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お泊まり
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数日後、俺はアイシャ先生に図書室に呼び出された。
「イアン君、返事書いてきたの。クライン様に渡してもらってもいい?」
「·······はい。分かりました。やっぱり、会いには行かないですか?」
「弱虫でカッコ悪いわよね。でもこれが私なの。」
先生は晴れやかな顔をしていたので、俺はそれ以上何も言えなかった。
放課後の勉強が終わり、辺りも薄暗くなった頃、俺はクラインの屋敷を訪ねた。クラインは突然の俺の訪問に驚いていたが、ひどく喜んでくれた。
「イアン!なかなか顔を出さないから寂しかったんだよ。よく来たね。どうぞ入って!」
にこやかに笑い、俺を応接間へ通してくれたこの男は、久々に会うとやはり眩しすぎるくらいのイケメンである。
(会うこともなく乙女の心を奪うとは····さすがは爽やか属性の第二攻略対象だ····!!)
「学校は楽しい?授業の遅れ取り戻すの大変じゃないか?」
「友達もできたし楽しいです。テストの成績ちょっと····悪かったんですけど、レイン殿下に放課後教えてもらってて····助かってます。」
「えっレインが勉強を?──それは意外だな。自分に得がないと、人のために何かをしてあげるタイプじゃないと思ってた。」
俺は苦笑いし、早速本題に入ることにした。
「あの、今日はクライン様に渡したいものがあって来ました。これを·····」
クラインは不思議そうな顔をして俺が渡したノートを見ると、何かを思い出したのがはっとした表情になった。
「これをどこで····なぜ君が?」
「実は、このノートを預かっていた女性とちょっとした知り合いでして。すごく恥ずかしがり屋の方だったので、直接クライン様にお返しはできないからと、僕が代わりに預かってきました。」
「───そうなのか。本当に懐かしいな·····中を読んだ?馬鹿みたいだろ?君に読まれたと思うとすごく恥ずかしいよ。」
「ごめんなさい!読むつもりはなかったんですが、誰のノートか気になって中を開いてしまって······」
本当は面白半分で覗き見をしていたとは口が裂けても言えなかった。
クラインは本当に少し顔が紅くなり、口元を手で隠していた。いつもスマートな男が照れる様が新鮮で、年上だが可愛らしいなと思ってしまった。
クラインはノートの中を開き、アイシャ先生が書いた最後のメッセージに気付いたようだ。
『ご無沙汰してます。お元気ですか?
今さらですが、あの日屋上に行くことができず申し訳ありませんでした。
私には、あなた様に会う勇気がありませんでした。あなた様と少しの間でもこのノートを通してお話できたこと、私の一生の宝物にします。本当にありがとうございました。
王子殿下の今後のご活躍をお祈り申し上げます。』
クラインは先生のメッセージを読んだ後ノートをパタンと閉じ、昔を懐かしむような優しい表情をした。
「··········まさか今、このノートを読むことになるなんて───君に会ってから不思議なことばかりだ。」
「クライン様は──この方のこと気になってたんですか?」
俺はアイシャ先生の為に一肌脱いでやろうと思い、直球の質問をしてみた。
「どうかな。恋愛感情というよりは······俺を特別な目で見ない誰かと、他愛ない話をする時間が大切だったんだ。王子として立派に振る舞わなければならないという毎日だったからちょっと疲れてて·····でも、この人は俺が王子だって知ってたみたいだね。返事がもらえてなんだかスッキリしたよ。イアン、ありがとう。」
う、うーんこの言い方は、クラインにとっては忘れられないというより、完全にいい思い出という雰囲気だ。相手について聞いてこないあたり、今さら先生とどうこうなるというのは望み薄だろう。
(先生ごめんなさい!俺力になれませんでした。)
「遅い時間に押し掛けてすみませんでした·····では、俺はこれで失礼します。」
俺が退席しようとすると、クラインがあわてて俺を引き留めてきた。
「イアン、こんな時間になってしまったし、今日はここで夕食を食べて、泊まっていったらどうだ?ご両親には伝えておくから。」
「え·····でも、申し訳ないです。いいんですか?」
「もちろん。せっかくだし、君とゆっくり話したい。」
やったー!!!嫌いな両親のいる屋敷に帰るより、クラインの屋敷に泊めてもらった方が絶対に楽しい。王子の家にゲストとして泊めてもらうなんて、なんて贅沢なんだ!
出されたディナーは俺が見たこともないような豪華なものばかりで、俺はあまりの美味しさに感動してしまった。
俺の家は、元々は有力貴族だったみたいだが、怠惰な俺の両親が当主となったことで段々と衰退し、今では貴族とは名ばかりの、見栄とプライドだけは一丁前な貧乏貴族に成り下がっていた。俺の食費は真っ先に削られ、美味しさとは程遠い、『これでも食っとけ!』というような必要最低限の食事しか与えてもらえなかった。
「本当に美味しいです!こんなに美味しい食事は初めてです!」
俺があまりにガッついているものだから、クライン王子は引いてしまったかもしれない。しかし態度には出さず、ニコニコして俺が乞食のように食べるのを見ていた。
食事が終わり、通されたゲスト用の部屋は、それはそれは素晴らしかった。ベッドは死ぬほど広いし、家具も装飾もセンスの良い落ち着いた雰囲気で、見るからに一級品という感じだ。浴室もトイレも広々として、転生前だと、スイートルームとかいう一泊何十万払わないと泊まれないレベルの部屋だろう。
後でゆっくり部屋に遊びに来ると言い残し、クラインが部屋から出ていくと、俺は高級スイートホテルに泊まっているようなテンションになってしまい、キングサイズのベッドをゴロゴロと転がったりジャンプしたり、部屋を探検したりして一人ではしゃぎまくっていた。
(レインの屋敷ももちろん豪華だったけど、住んでたのは侍従部屋だったからな。泊まれるなんて夢みたいだ。)
しばらくすると、ドアがノックされ、クラインが飲み物を持って部屋にやってきた。
「イアン君、返事書いてきたの。クライン様に渡してもらってもいい?」
「·······はい。分かりました。やっぱり、会いには行かないですか?」
「弱虫でカッコ悪いわよね。でもこれが私なの。」
先生は晴れやかな顔をしていたので、俺はそれ以上何も言えなかった。
放課後の勉強が終わり、辺りも薄暗くなった頃、俺はクラインの屋敷を訪ねた。クラインは突然の俺の訪問に驚いていたが、ひどく喜んでくれた。
「イアン!なかなか顔を出さないから寂しかったんだよ。よく来たね。どうぞ入って!」
にこやかに笑い、俺を応接間へ通してくれたこの男は、久々に会うとやはり眩しすぎるくらいのイケメンである。
(会うこともなく乙女の心を奪うとは····さすがは爽やか属性の第二攻略対象だ····!!)
「学校は楽しい?授業の遅れ取り戻すの大変じゃないか?」
「友達もできたし楽しいです。テストの成績ちょっと····悪かったんですけど、レイン殿下に放課後教えてもらってて····助かってます。」
「えっレインが勉強を?──それは意外だな。自分に得がないと、人のために何かをしてあげるタイプじゃないと思ってた。」
俺は苦笑いし、早速本題に入ることにした。
「あの、今日はクライン様に渡したいものがあって来ました。これを·····」
クラインは不思議そうな顔をして俺が渡したノートを見ると、何かを思い出したのがはっとした表情になった。
「これをどこで····なぜ君が?」
「実は、このノートを預かっていた女性とちょっとした知り合いでして。すごく恥ずかしがり屋の方だったので、直接クライン様にお返しはできないからと、僕が代わりに預かってきました。」
「───そうなのか。本当に懐かしいな·····中を読んだ?馬鹿みたいだろ?君に読まれたと思うとすごく恥ずかしいよ。」
「ごめんなさい!読むつもりはなかったんですが、誰のノートか気になって中を開いてしまって······」
本当は面白半分で覗き見をしていたとは口が裂けても言えなかった。
クラインは本当に少し顔が紅くなり、口元を手で隠していた。いつもスマートな男が照れる様が新鮮で、年上だが可愛らしいなと思ってしまった。
クラインはノートの中を開き、アイシャ先生が書いた最後のメッセージに気付いたようだ。
『ご無沙汰してます。お元気ですか?
今さらですが、あの日屋上に行くことができず申し訳ありませんでした。
私には、あなた様に会う勇気がありませんでした。あなた様と少しの間でもこのノートを通してお話できたこと、私の一生の宝物にします。本当にありがとうございました。
王子殿下の今後のご活躍をお祈り申し上げます。』
クラインは先生のメッセージを読んだ後ノートをパタンと閉じ、昔を懐かしむような優しい表情をした。
「··········まさか今、このノートを読むことになるなんて───君に会ってから不思議なことばかりだ。」
「クライン様は──この方のこと気になってたんですか?」
俺はアイシャ先生の為に一肌脱いでやろうと思い、直球の質問をしてみた。
「どうかな。恋愛感情というよりは······俺を特別な目で見ない誰かと、他愛ない話をする時間が大切だったんだ。王子として立派に振る舞わなければならないという毎日だったからちょっと疲れてて·····でも、この人は俺が王子だって知ってたみたいだね。返事がもらえてなんだかスッキリしたよ。イアン、ありがとう。」
う、うーんこの言い方は、クラインにとっては忘れられないというより、完全にいい思い出という雰囲気だ。相手について聞いてこないあたり、今さら先生とどうこうなるというのは望み薄だろう。
(先生ごめんなさい!俺力になれませんでした。)
「遅い時間に押し掛けてすみませんでした·····では、俺はこれで失礼します。」
俺が退席しようとすると、クラインがあわてて俺を引き留めてきた。
「イアン、こんな時間になってしまったし、今日はここで夕食を食べて、泊まっていったらどうだ?ご両親には伝えておくから。」
「え·····でも、申し訳ないです。いいんですか?」
「もちろん。せっかくだし、君とゆっくり話したい。」
やったー!!!嫌いな両親のいる屋敷に帰るより、クラインの屋敷に泊めてもらった方が絶対に楽しい。王子の家にゲストとして泊めてもらうなんて、なんて贅沢なんだ!
出されたディナーは俺が見たこともないような豪華なものばかりで、俺はあまりの美味しさに感動してしまった。
俺の家は、元々は有力貴族だったみたいだが、怠惰な俺の両親が当主となったことで段々と衰退し、今では貴族とは名ばかりの、見栄とプライドだけは一丁前な貧乏貴族に成り下がっていた。俺の食費は真っ先に削られ、美味しさとは程遠い、『これでも食っとけ!』というような必要最低限の食事しか与えてもらえなかった。
「本当に美味しいです!こんなに美味しい食事は初めてです!」
俺があまりにガッついているものだから、クライン王子は引いてしまったかもしれない。しかし態度には出さず、ニコニコして俺が乞食のように食べるのを見ていた。
食事が終わり、通されたゲスト用の部屋は、それはそれは素晴らしかった。ベッドは死ぬほど広いし、家具も装飾もセンスの良い落ち着いた雰囲気で、見るからに一級品という感じだ。浴室もトイレも広々として、転生前だと、スイートルームとかいう一泊何十万払わないと泊まれないレベルの部屋だろう。
後でゆっくり部屋に遊びに来ると言い残し、クラインが部屋から出ていくと、俺は高級スイートホテルに泊まっているようなテンションになってしまい、キングサイズのベッドをゴロゴロと転がったりジャンプしたり、部屋を探検したりして一人ではしゃぎまくっていた。
(レインの屋敷ももちろん豪華だったけど、住んでたのは侍従部屋だったからな。泊まれるなんて夢みたいだ。)
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