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第二十五話 コーヒーとバウムクーヘン

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◆◇◆


それからというもの、僕は毎日懸命に家事をこなし、シグレさんのサポートに徹した。


(あれからもうすぐ三週間……シグレさん、大丈夫かな)


そう、僕がここへ来てからもう三週間経つ。

最近、原稿に大幅な直しがあったとかで、シグレさんはずっと部屋に篭もりっぱなしだった。

けれど、そんな中でも僕への気遣いは忘れずしてくれるのは本当に凄いし、嬉しい。

しかしながら、やはりシグレさんが家事を手伝う事は不可能となったので、僕は朝から晩まで部屋の整理整頓、食事の用意、その他の家事全般をテキパキとこなしていた。

お陰様で、この家にもだいぶ慣れたし、家事も効率よく出来るようになってきた。

シグレさんはというと、最近かなり疲れているようで、デスクにお茶を持っていくとうたた寝している事が増えた。

風邪をひかないようにと毛布をかければ気付かれて、結局、僕の体調はどうかとか、色々心配させてしまう事はもうすっかり日常となってしまった。

夜はというと、最近は僕一人でベッドに潜り込んで眠る日がほとんどだ。

とはいえ、大抵は夜中の三時過ぎぐらいにシグレさんもベッドに来てパタリと横になる。

そして三~四時間ほど睡眠をとって、朝はまた早くから原稿に集中する、というサイクルになっている。

少し前は、三日間ずっとシグレさんがさベッドに来ない事があった。

それはさすがに体が心配になったので、僕は心を鬼にして、半ば無理矢理ベッドに引きずり込んだのだった。

そんなこんなで、今日もシグレさんはまだ部屋であれやこれや作業をしているらしく、出てこない。


(コーヒー、飲んでくれるかな……)


僕は眠気覚ましにと思い、コーヒーとバウムクーヘンをひときれ皿に乗せて、シグレさんの部屋を訪れた。


「シグレさん……?少し休憩しませんか?」


「んー……あと少し……」


「じゃあ、コーヒーとお菓子、ここに置いておきま……」


「セイラ」


「え?」


お盆から、コーヒーとバウムクーヘンの乗った皿を小さめのガラステーブルに移したところで、突如シグレさんに呼ばれた。

なんだろうと振り向くと、同時に抱き締められる。


「シグレさん?   どうし……っ」


「原稿、一段落」


「……!」


更にぎゅうっと抱きしめられ、胸が甘い音を立てる。

僕は少し遠慮がちにシグレさんのシャツの両端をギュッと掴んで、自らも身を寄せた。


「お疲れ様です、シグレさん。これで少し、ゆっくり出来そうですか?」


「ああ、セイラのお陰だ。まだ全部じゃないけど……流石に休むよ」


「はい……!」


まだ全て終わった訳ではないけれど、こうして経過を使用人である僕にも報告してくれるのは、やはり嬉しい。

僕はシグレさんの胸に頬を埋めて、密かに笑みを零す。


「あの、僕も、嬉しいです」


小さく呟くように言うと、ふいにシグレさんの唇が耳元に寄せられた。


「ありがとう、セイラ」


「……っ」


一瞬、敏感な耳に刺激が走り、肩がびくっと跳ねる。

甘い感覚に瞳を潤ませていると、シグレさんはモードを切り替えるように息を吐いた。


「……よし。セイラの用意してくれたコーヒーとお菓子、ありがたく頂くよ」


「あ……っはい!」


甘い雰囲気が終わってしまい、少し残念な気持ちになる。


(……って、いけない。シグレさんは疲れてるのに、何考えてるんだろ)


僕は自分の欲求をどうにか抑え込み、シグレさんの後についてリビングへ向かった。






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