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第九十八話 使用人から妻になりました

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・・・


そして月日は流れ、三ヶ月後。

シグレさんの次の原稿の取材や下準備が一段落した頃、僕達は小さな教会で式を挙げた。


(母さん……僕、シグレさんと結婚します)


式の後、教会の敷地内にある中庭で、僕は鍵に取り付けられたチェーンを太陽の光にかざしながら、心の中で母さんに報告する。

結局、母さんはあの後容体が急変して、帰らぬ人となってしまった。

葬儀には、流石に父さんも参列して、母さんの死を悼んでいた。

そして僕と一緒に居たシグレさんの姿を見ると、深々と頭を下げ、去っていった。


(父さんとも、またいつか会えるかな……)


久しぶりに見る父の面影は、以前より穏やかに見えた。

もしかすると、若い頃の行いを反省しているのかもと、勝手に想像してしまった。


と、その時、後ろの扉から白いタキシードに身を包んだ男性が姿を表し、こちらに向かって笑顔で手を振る。


「セイラ、そろそろ出る時間だよ」


「あ、はい……っすみません、素敵なお庭だったので、つい……」


「ははっ、そうだね。本当に……今日は天気もいいし、素敵な式になって良かった」


「はい」


僕も微笑んで頷くと、シグレさんは僕の手に握られているチェーンを見て、小さなため息をついた。


「お母さんにも、見せたかったね」


「はい……でも、きっと今も空から、見ていてくれる気がします」


「ん、そうだね」


僕が見上げると、シグレさんも一緒に青く済んだ空を見上げた。

今日は雲一つない快晴で、式を上げるにはぴったりの日だ。


(僕はこれから、新たな人生をシグレさんと歩んで行きます)


空に向かって心の中で誓うと、きゅっと手が握られた。

思わずそちらを見ると、シグレさんがいつになく真面目な表情で僕を見つめていた。


「セイラ、これからも俺と一緒に、人生を歩んでくれる?」


「シグレさん……はい、もちろんです!」


さっきも式の中で、誓いの言葉や誓いのキスは交わしたけれど、今もう一度、二人きりで誓い合う。

そしてキスを交わし、両手を繋いで、おでこをコツンとくっつけた。


「よし、家に帰ろうか」


「はい、帰りましょう」


微笑み合い、もう一度キスを交わす……と思ったら、教会の管理人が出てきて僕達を止めた。

管理人は、白い髭を生やしたおじいちゃんで、ニコニコと人の良さそうな顔をしている。


「お二人共、仲が良いところすみませんがねぇ。もう時間が過ぎてるんで、あとは、ご自宅でお願いしますよ」


「あ……っ」


バッチリ見られてしまい、二人して頬を赤く染めると、管理人が楽しそうに笑った。

そして、こちらへやってくると、僕とシグレさんの手を取り、口を開いた。


「こんなラブラブなご夫婦、久しぶりに見ましたよ。今日の式は最高だった。というかアンタ、あの有名な小説家さんだろう?さっき、アンタの担当をしてるって女性から、一冊頂きましたよ。あげるから是非読んでくれってね。熱心な担当さんだ」


「え、そうだったんですか?すみません、全然気づかなかった……」


シグレさんが申し訳なさそうにすると、管理人はいやいやと首を振った。

それから今度は僕の方に向き、優しい笑みを浮かべる。


「セイラさん、これからも幸せに。何かあれば、教会でも相談に乗りますから、いつでもいらっしゃい」


「はい、ありがとうございます」


お礼を言うと、管理人はゆっくり頷く。


そしてその後、僕たちを出口まで案内してくれた。


「今日はありがとうございました」


「ああ、こちらこそ。二人の幸せを、心より祈っていますよ」


そう言って、管理人がドアをゆっくりと閉めると、感覚が日常に引き戻されていく。


「……あっという間だったね」


「はい。なんだか、少し寂しいです」


「ははっ、そうだね。じゃあ、またいつか結婚式やろうか」


「あ、それもいいですね!」


式の余韻にまだ浸りたくて、僕たちは次の結婚式の話に花を咲かせながら、ゆっくりと歩き始めた。


(今日から僕は、シグレさんの奥さん、てことになるのかぁ……)


今まで使用人だった僕の立場は、これからは妻という事になる。

使用人としての契約は終了し、正式にシグレさんのパートナーとして迎え入れられるのだ。


(どんな生活になるんだろう。楽しみだな)


繋いだ手を見つめながら、僕は密かに微笑んだ。



END・・・
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