺れを切らした優弥が力を込めて扉を押した。
瞬がつんのめって転び掛け、油の切れた鉄扉が古めかしい音を立てて垂直に開く。
その音に掻き消されるように「……アタシの好きだったヒト」と舞が口を尖らせて小さく付け加えた。
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