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二章:肝試しなんて身から出たアレ
P.42
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「ひいぃぃぃん……!」
和輝の隣で掠れた絞り声が聞こえた。
既に舞が体力の限界を迎えそうだ。
かく言う和輝も彼女を気遣ってやれるような余裕は無い。
とにかく走る。走る。
生暖かい風が頬を吹き抜けて行く。
優弥の忠告でより一層危機感が増した最後尾の二人が、必死になって腕を振る。
それを言った肝心の本人は、こんな状況でも何処か優雅さが見え隠れするまひろの後ろにピッタリくっついて走っていた。
まひろは瞬を横目で気に掛けながら、真後ろの圧に押されて足を進める。
多分、優弥も思い出したのだ。
目の前で走る赤茶髪のポニーテール美女が、オカルトマニアの超絶変人だという事に。
あれは瞬を気に掛けているのではない。
気に掛けるフリをして隙あらば後ろを見てみようとしている。
それに気付いた優弥が、自身の長身で何とか背後の視界を妨げていた。
「……神谷、そこ右だ!」
優弥が先頭に次の行先を示した。
何か軽い違和感を覚えながらも、和輝達も後を追う。
「ゆっ、優弥ッ!? ホントにこっちで合ってるゥ!?」
獣道にすらなっていない、草藪の中に瞬が先に突っ込んだ。
後の四人も瞬が身体を捻じ込んだ箇所から、それぞれ頭から潜って行く。
「ぐおぉぉぉ……!」
前で瞬の唸り声が聞こえる。
和輝からは優弥とまひろの背中しか見えないので彼がどうなっているのか判らないが、あまり穏やかな道程では無さそうだ。
「いっだぁ!」
真隣では舞が声を荒げた。
丈の短いブラウスにショートパンツでは流石に無謀だったか。
それでも突き進まなければ。
無造作に伸びた雑草が足に引っ掛かる。
和輝はそれを振り上げた足で無理矢理に引き千切ると、前三人でこじ開けられた藪の道を掻き分けた。
舞の方が先に頭一個分速かったのは、和輝に残された少ない良心と単純な体力の少なさからだ。
拙い足取りの舞に和輝も自然と速度が落ちる。
大丈夫だ。ほぼ全力で走って来た。
後ろを振り返る余力は残っていなかったが、この労力に見合っただけの安全は得られたと信じたい。
やがて密集した草藪も薄くなってきたのが見えた。
目の前の舞が急激に遅くなったのは、その先で足を止めている三人の姿が見えたからだろう。
最後の草の塊を手で押し除け、息も切れ切れに和輝も両手を膝に当てて肩で呼吸を繰り返した。
「ここまで……来れば……大丈夫だろ……」
優弥が顎の汗を手で拭っている。
厚手の長袖の彼には間違いなく辛かっただろう。
皆と少し距離を開けた所で、傍の木に手をついて瞬も大きく肩を上下させている。
「ちょっと見たかったのに……残念」
「……だろうと思った」
まひろの顔にも流れる汗が見えたが、彼女はそれよりも後ろが気になっているようで、誰を見るよりもまず草藪を振り返った。
舞は草藪を抜け出たその場所で蹲っている。
千切れた草が髪や服に付いていたが、そんな物を取る余裕さえ無さそうだった。
「もう……聞こえない……よな……?」
まひろが振り返って何も反応していないので、和輝も大丈夫だとは思いつつ改めて確認する。
多分、そうだからここで止まったのだ。
皆ヘロヘロで……いや、唯一まひろだけは違ったが、束の間の平穏というヤツを噛み締めている。
走った後には急に止まらず、歩いてクールダウンした方が良いらしい。
高校の時にそう聞いた事が有る。心臓に負担が掛かるとか何とか。
ただしこの場でその対処が出来るのは、まひろだけの様だ。
そもそも、ここに来たからと言って彼らに完全な安全が訪れた訳では無かった。
和輝の隣で掠れた絞り声が聞こえた。
既に舞が体力の限界を迎えそうだ。
かく言う和輝も彼女を気遣ってやれるような余裕は無い。
とにかく走る。走る。
生暖かい風が頬を吹き抜けて行く。
優弥の忠告でより一層危機感が増した最後尾の二人が、必死になって腕を振る。
それを言った肝心の本人は、こんな状況でも何処か優雅さが見え隠れするまひろの後ろにピッタリくっついて走っていた。
まひろは瞬を横目で気に掛けながら、真後ろの圧に押されて足を進める。
多分、優弥も思い出したのだ。
目の前で走る赤茶髪のポニーテール美女が、オカルトマニアの超絶変人だという事に。
あれは瞬を気に掛けているのではない。
気に掛けるフリをして隙あらば後ろを見てみようとしている。
それに気付いた優弥が、自身の長身で何とか背後の視界を妨げていた。
「……神谷、そこ右だ!」
優弥が先頭に次の行先を示した。
何か軽い違和感を覚えながらも、和輝達も後を追う。
「ゆっ、優弥ッ!? ホントにこっちで合ってるゥ!?」
獣道にすらなっていない、草藪の中に瞬が先に突っ込んだ。
後の四人も瞬が身体を捻じ込んだ箇所から、それぞれ頭から潜って行く。
「ぐおぉぉぉ……!」
前で瞬の唸り声が聞こえる。
和輝からは優弥とまひろの背中しか見えないので彼がどうなっているのか判らないが、あまり穏やかな道程では無さそうだ。
「いっだぁ!」
真隣では舞が声を荒げた。
丈の短いブラウスにショートパンツでは流石に無謀だったか。
それでも突き進まなければ。
無造作に伸びた雑草が足に引っ掛かる。
和輝はそれを振り上げた足で無理矢理に引き千切ると、前三人でこじ開けられた藪の道を掻き分けた。
舞の方が先に頭一個分速かったのは、和輝に残された少ない良心と単純な体力の少なさからだ。
拙い足取りの舞に和輝も自然と速度が落ちる。
大丈夫だ。ほぼ全力で走って来た。
後ろを振り返る余力は残っていなかったが、この労力に見合っただけの安全は得られたと信じたい。
やがて密集した草藪も薄くなってきたのが見えた。
目の前の舞が急激に遅くなったのは、その先で足を止めている三人の姿が見えたからだろう。
最後の草の塊を手で押し除け、息も切れ切れに和輝も両手を膝に当てて肩で呼吸を繰り返した。
「ここまで……来れば……大丈夫だろ……」
優弥が顎の汗を手で拭っている。
厚手の長袖の彼には間違いなく辛かっただろう。
皆と少し距離を開けた所で、傍の木に手をついて瞬も大きく肩を上下させている。
「ちょっと見たかったのに……残念」
「……だろうと思った」
まひろの顔にも流れる汗が見えたが、彼女はそれよりも後ろが気になっているようで、誰を見るよりもまず草藪を振り返った。
舞は草藪を抜け出たその場所で蹲っている。
千切れた草が髪や服に付いていたが、そんな物を取る余裕さえ無さそうだった。
「もう……聞こえない……よな……?」
まひろが振り返って何も反応していないので、和輝も大丈夫だとは思いつつ改めて確認する。
多分、そうだからここで止まったのだ。
皆ヘロヘロで……いや、唯一まひろだけは違ったが、束の間の平穏というヤツを噛み締めている。
走った後には急に止まらず、歩いてクールダウンした方が良いらしい。
高校の時にそう聞いた事が有る。心臓に負担が掛かるとか何とか。
ただしこの場でその対処が出来るのは、まひろだけの様だ。
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