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36 デートの理由
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しかし、ここで落ち込んでいる訳にもいかず、気合いを入れてもう一度メニューと睨めっこする。
ちなみに、この店のメニューの表紙はやたら高級そうな素材で作られており、中も触った感じ明らかに上質な紙で出来ているので、プレッシャーが半端ない。
そんな物を手にしていると再認識し、俺は再び青ざめた。
(あぁあ、どうしよう……!? やっぱ俺はサイドメニューで済ませるか!? でも、それってどう考えてもカッコ悪いよな!?)
メニューからチラリと視線を上げ、桜さんの様子を伺う。
すると目が合い、桜さんが微笑んだ。
「もう決まった? 私は決まったよ」
「あっ……そ、そか。俺も……いいよ、決まった。店員さん呼ぼうか」
うそだ、全然決まってない。
出来る事なら、ここで注文する事自体キャンセルして店を出てファーストフード店にでも逃げ込みたい。
でも、もう桜さんは注文する気満々でニコニコだし、どうする事も出来ない。
ぐるぐる考えた挙げ句、俺は無理だと悟り、軽く手を上げて店員を呼んだ。
もう、どうにでもなれだ。
店員はすぐに気付き、俺達の席へやってきた。
「お決まりですか」
「はい、えっと……」
まさか食い逃げする訳にもいかないので、俺はカッコ悪いと思いつつも、コース料理の中で一番安い六千円のものを注文した。
というか、もう桜さんに奢ってあげることは出来ない。
ドリンクなんてもっての外なので、俺は無料で出された水で耐えると決め、ドリンクの注文は控えた。
すると、続いて桜さんも同じコース料理を注文し、ドリンクは頼まないで注文を終わらせる。
(あ……気を遣ってくれてるのかな)
とりあえず、今のところはアウトの中でもセーフだ。
奢りさえしなければ支払いは出来るし、なんとか良い方向にいってくれ。
合計金額を予想して、俺は手に汗を握り締める。
本当に情けない話だけれど、この後も油断は出来ない。
もし追加でアルコールでも注文されたら、流石に俺もドリンクを頼むだろうし、例え割り勘だとしてもギリギリだ。
一応、今日のデートコースとして、この後は軽く散歩して着いた先でお茶もしようとか考えていたのだけれど、この店でどれぐらい使うかによってその未来は左右される。
というか、散歩とお茶が叶ったとしても俺の精神面はもはやボロボロ。
マジで最悪だ。
なんて、一人悶々としていると、桜さんが声をかけてきた。
「……ねぇ、颯太君。さっきからなんだか上の空みたいだけど……大丈夫?」
「えっ……!?」
上の空という言葉に、ついドキリとする。
確かに、俺はずっとお金の心配ばかりしていた。
それに、女嫌いを克服することにも気を取られていたし、肝心な桜さんとのコミュニケーションを疎かにしてしまっていた。
このままでは、桜さんに嫌われてしまう。
内心焦り、俺は急いで話を続けた。
「そ、そんなことないですよ! ここの店、すごく落ち着いた雰囲気で、いいなって思ってたんです。……そうだ! 桜さんてフレンチのが好きなんですね。ここの、美味しそうだし楽しみですよね!」
やや苦しい話題かもしれないが、今はこれが限界だ。
すると、桜さんは苦笑を浮かべ、答えた。
「そうね、イタリアンよりはフレンチかなぁ。あと、洋食は大体どれも好きかな。和食も好きだけど、朝食もパン派だし」
「へぇ、そうなんですね。あ、俺も朝はよくパン食べますよ」
「そうなのね」
「……」
……会話が続かない。
美人を前にして、思ったより緊張してしまっているのだろうか。
俺は僅かに俯き、膝の上で手のひらを握りしめた。
(やっぱり、女嫌いな性格って治らないのかな……)
そう思うと、ちょっと泣きそうになる。
別に桜さんは意地悪な人でもないし、高校時代のクラスの女子みたいに落ち着きがない訳でもない。
それどころか、美人で落ち着いてて俺より年上で、俺の意見も聞いてくれる、しっかりしたお姉さんという感じだ。
こんな素敵な人と素敵なレストランで、素敵な時間を過ごしているはずなのに、何かが違う。
でも、何が違うのだろう。
(どうしよう……蒼井……)
なぜかふと、その名が浮かんできて、俺はハッと顔を上げた。
すると桜さんが不思議そうに俺の顔を見つめている
「大丈夫? やっぱりなんか、顔色が良くないわ」
「あ、いえ……あの、俺……」
もう、ダメかもしれない。
これ以上、自分の気持ちに嘘をつくのも、桜さんに嘘をつくのも、耐えられる気がしない。
俺はとうとう根を上げて桜さんを見つめた。
「あの、俺……っ実は……」
すると、それ以上話す前に桜さんが口を開いた。
「颯太君、聞いてもいい? 今日、私と会うことにしたのって、本当に恋人が欲しかったから?」
ちなみに、この店のメニューの表紙はやたら高級そうな素材で作られており、中も触った感じ明らかに上質な紙で出来ているので、プレッシャーが半端ない。
そんな物を手にしていると再認識し、俺は再び青ざめた。
(あぁあ、どうしよう……!? やっぱ俺はサイドメニューで済ませるか!? でも、それってどう考えてもカッコ悪いよな!?)
メニューからチラリと視線を上げ、桜さんの様子を伺う。
すると目が合い、桜さんが微笑んだ。
「もう決まった? 私は決まったよ」
「あっ……そ、そか。俺も……いいよ、決まった。店員さん呼ぼうか」
うそだ、全然決まってない。
出来る事なら、ここで注文する事自体キャンセルして店を出てファーストフード店にでも逃げ込みたい。
でも、もう桜さんは注文する気満々でニコニコだし、どうする事も出来ない。
ぐるぐる考えた挙げ句、俺は無理だと悟り、軽く手を上げて店員を呼んだ。
もう、どうにでもなれだ。
店員はすぐに気付き、俺達の席へやってきた。
「お決まりですか」
「はい、えっと……」
まさか食い逃げする訳にもいかないので、俺はカッコ悪いと思いつつも、コース料理の中で一番安い六千円のものを注文した。
というか、もう桜さんに奢ってあげることは出来ない。
ドリンクなんてもっての外なので、俺は無料で出された水で耐えると決め、ドリンクの注文は控えた。
すると、続いて桜さんも同じコース料理を注文し、ドリンクは頼まないで注文を終わらせる。
(あ……気を遣ってくれてるのかな)
とりあえず、今のところはアウトの中でもセーフだ。
奢りさえしなければ支払いは出来るし、なんとか良い方向にいってくれ。
合計金額を予想して、俺は手に汗を握り締める。
本当に情けない話だけれど、この後も油断は出来ない。
もし追加でアルコールでも注文されたら、流石に俺もドリンクを頼むだろうし、例え割り勘だとしてもギリギリだ。
一応、今日のデートコースとして、この後は軽く散歩して着いた先でお茶もしようとか考えていたのだけれど、この店でどれぐらい使うかによってその未来は左右される。
というか、散歩とお茶が叶ったとしても俺の精神面はもはやボロボロ。
マジで最悪だ。
なんて、一人悶々としていると、桜さんが声をかけてきた。
「……ねぇ、颯太君。さっきからなんだか上の空みたいだけど……大丈夫?」
「えっ……!?」
上の空という言葉に、ついドキリとする。
確かに、俺はずっとお金の心配ばかりしていた。
それに、女嫌いを克服することにも気を取られていたし、肝心な桜さんとのコミュニケーションを疎かにしてしまっていた。
このままでは、桜さんに嫌われてしまう。
内心焦り、俺は急いで話を続けた。
「そ、そんなことないですよ! ここの店、すごく落ち着いた雰囲気で、いいなって思ってたんです。……そうだ! 桜さんてフレンチのが好きなんですね。ここの、美味しそうだし楽しみですよね!」
やや苦しい話題かもしれないが、今はこれが限界だ。
すると、桜さんは苦笑を浮かべ、答えた。
「そうね、イタリアンよりはフレンチかなぁ。あと、洋食は大体どれも好きかな。和食も好きだけど、朝食もパン派だし」
「へぇ、そうなんですね。あ、俺も朝はよくパン食べますよ」
「そうなのね」
「……」
……会話が続かない。
美人を前にして、思ったより緊張してしまっているのだろうか。
俺は僅かに俯き、膝の上で手のひらを握りしめた。
(やっぱり、女嫌いな性格って治らないのかな……)
そう思うと、ちょっと泣きそうになる。
別に桜さんは意地悪な人でもないし、高校時代のクラスの女子みたいに落ち着きがない訳でもない。
それどころか、美人で落ち着いてて俺より年上で、俺の意見も聞いてくれる、しっかりしたお姉さんという感じだ。
こんな素敵な人と素敵なレストランで、素敵な時間を過ごしているはずなのに、何かが違う。
でも、何が違うのだろう。
(どうしよう……蒼井……)
なぜかふと、その名が浮かんできて、俺はハッと顔を上げた。
すると桜さんが不思議そうに俺の顔を見つめている
「大丈夫? やっぱりなんか、顔色が良くないわ」
「あ、いえ……あの、俺……」
もう、ダメかもしれない。
これ以上、自分の気持ちに嘘をつくのも、桜さんに嘘をつくのも、耐えられる気がしない。
俺はとうとう根を上げて桜さんを見つめた。
「あの、俺……っ実は……」
すると、それ以上話す前に桜さんが口を開いた。
「颯太君、聞いてもいい? 今日、私と会うことにしたのって、本当に恋人が欲しかったから?」
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