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心に降る雨
心に降る雨
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「未知さんといちゃついていても一向に構いませんが、緊急事態だということを忘れていませんか?」
険しい表情で彼に詰め寄った。
「忘れるわけないだろう」
橘さんに睨まれ慌てて腕を離すと、椅子の背凭れに掛けてあった上着をシャツの上に羽織った。
「千里から連絡は?」
「いえ、まだありません」
「そうか………未知、紗智を探してくる。詳しいことは橘や那和から聞いてくれ」
それだけ言うと迎えに来た弓削さんと慌ただしく出掛けていった。
ふぇ~~ふぇ~~と泣きじゃくる太惺を抱き上げるとすぐに泣き止んだ。
心望も橘さんに抱き上げて貰いあやしてもらううちに泣き止んだ。
「紗智さんを探してくるって、あの、橘さん……」
結婚式が近付くにつれ紗智さんは情緒不安定になった。
何も手に付かないのか、ぼぉーーとして空を見上げては、その度に深いため息をついていた。
前日の夜、本当に俺でいい?愛される自信ない。嫌われそうで怖い。不安ばかり口にして、彼に焼きもちを妬かれても僕からなかなか離れようとはしなかった。
「ボクから話す」
那和さんが隣に静かに腰をおろしてきた。
「ボクや紗智、リーや浩然のオモチャ。たくさんの男の相手させられた。ボクも紗智も十年近く………煙草の火を押し付けられ、縛られ、叩かれることもあった。紗智は誰からも優しく抱いて貰ったこと一度もない。愛されたことない。だから尚更怖い」
「鞠家さんもその辺りの事情は誰よりも一番分かっていました。トラウマを抱えた紗智さんをこれ以上怖がらせないようにするにはどうしたらいいか、かなり悩んでいました。ハグが出来るようになるまで1ヶ月近く掛かりましたからね」
そうか。だからなんだ。誓いのキスが頬っぺたじゃなくて、手の甲だったんだ………
笑顔の下で紗智さんは一人でもがき苦しんでいた。橘さんとなら怖くない。だから一緒に結婚式を挙げたんだ。
母親失格だ。
紗智さんのこと何も知らなすぎた。一番近くにいたのに何もしてあげられなかった。
落ち込む僕に「マー悪くない」那和さんが笑顔で励ましてくれた。
険しい表情で彼に詰め寄った。
「忘れるわけないだろう」
橘さんに睨まれ慌てて腕を離すと、椅子の背凭れに掛けてあった上着をシャツの上に羽織った。
「千里から連絡は?」
「いえ、まだありません」
「そうか………未知、紗智を探してくる。詳しいことは橘や那和から聞いてくれ」
それだけ言うと迎えに来た弓削さんと慌ただしく出掛けていった。
ふぇ~~ふぇ~~と泣きじゃくる太惺を抱き上げるとすぐに泣き止んだ。
心望も橘さんに抱き上げて貰いあやしてもらううちに泣き止んだ。
「紗智さんを探してくるって、あの、橘さん……」
結婚式が近付くにつれ紗智さんは情緒不安定になった。
何も手に付かないのか、ぼぉーーとして空を見上げては、その度に深いため息をついていた。
前日の夜、本当に俺でいい?愛される自信ない。嫌われそうで怖い。不安ばかり口にして、彼に焼きもちを妬かれても僕からなかなか離れようとはしなかった。
「ボクから話す」
那和さんが隣に静かに腰をおろしてきた。
「ボクや紗智、リーや浩然のオモチャ。たくさんの男の相手させられた。ボクも紗智も十年近く………煙草の火を押し付けられ、縛られ、叩かれることもあった。紗智は誰からも優しく抱いて貰ったこと一度もない。愛されたことない。だから尚更怖い」
「鞠家さんもその辺りの事情は誰よりも一番分かっていました。トラウマを抱えた紗智さんをこれ以上怖がらせないようにするにはどうしたらいいか、かなり悩んでいました。ハグが出来るようになるまで1ヶ月近く掛かりましたからね」
そうか。だからなんだ。誓いのキスが頬っぺたじゃなくて、手の甲だったんだ………
笑顔の下で紗智さんは一人でもがき苦しんでいた。橘さんとなら怖くない。だから一緒に結婚式を挙げたんだ。
母親失格だ。
紗智さんのこと何も知らなすぎた。一番近くにいたのに何もしてあげられなかった。
落ち込む僕に「マー悪くない」那和さんが笑顔で励ましてくれた。
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