44 / 98
第四十四話 気になる人・1
しおりを挟む
ソファーで一人、僕はすっかり頭を抱えてしまった。
シグレさんと気持ちが通じ合って、それだけですっかり浮かれてしまっていて、この先の事はかなり漠然としか認識していなかった。
(いつも通り、使用人として接していれば、いいんだよね……?でも、それだとシグレさんを傷付けちゃったりしないかな……なんて、僕、かなり自惚れてる!?)
再び、なんとも図々しい思考が浮かんできて、僕は更に頭を抱えた。
(はぁ、僕にもっと経験があったら、こんなに戸惑わなかったのかも)
とはいえ、この年までまともに恋人が居なかった過去は変えられない。
しかし、だからといって別に全くモテなかったという訳でもない。
むしろ、男女問わず僕は ”可愛い” ともてはやされていた方なのだが、僕自身あまり恋愛に興味が無かったせいもあるのか、誰とも恋愛には発展しなかった。
(唯一、あの人だけは運命だと思うほどだったけど……)
そうなのだ。
僕の唯一の恋愛経験といえば、N高校の彼だ。
あの瞬間だけは、特別な感覚として僕の中に残り続けている。
しかも、その彼はシグレさんとよく似ていて……。
「……はぁ、気になる事あり過ぎるよぉ~」
このままでは仕事中もまた気が散ってしまいそうで、僕は両腕の間に顔を埋めて項垂れたのだった。
・・・
少しして、慌しく部屋のドアが開き、シグレさんがリビングへとやってきた。片手にはスマホと鞄を持っている。
「あ……っ外出ですか?」
慌ててソファーから立ち上がると、シグレさんは真面目な顔つきのまま答えた。
「ああ、そうなんだ。今、担当さんと話してたんだけど、急遽打ち合わせをすることになってね。セイラが発情期で大変な時にごめん。本当は傍に居たいんだけど……」
そう言って、シグレさんは僅かに眉を寄せる。
仕事が忙しいのに発情期を気にかけてくれるなんて、もうそれだけで僕は幸せ者だ。
そう思いつつ、僕は急いでいるであろうシグレさんに合わせて、やや早口に言う。
「僕は大丈夫です。お急ぎですよね、気にせず、行ってきてください」
「ん、ありがとう。帰りは少し遅くなるかもしれないけど、この近くのカフェだし、夕飯は適当に食べてくるよ。セイラはゆっくりしてて」
そう言って、シグレさんは僕のおでこにキスを落とした。
「……っはい、いってらっしゃいませ……っ」
「ふふ、行ってきます。帰りは連絡するよ。じゃあ」
「はい」
返事をしつつ、シグレさんを玄関まで見送る。
靴を履くのを見守っていると、シグレさんは何か思い出したようにこちらを向いた。
「そうだ、セイラ。俺がいない時は、戸締りは必ず確認するように。それと、何かあったらすぐに連絡。打ち合わせ中でも、セイラからなら出るようにするから」
「そ、そんな……っ大丈夫ですから、お仕事優先して下さい。戸締りは、ちゃんと確認しておきますから」
「ん、分かった。じゃあ、いってきます」
「い、いってらっしゃぃ……っ」
こんなやり取りをしていると、もうなんだか恋人というよりも夫婦のような感覚になり、僕は頬を赤く染めて俯いた。
シグレさんは、そんな僕を見てクスッと笑みを零すと、今度こそ出掛けて行った。
シグレさんと気持ちが通じ合って、それだけですっかり浮かれてしまっていて、この先の事はかなり漠然としか認識していなかった。
(いつも通り、使用人として接していれば、いいんだよね……?でも、それだとシグレさんを傷付けちゃったりしないかな……なんて、僕、かなり自惚れてる!?)
再び、なんとも図々しい思考が浮かんできて、僕は更に頭を抱えた。
(はぁ、僕にもっと経験があったら、こんなに戸惑わなかったのかも)
とはいえ、この年までまともに恋人が居なかった過去は変えられない。
しかし、だからといって別に全くモテなかったという訳でもない。
むしろ、男女問わず僕は ”可愛い” ともてはやされていた方なのだが、僕自身あまり恋愛に興味が無かったせいもあるのか、誰とも恋愛には発展しなかった。
(唯一、あの人だけは運命だと思うほどだったけど……)
そうなのだ。
僕の唯一の恋愛経験といえば、N高校の彼だ。
あの瞬間だけは、特別な感覚として僕の中に残り続けている。
しかも、その彼はシグレさんとよく似ていて……。
「……はぁ、気になる事あり過ぎるよぉ~」
このままでは仕事中もまた気が散ってしまいそうで、僕は両腕の間に顔を埋めて項垂れたのだった。
・・・
少しして、慌しく部屋のドアが開き、シグレさんがリビングへとやってきた。片手にはスマホと鞄を持っている。
「あ……っ外出ですか?」
慌ててソファーから立ち上がると、シグレさんは真面目な顔つきのまま答えた。
「ああ、そうなんだ。今、担当さんと話してたんだけど、急遽打ち合わせをすることになってね。セイラが発情期で大変な時にごめん。本当は傍に居たいんだけど……」
そう言って、シグレさんは僅かに眉を寄せる。
仕事が忙しいのに発情期を気にかけてくれるなんて、もうそれだけで僕は幸せ者だ。
そう思いつつ、僕は急いでいるであろうシグレさんに合わせて、やや早口に言う。
「僕は大丈夫です。お急ぎですよね、気にせず、行ってきてください」
「ん、ありがとう。帰りは少し遅くなるかもしれないけど、この近くのカフェだし、夕飯は適当に食べてくるよ。セイラはゆっくりしてて」
そう言って、シグレさんは僕のおでこにキスを落とした。
「……っはい、いってらっしゃいませ……っ」
「ふふ、行ってきます。帰りは連絡するよ。じゃあ」
「はい」
返事をしつつ、シグレさんを玄関まで見送る。
靴を履くのを見守っていると、シグレさんは何か思い出したようにこちらを向いた。
「そうだ、セイラ。俺がいない時は、戸締りは必ず確認するように。それと、何かあったらすぐに連絡。打ち合わせ中でも、セイラからなら出るようにするから」
「そ、そんな……っ大丈夫ですから、お仕事優先して下さい。戸締りは、ちゃんと確認しておきますから」
「ん、分かった。じゃあ、いってきます」
「い、いってらっしゃぃ……っ」
こんなやり取りをしていると、もうなんだか恋人というよりも夫婦のような感覚になり、僕は頬を赤く染めて俯いた。
シグレさんは、そんな僕を見てクスッと笑みを零すと、今度こそ出掛けて行った。
0
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【続編】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる