single tear drop

ななもりあや

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修羅の妄執

修羅の妄執

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「無理してまで言う必要はありませんよ」

橘さんが和泉さんの背中を優しく擦った。

「梶山は鷲崎に和泉の子守りを丸投げされて以降、組長のセクハラ行為から守るため自分のイロと公言し、そのように振る舞っていたんだ」

じゃあ、忙しいんだ切るぞ。ろくに話しもせず一方的に電話を切る柚原さん。焼き餅を妬いているのかブスッとしていた。

それからすぐに一太と遥香から電話があって。邪魔をしないよう廊下にそぉーと出て二人の元気な声を笑いながら夢中で聞いていた。

だから気が付かなかったんだと思う。
足音を忍ばて近付いてくる影に……


「物音を立てるな」
ひんやりと冷たい鉛の塊が背中に押し付けられ、カチリと引き金を引く金属音に背筋がぞっと冷たくなり、全身が凍り付いた。
恐る恐る上目遣いに見ると、ニヤリと薄笑いを浮かべる鳥飼さんと目が合った。

「悪いが人質になって貰う。抵抗しなければ危害は加えない」

『ママどうしたの?』
『ママ、だいじょうぶ?』
心配する子供たちの声が聞こえてくるスマホを取り上げられ、ブチと電源をオフにすると近くにあったゴミ箱に捨てられた。

「非常口に向かって歩け」
「何、ちんたらしてんだ。さっさと歩け」

恐怖で足がすくみガタガタと震えて一歩も前に進むことが出来ないでいたら、痺れを切らした鳥飼さんに腕を鷲掴みされ、そのまま非常口まで引きずられていった。

「下でタクシーが待ってるよ」
「あぁ、悪いな」

待ち構えていた睦さんが辺りを警戒しながら、非常口の扉の鍵を開けた。

「暗いからゆっくり行くぞ」

澄み切った空に月が浮かんであたりを煌々と照らしていた。
足を踏み外したら間違いなく底無しの暗闇に飲み込まれる。
恐怖のあまり全身が震え、目を見開いて瞬きも出来ない状態になった。
自分はどうなっても構わない。せめてお腹の子達だけでも守らないと。片方の手でお腹をそっと抱え込んだ。
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