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気付いてしまった男

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 〈ブライト視点〉

 イアンと初めて会ったのは、あいつが初仕事のモデルとして、教室にやってきた時だった。男性モデルは珍しく最初からあいつは注目の的だった。ゆるくウェーブした金髪に金色の目、色白で女子のように美しい肌、どこか蠱惑的な雰囲気のする、作り物のように美しい少年だった。

 同じ部屋だと知ったときは、俺は絶対にコイツと性格が合わないだろうと踏んでいた。見るからにひ弱でわがままそうだったし、『ルームメイト』以上に親しくする必要もなかった。
 しかし、以外にもイアンと俺は親友となり、あいつの隣にいるのが当たり前になった。見た目と性格にギャップがあり、この容姿でどうやったらそんな馬鹿でエロでひねくれている性格になるのか全く理解できなかった。いつもは馬鹿なのに、ふとした時にあいつがかわいく思える時があり、自分でもこの気持ちの正体が分からなかった。
 第一王子やソラに好き勝手されたのに、何をされても大事と捉えていないあいつが腹立たしくなった。ガードがゆるゆるだからそんなことをされるんだ。俺が近くにいたら親友としてあいつを守ってあげたかったのに、何もできないのが歯痒かった。

 イアンが去ってしまってから、さらに俺は自分のことが分からなくなった。イアンに会いたくてたまらなくなる日が続いたからだ。毎晩夢に出てくるし、あの屈託のない笑顔と、俺の名前を呼ぶ声を聞きたかった。俺は誰かに執着することはないし、深く関わることもしてこなかった。友達ができただけで自分はこんなにも弱くなってしまうのかと、自分で自分が不甲斐なかった。

 そして今日、久しぶりに会ったイアンは相変わらず馬鹿で、俺と気が合って、そして綺麗だった。
 イアンから悩みを持ちかけられたが、きっとまた男と性的な、もしくは恋愛がらみのいざこざがあったのだろう。イアンの世話をしていた第二王子を見たが、俺は前からそいつが何となく気に食わなかった。イアンは助けてくれた恩人というが、その割に距離が近すぎるし、イアンはおそらく、爽やかでイケメンで善良の皮を被ったような男に弱いような気がしたからだ。
 こんな嫉妬まがいな気持ちまで持ってしまう自分が嫌で、早く気持ちにけりをつけたかった。『初めての友達』だからこんな気持ちになるのだと早く納得したい。その為、あいつにキスすることを提案した。
 予想通りあいつは『しょうがねぇな別にいいけど』というスタンスを取った為、さっさと終わらせようと思った。しかし、いざイアンが目を瞑ってキスを待っている顔を見ると、何故か分からないが緊張してしまい、顔を近付けることができなかった。女の子とキスする時は、何も緊張などしないのに。相手も自分も気持ちを高まらせる為のマナー的なものだと思っていた。
 イアンに早くしろと催促され、後に退けなくなった俺は、どうにでもなれと思い唇を重ねた。やれば手っ取り早くこの気持ちが終わる、そんな簡単な話だ。
 あいつの唇は俺が今まで経験したことがないくらい柔らかく、温かかった。俺はその瞬間視界が開けたような気がした。すべて分かってしまった。

『どうだった?』とイアンは聞いてきたが、俺は無視して後ろを向いた。表情を見られたくなかったし、あいつの顔をまともに見られなかったからだ。

 俺は気付いてしまった。俺にとってあいつは、『初めての友達』じゃなく『初恋の人』だったことに。

 たった数秒触れ合っただけだったが、今まで女の子としたキスとは全く違った。自分の鼓動がうるさいくらいに鳴り、もどかしさと切なさ、愛しさと欲望が混在したような、感情の嵐の中にいるようなそんな気持ちになった。
 それに気付いてしまった今、『イアンが同じベッドで隣に寝ている』という状況は拷問でしかなく、俺はまともに寝ることができなかった。あいつは人の気も知らず、足を絡ませてきたり、顔を近付けてきたりして俺を一晩中苦しめた。
 途中、どうしてもイアンの寝顔が見たいという欲望に負け、向き直ってあいつの寝顔を見た。天使のような顔をして寝ているアイツは本当にかわいくて、長い睫毛や綺麗な唇を手で触ると、もっと触りたいという欲望が押し寄せ、余計に辛くなった。
 抱きしめる形で、イアンに足を絡ませ、顔を胸に抱いてみた。サラサラの髪からイアンのいい匂いがし、髪に何度も口付けをした。
 親友の寝ている隣で変態的な行為を勝手にするという罪悪感があったが、俺の人生で間違いなく、最も興奮し、心が満たされた夜だった。
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