single tear drop

ななもりあや

文字の大きさ
上 下
745 / 799
守るべき大切な人

守るべき大切な人

しおりを挟む
「俺が憎くないのか?」
傷口を軽くぬるま湯で洗い流してから、消毒して包帯を巻いていたら玉井さんにそんなことを言われた。
「俺は真珠を唆し、お前を殺すように仕組んだ。憎くないのか?」
どう答えていいか思案に暮れていたら、また声を掛けられた。
これは神様が与えてくれた試練だ。
決して憎まず、みなに感謝して生きろ。お祖父ちゃんにそう言われたんだもの。
ううん、首を横に振った。
「人嫌いの地竜《ディノン》がお前に心底惚れ込んだ理由が何となく分かったような気がする。さすが、播本の孫、卯月の女房だ」
包帯を巻き終えると玉井さんは背凭れに掛けてあった上着に手を伸ばした。
「玉井さん、待って‼まだ、血が、完全に止まってない」
お願いだから今は動かないで。もう少しじっとしてて。
「播本に『ありとう』って・・・・孫のきみから伝えてくれないか?」
「玉井さん・・・・?」
意味がよく分からなくて首を傾げた。
「毎年、弟の命日に誰かが墓参りをしてくれていた。それが誰か今まで分からなかった。弟は顔に似合わず甘いものが好物だったみたいで、真っ白な箱の中にはいつもアップルパイや甘いお菓子が入っていた。上京したとき伊澤に播本の店に連れていかれて、その時出されたアップルパイを見たとき、墓参りをしてくれていたのは播本だと確信した。それなのに俺は孫である君を殺そうとした。本当にすまなかった」
自分がしたことを責める玉井さん。
後悔しても仕切れないと、両手で顔を覆った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

その日君は笑った

mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。 それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。 最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。 拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。 今後ともよろしくお願い致します。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

桜空

ななもりあや
BL
夢を叶えるためにアルバイトを掛け持ちし学費を貯めている桜空。オフィス清掃の仕事先で運命の出会いを果たすことに 表紙絵は絵師の有田夕姫さん(@yuuki_arita)に描いていただきました。ご縁に深く感謝します

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

処理中です...