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第七十五話 君に贈り物を

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・・・

「じゃあね、シグレ。また次の作品の事もあるし、連絡するわ」


会計を済ませ、カフェを出ると、エドナさんは軽く片手を上げ颯爽と去っていった。


「……綺麗で、気さくな人ですね」


「うん、そうだね。エドナはいつもあんな感じで、仕事熱心な女性だよ」


「そうなんですね」


本当に、エドナさんを見ているとバリバリ仕事をしているイメージしか浮かばなかった。

でも、あれだけ素敵な人なら、恋人の一人や二人いてもおかしくなさそうだけれど。

そう思ってぼんやりしていると、横から手が伸びてきて、肩をポンと叩かれる。


「さ、帰ろう。セイラに渡したい物もあるし」


「え、渡したいものって……なんですか?」


「内緒」


「えー」


なんだろう、気になる。

けれど、シグレさんは早く帰ろうと急かすばかりで教えてくれそうにない。


「ふふ、行こう。車で来て正解だったな」


「はぁ……」


なんのことやら分からず、僕は曖昧な返事を返す。

と、言い忘れていたのだが、今日のカフェは都内の少し遠い場所だった為、車で来たのだ。

今、車は近くの駐車場に停めてある。


「セイラ、手」


「あ……はい」


手を差し出され、少し戸惑ったものの、僕はそっとその手を握り返した。

すると、きゅっと指先を絡めて恋人繋ぎにされ、そのままジャケットのポケットの中へ。


「ふふ、これならイチャイチャしてても見えないね?」


「……っちょ、シグレさんっ!」


ポケットの中でスリスリと指を撫でられ、慌てて声を上げると、シグレさんはイタズラっぽい笑みを浮かべた。


(もう……)


でも、こんなやりとりも嬉しくて仕方がない。

僕はきゅっとシグレさんの手を握り返すと、幸せな気持ちで駐車場へ向かった。



・・・


そして、20分ほどで家に着き、僕はお茶の準備に取り掛かる。

紅茶と、軽くつまめそうなお菓子を用意すると、リビングへ運んだ。

シグレさんもネクタイを緩め、テーブルの上をサッと布巾で拭いてくれる。


「あっ、いいですよ。僕がやりますから……」


「いーの。ここは任せなさい。それより……ちょっと待ってて」


「……?」


そう言い残し、シグレさんはいそいそと部屋へ入っていき、何かを手にして戻ってきた。


「早速なんだけど、これを渡したかったんだ」


差し出されたのは、小さなプレゼントの箱だった。


「これ……?」


「ん、開けてみて?」


なんだろうと思いながら、そっとリボンを解く。

蓋を開けると……


「わ……綺麗な鍵」


小箱には、ピカピカに磨かれた綺麗な鍵が一本、入っていた。


「うん、綺麗でしょ?実は、この部屋のセキュリティを見直そうと思って、以前からマンションの管理会社に相談していたんだ。別に何かあったわけじゃないんだけど、最近少し鍵をかける時に調子が悪かったし、これからセイラと暮らす事も考えて、鍵を変えようかなって思ってね」


「そうなんですね……!この鍵、大切にします。すごい、綺麗……」


鍵の交換なんて、そう滅多にある話ではないと思うけれど、αがΩを正式に迎え入れる際、鍵を交換するという話は、都内ではよく聞く話だ。

理由はやはり、防犯面の強化だろう。

αとしては、か弱いΩを守りたいという気持ちが強く働くので、その対策の一つが鍵の交換というわけだ。


(そっか……嬉しい)


丁寧に箱から取り出して眺めると、鍵はキラキラと光って見えた。

それに、通常のものよりも形がおしゃれだし、小さく ‘S‘ の文字が刻まれている。

“S“……もしかして。

予想がつき、僕はシグレさんを見上げた。


「これって……もしかして、僕達の名前の?」


そう尋ねると、シグレさんは少し照れくさそうに鼻の頭を掻きながら頷いた。


「そう、無理を言って、特注で薄く入れて貰ったんだ。というか、セイラ……Ωにとってはこういう事も大事なのに、遅くなって、ごめん」


「いえ……っ」


すまなそうに謝るシグレさんに、僕は慌てて首を横に振った。

確かに、僕がシグレさんの元へ来てからは三ヵ月近く経つけれど、まだ正式に番になった訳ではないので、シグレさんは何も謝る必要はないのだ。

そう思い、なんと言おうか迷っていると、ふいに、暖かな腕に優しく抱きしめられた。

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