70 / 136
四章:類が変なの呼んで来た
P.70
しおりを挟む
「瞬君、帰ってから大丈夫だったの?」
舞がローテーブルに前のめりに両手を置いた。
彼女が気にするのも尤もで、それは夏樹が言っていた事が不安を煽っていたからだ。
ビデオを回収しに伺います。そんな感じの言葉だった。
いつ、どのタイミングで家に行くとまでは申告されなかったが、あれが本当なら遠からず瞬の瞳はまた潤む事になるだろう。
だが、和輝は少なくともあの後すぐという事は無かったんじゃないか、と舞の質問に対して予測した。
何故ならこれも夏樹本人が言っていた事だが、どうも和輝が寝た辺りから和輝の家に居たらしいからだ。
和輝は帰ってすぐに眠ってしまったから、瞬の家に行く時間は無かったと思われる。
別に確信は無い。和輝が寝ている間に行っている可能性も有るし、本当の事を言っている可能性も有る。
自宅で話している時は、ビデオらしき物を持っている感じはしなかったが……。
「……本条」
のそりと、優弥が持っていた雑誌を閉じてそのままテーブルの上に投げ捨てた。
暑苦しそうに垂れた袖口から力の抜けた手招きで舞をソファに引き戻したかと思えば、何やら彼女に耳打ちをしている。
ボソボソとした彼の籠った低音から内容は聞き取れない。舞は真顔で数回頷いた後。
「……あの後、ネカフェに泊まったんだって!」
と声を大にして報告した。
これは顔の向きからして、和輝に言ったのだろうか。
「ちょ……優弥!? 何でバラしたの!?」
瞬が慌てて前傾姿勢になる。だがもう遅い。
「いや……まさかそのまま言うとは思わんくてな」
深々とソファに腰掛けている優弥は、大して悪びれた様子も無く言った。
ネカフェ……ネットカフェなら確かに一人暮らしの家より安全か。
大体の時間帯に他の客も入っているし、何か起こればすぐに助けを呼べる。
座席も大方の予想は出来た。隣とは薄い板一枚だけで隔たれたオープン席だ。
「じゃ、アタシが気になってた事は消化されたし。そろそろ……何で部室に集まったんだっけ?」
「お前が止めたんだよ」
すかさず優弥が口を挟む。
和輝は、舞のある一言が引っ掛かった。
「……部室?」
「うん! あ……相田君には言ってなかったね。アタシとまひろ、オカルト研究会のサークル員なんだ!」
まひろが舞の背後まで動き、彼女が座っているソファの背もたれにずっしり両手の体重を掛けた。重みで舞の身体が沈んでいる。
「正確には『オカルト同好会』ね。私と舞しか居ないもの」
そう言えばそんな規則が有ったな、と和輝は思い出す。
この大学で正式なサークルを設立するには一定以上の人数が必要になる。厳密には五人以上だ。
四人以下でも『会』と呼ばれるものは生徒同士で自由に作れるが、会費の負担、会としての活動範囲は自己負担と自己責任になる。
「でもさぁ、もう研究会って言っちゃって良いんじゃない? 顧問の講師っぽいの、居るんでしょ?」
「誰だよ、そんな物好き……」
瞬が頬杖をついて萎びた声を出す。言っている事はその通りだと和輝も思った。
要は大学側から認可されていないにも関わらず、何をしているかも解らない二人の女子の面倒を大学の一室まで貸し与えて見ているのだ。
これが物好きと言わずして何と言おう。
「それは、確かに居るには居るんだけど。でも人数が揃ってないのも確かなのよね。これじゃあ講師の人にも申し訳無いわ」
まひろは体重を預けていたソファから姿勢を正すと、今度は優弥側と瞬側、両方のソファの間に立って皆の方を向く。
「そこで、よ!」
和輝は、何となく察しが付いた。
少なくとも自分には良い発表では無さそうだという予感だ。
舞がローテーブルに前のめりに両手を置いた。
彼女が気にするのも尤もで、それは夏樹が言っていた事が不安を煽っていたからだ。
ビデオを回収しに伺います。そんな感じの言葉だった。
いつ、どのタイミングで家に行くとまでは申告されなかったが、あれが本当なら遠からず瞬の瞳はまた潤む事になるだろう。
だが、和輝は少なくともあの後すぐという事は無かったんじゃないか、と舞の質問に対して予測した。
何故ならこれも夏樹本人が言っていた事だが、どうも和輝が寝た辺りから和輝の家に居たらしいからだ。
和輝は帰ってすぐに眠ってしまったから、瞬の家に行く時間は無かったと思われる。
別に確信は無い。和輝が寝ている間に行っている可能性も有るし、本当の事を言っている可能性も有る。
自宅で話している時は、ビデオらしき物を持っている感じはしなかったが……。
「……本条」
のそりと、優弥が持っていた雑誌を閉じてそのままテーブルの上に投げ捨てた。
暑苦しそうに垂れた袖口から力の抜けた手招きで舞をソファに引き戻したかと思えば、何やら彼女に耳打ちをしている。
ボソボソとした彼の籠った低音から内容は聞き取れない。舞は真顔で数回頷いた後。
「……あの後、ネカフェに泊まったんだって!」
と声を大にして報告した。
これは顔の向きからして、和輝に言ったのだろうか。
「ちょ……優弥!? 何でバラしたの!?」
瞬が慌てて前傾姿勢になる。だがもう遅い。
「いや……まさかそのまま言うとは思わんくてな」
深々とソファに腰掛けている優弥は、大して悪びれた様子も無く言った。
ネカフェ……ネットカフェなら確かに一人暮らしの家より安全か。
大体の時間帯に他の客も入っているし、何か起こればすぐに助けを呼べる。
座席も大方の予想は出来た。隣とは薄い板一枚だけで隔たれたオープン席だ。
「じゃ、アタシが気になってた事は消化されたし。そろそろ……何で部室に集まったんだっけ?」
「お前が止めたんだよ」
すかさず優弥が口を挟む。
和輝は、舞のある一言が引っ掛かった。
「……部室?」
「うん! あ……相田君には言ってなかったね。アタシとまひろ、オカルト研究会のサークル員なんだ!」
まひろが舞の背後まで動き、彼女が座っているソファの背もたれにずっしり両手の体重を掛けた。重みで舞の身体が沈んでいる。
「正確には『オカルト同好会』ね。私と舞しか居ないもの」
そう言えばそんな規則が有ったな、と和輝は思い出す。
この大学で正式なサークルを設立するには一定以上の人数が必要になる。厳密には五人以上だ。
四人以下でも『会』と呼ばれるものは生徒同士で自由に作れるが、会費の負担、会としての活動範囲は自己負担と自己責任になる。
「でもさぁ、もう研究会って言っちゃって良いんじゃない? 顧問の講師っぽいの、居るんでしょ?」
「誰だよ、そんな物好き……」
瞬が頬杖をついて萎びた声を出す。言っている事はその通りだと和輝も思った。
要は大学側から認可されていないにも関わらず、何をしているかも解らない二人の女子の面倒を大学の一室まで貸し与えて見ているのだ。
これが物好きと言わずして何と言おう。
「それは、確かに居るには居るんだけど。でも人数が揃ってないのも確かなのよね。これじゃあ講師の人にも申し訳無いわ」
まひろは体重を預けていたソファから姿勢を正すと、今度は優弥側と瞬側、両方のソファの間に立って皆の方を向く。
「そこで、よ!」
和輝は、何となく察しが付いた。
少なくとも自分には良い発表では無さそうだという予感だ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
創作ホラー)銀星街夕暮れ少年探偵団
黑野羊
ホラー
地区リーダーなので怪奇な『困り事』も解決します。ただし、なんとなく。
あらすじ)
小学六年になった瀬尾雪弥(せのおゆきや)は、夕暮れ地区子ども会のリーダーに抜擢された。最初は面倒くさいと思っていたのだが、同じ地区の子ども達に何かにつけて頼られ感謝されるうちに、リーダーも悪くないな、と思い始める。
そんななか、雪弥の元にどこか不気味で変わった『困り事』の相談がやってきて──。
銀星町を中心に、小学生の雪弥のもとに持ち込まれた、ちょっと不可思議な『困り事』を、サブリーダーの三森遥斗(みもりはると)や別地区リーダーの夜野田虎太郎(よのだこたろう)、お隣に住んでいる幼馴染の大学生・天崎肇(あまさきはじめ)も巻き込んで、一緒になんとなく解決していく一話完結型の連作短編集です。
※一話が書き上がり次第更新するので、更新は不定期です。
主な登場人物)
瀬尾雪弥(せのおゆきや)
銀星小学六年生(六年三組)
責任感と好奇心が強い、運動神経がよく、背は小さいが口がたつ。夕暮れ地区子ども会のリーダーを務める。
両親が共働き(父は単身赴任、母は看護師)で家にいないことが多いため、よくお隣の天崎家に泊まっている。
天崎肇(あまさきはじめ)
大学二年生
人が良くて頼まれたら断れない、子どもに懐かれる、怖がりで暗いところとお化けが苦手なお兄さん。
雪弥とは隣同士で、兄弟のように育った幼馴染。
三森遥斗(みもりはると)
銀星小学六年生(六年一組)
夕暮れ地区子ども会のサブリーダーで、好奇心旺盛。雪弥よりも背が高く、水泳を習っている。雪弥と一年の頃から仲が良く、習い事のない日はよく一緒に遊んでいる。
夜野田虎太郎(よのだこたろう)
銀星小学六年生(六年四組)
夕暮れ地区の隣にある、月夜地区子ども会のリーダー。背は雪弥と同じくらいで、丸いメガネをかけており、どこかおっとりしている。以前同じクラスだったこともあり、雪弥や遥斗とも仲がいい。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
異界劇場 <身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集>
春古年
ホラー
身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集。
通勤通学、トイレ休憩のお供にどうぞ♪
Youtubeにて動画を先行公開中です。
2023年2月28日現在、通常動画とショート動画合わせて約50本の動画を公開しています。
次のURLか、Youtubeにて"異界劇場"とご検索下さい。
https://www.youtube.com/@ikaig
是非、当チャンネルへのお越しをお待ちしております。
第6回ホラー・ミステリー小説大賞参加中!
😊😊😊投票をお願いします😊😊😊
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる