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はるか

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 山内はるかの親友は、冴木奈緒子だ。中学の時、初めて同じクラスになってから高校生になった今でも仲がいい。
 はるかは、うるさくて、男の子の話や化粧、ファッションの話ばかりするクラスの女子が大嫌いだった。はるかや奈緒子のことを、「暗くてキモい」とか「絶対にオタク。BLの話ばかりしてそう」などとひそひそ話しているのを聞いたことがある。しかし、はるかはなんと言われてもどうってことなかった。はるかも、馬鹿な女子とつるむ気はなかったからだ。

 奈緒子は、他の女子とは違った。はっきりと自分を持っているし、男子は苦手なようだった。化粧をしている派手な女子よりもずっときれいな顔をしていたが、自覚がないのか、あまりおしゃれにも興味がないようだった。

 そんな奈緒子に変化があったのは、クラスのいわゆる「陽キャ」である、秋月弘人と一緒に帰るようになってからだった。教室で目が合うと、頬を染めて微笑んでいる奈緒子を見た。相手にされているわけがないのに、奈緒子もしょせん、他の女子と同じだと裏切られた気分になった。
 秋月弘人は、実ははるかがちょっといいなと思っている男子だった。他の男子と違って、はるかや奈緒子を馬鹿にしないし、女の子を取っ替え引っ替えしているというわけでもない。係活動で誰かが困っていたら、すすんで手伝ってあげられるような、気配りのできる男子だった。
「私、昨日秋月君から告白されて、付き合うことになったの。」
 奈緒子からそのように報告されたとき、はるかはまさかという気持ちだった。自分とはるかは同類だったはずなのに、奈緒子だけカッコいい男子に告白されるなんて、なんだか負けたような気分になった。

 私の方が頭がいいのに

 私の方が話が上手いのに

 誰も、はるかのことを見てくれなかった。はるかは、誰かの影に隠れるべき人間ではないと思っていた。
 悔しいことに、奈緒子と弘人は付き合ってからも喧嘩ひとつせず、仲がいいままだった。
 はるかは、全てを変えたくて留学し、誰からも憧れられるようなスキルを身に付けた。働く女性として成功し、はるかは美しくなった。全てを手に入れたはるかだったが、学生時代の奈緒子に対する劣等感は消えなかった。

 久しぶりに日本に帰国し、唯一連絡を取り合っていた学生時代の友人に連絡を取った。奈緒子と弘人は結婚したと聞き、弘人の職場の情報を手に入れた。これは、チャンスだ。あの時に、手に入らなかったものを、手に入れるチャンス。
 偶然を装って、弘人に接近したところ、驚くほどのあっさりと弘人ははるかに落ちた。元々純粋な人間だったからこそ奈緒子に惹かれたのだろう。純粋な人間ほど、落とすことは簡単だった。

 弘人に会えば会うほど、はるかは彼のことが好きになった。なんの打算もなく、純粋な好意ではるかを抱いてくれる弘人が愛しかった。
 (奈緒子、今度は私があなたから全てを奪ってあげるね。)
 不倫がバレて、慰謝料を払うことなどはるかは怖くなかった。数百万払って弘人が手に入るなら安いものだ。弘人が奈緒子を捨てて、はるかと一緒になる。それで初めて、はるかは失った自尊心を取り戻すことができるのだ。

 奈緒子、待っててね。今は掛け替えのない親友でいましょう。はるかは、奈緒子の悩みを聞きながら、奈緒子を元気付ける言葉をかけるのだった。
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