上 下
157 / 175
14

157

しおりを挟む
・・・

バイトが終わり外に出ると、額を拭って大きく息を吐き出した。

(なんとか誤魔化せた……よな)

バイト中、俺はキスマークを見られないように、なるべく他のバイトや店長と目を合わせないようにしていた。

お陰で、なんとかバレずに済んだようで一安心。

(さて……ここからが悩ましいよな)

今日もこの後は、優真の部屋に行く事になっている。

けれど、優真にこのキスマークがバレないわけがないだろう。

(はぁ、マジで困った……今日は我慢して、自分の部屋で寝るか……)

しかし、明日も消えなかったら、明日も自分の部屋で一晩、一人で過ごすのかと思うと切ない。

(……とりあえず帰ろ)

悩んでいても埒があかず、俺は駅に向かって歩き出した。

・・・

そして、考えながら電車に乗り、道を進んでいるうちに、あっという間にアパートの前まで来てしまった。

(うぅ、着いちゃった)

とりあえず、無言で部屋に行かないのも嫌なので、優真の部屋に顔だけ出すことにする。

俺は首元をなるべく隠すようにしながら、インターホンを鳴らした。

すると、すぐにドアが開いて優真が飛び出してくる。

「うぉっ!?」

「おかえり♡エンジェル♡さぁ、中に入って。疲れただろう?今日はグラタンにコンソメスープと、デザートには洋梨のジェラーt」

「あ、あの……っ」

腰元に手が回され、強引に部屋へ連れ込まれそうになり、俺は慌てて身を引いた。

「ち、ちょっと待って……!あのさ……俺、今日は自分の部屋で、寝るから」

「え……どうしてだい?何か不都合な事でも……ああ、グラタンは苦手だったかな?」

「いや、むしろ好き」

「ふむ、じゃあ一体……ま、まさか、エンジェル……っ」

優真は何か思いついたらしく、俺の腕を掴むと、グイッと引き寄せた。

そして、おでこにそっと触れられる。

(……っ)

こんな時にも、優真の端正な顔が間近に迫るとドキッとしてしまう。

と、それはさておき、優真は真剣な顔で俺の顔を覗き込む。

「まさか、また熱でも……?」

「あ、いや……そういうわけじゃ、ないんだけど……」

どうやら優真は、俺が風邪をぶり返して遠慮しているのだと思っているらしい。

まぁ、そう思わせておいて、キスマークが消えるのを待つという手もあるだろうけれど、無駄に心配をかけるのはよろしくないだろう。

(でも、この場合は嘘つくのもありなのかな……)

キスマークがバレれば、結局、優真を傷付けてしまう。

俺は優真の手の感触を暫し堪能してから、そっと胸を押し返した。

「陽斗?」

「ごめん、俺……今日は調子悪いから、もう部屋に行く。ああでも、心配すんなよ。明日には良くなってると思うし」

なるべく軽い調子で言って、俺はサッと優真から離れると、自分の部屋のドアの前へ向かう。

そしてバッグの中から鍵を取り出そうとすると、そっと肩を掴まれた。

「……待って」

「……」

「なんか……様子が変だよ、陽斗?何かあった?」

「べ、別に……っ」

見透かされそうになり、俺は焦って自室の鍵を開けようとして……見事に手を滑らせた。

「あっ……!」

チャリン。

幸い、変な隙間に入って取れなくなるという事態にはならなかった。

ならなかったが、

「か、返せよ」

「ダメ。陽斗、何か隠してるよね?言ってくれるまで、鍵は返せないな」

鍵を優真に没収されてしまった。

バカな俺は、首元を隠すのも忘れて、鍵を取り返そうと優真に飛びつく。

「ずりぃっ……!つーか、調子悪いって言ってんだろっ」

「ホントに調子悪い?なんか……元気そうだなぁ」

「そんなこと……わっ!?」

「ふふ、つーかまえた♡」

あー……何やってんだ俺。

近付いたせいで、俺はまんまと優真の腕に捕らえられてしまった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

人体実験サークル

狼姿の化猫ゆっと
恋愛
人間に対する興味や好奇心が強い人達、ようこそ。ここは『人体実験サークル』です。お互いに実験し合って自由に過ごしましょう。 《注意事項》 ・同意無しで相手の心身を傷つけてはならない ・散らかしたり汚したら片付けと掃除をする [SM要素満載となっております。閲覧にはご注意ください。SとMであり、男と女ではありません。TL・BL・GL関係なしです。 ストーリー編以外はM視点とS視点の両方を載せています。 プロローグ以外はほぼフィクションです。あとがきもお楽しみください。]

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...