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イリオの追跡

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 ライラが女の子ではなく、イリオという男の子だったと知り、一瞬驚いたララであったが、すぐにぱぁっと笑顔になった。
「イリオ·····初めまして·····私はララ。あなたって······すごく·····最高だわ!!かわいい女の子であり、かっこいい男の子でもあるのね!?物語の主人公みたい!!」
 興奮気味に話すララにイリオは苦笑した。
「そこは怒るところだろ?騙したわね!とか·······ララって本当に変わってる。」
「でも、どうしてイリオはここにいるの?私は、確か王宮を出ようとしたら気を失って······気が付いたらあそこにいたのよ。」

 ◇

【~数時間前、王宮~】

 イリオは、ララが王宮に連れてこられてからというもの、ララの様子が気になり、何度も別棟の様子を見に来ていた。
 ララは時々、女騎士と庭園に出ることがあり、その際にララの姿を垣間見ることができるからだ。
 ララは元気な様子で、いつもの笑顔を見せていた。イリオよりも先に、ディアンのものになってしまったことは痛恨の極みだが、ララが不幸せなのは一番嫌だった。

 そんな時、ディアンが5日間王宮を不在にすると聞き、なんとなく気になっていつもより頻繁に様子を伺っていた。

 数日前、ララの侍女とダリアの侍女が、王宮の裏で何やら話している現場を見た。話の内容までは聞こえなかったが、明らかに只ならぬ雰囲気であり、ララの侍女は思い詰めたような顔をしていた為、これは何かあるなと思っていた。

 そうして、ディアンが遠征に出て3日目の早朝、誰にも見られていない裏口の方で、ララが何者かに口を押さえられ、馬車に乗せられている現場を見た。
 その際はお付きのものはおらず、イリオ一人だった為、とっさに馬車の荷台に乗り込み身を隠した。誰かが気付くよう、荷台にあったロープを少し垂らし、馬車の行き先が辿れるようにしておいた。

 そして、馬車が到着した場所はなんと、隠された娼館だった。
 イリオも存在は知っていたが、証拠は掴めずにいた。特殊な性癖を持つ有力者達が、金や権力と引き換えに、世間から隔離された、わけありの令嬢達を買うというような、売春が行われている秘密の場所だ。
 売られた女達は身体を弄ばれ、死んだとしても、人知れず処分され、闇に葬られた。

 完全に違法行為ではあるが、この娼館に関わっているのが王妃であり、表沙汰にならないよう巧妙に隠されているというところまでは掴んでいた。
 有力者達の支持を得ることを見返りに、世間からは探されない、訳ありの令嬢達を娼館へ斡旋しているという噂だった。

 それが、まさかこんなところで見つかるとは思わなかった。
 (ララはやっぱり俺の女神だ·······!!王妃の不正を暴く証拠になる·····!)
 意気揚々と娼館に潜入したのはいいものの、ララがピンチになった為、一旦ララを連れ出し逃げたのだった。

 そんな事情は全く知らないララは、はっとして急に焦りだした。
「イリオ!私、ディアン殿下のところに行きたいんです。落馬して、意識がないって·······侍女のリサから聞いたんだけど、リサもいなくなってしまって────」
「ああ、それは嘘だ。侍女に騙されたんだよ。ディアンが事故にあっただなんて報告は受けてないし、そもそもララをそこに連れていくはずがない。きっと何か脅されてたんだろ。今頃は、金をたっぷりもらって、見知らぬ土地で遊んで暮らしてるさ。ディアンに見つかったら斬首刑だな。はは!」
 ララは呆然とした様子で、
「嘘?─────良かった·······」
 と呟いた。それを聞いたイリオは呆れた声を出した。
「良かった?侍女に騙されて、こんなところまで拐われたのにか?俺が来なかったら、誰にも気付かれずに一生あの娼館で汚いオヤジの相手をさせられるか、ひどい目に合って殺されるか······どちらかしかなかったのに、───良かった?」
「··········はい。殿下が無事なら、良かったです。それに·········リサは捕まってほしくないです。最後に泣いてた。捕まったらきっと──ひどい目に合うから···········」
「───ララ。お人好しもいい加減にしろ。そんなんじゃ、命がいくつあっても足りないぞ。王宮はこういうところなんだよ。一瞬の油断が生死を分けるんだ。」
 イリオから怒られた気がして、ララは肩を落とした。
「あーもういいから!ここじゃ臣下に見つけてもらえない。よく見えるところで待つぞ。そのうち俺たちを探しに来る。」
 イリオはララの手を引き、街の通りに面した宿屋に入っていった。
「失礼!しばらくの時間で構わない。俺たちを上の部屋に置いてくれ。窓から通りが見える部屋がいい。着替えも貸せ。」
 店主は、濡れ鼠になっているイリオとララを訝しげな顔で見た。
「お前達·······見るからに子どもだな。偉そうに何様だ?金はあるのか!?」
「金はない。だが、助けてくれたら礼はする。この恩は貸しておくべきだと思うぞ。」イリオは全く下手に出ることなく、ララですらとても偉そうだと感じた。内心ドキドキしたが、店主の妻が店主に耳打ちし、すぐに部屋に通された。イリオやララの容姿からして平民ではないし、濡れているところをみると、何者かから逃げている貴族かもしれない、ここで恩を売っておこうと店主達は判断したのだった。

 部屋に入ると、窓から通りを行き交う人や馬車がよく見えた。イリオは窓際に腰掛け、ふぅと息を着いた。
「あ、あの········ライ····イリオ、今日は助けてくれてありがとう。ごめんね、こんなことになって。」
「いや。今日は最高の1日だ。まさかこんなに収穫があるなんて思ってもみなかった!ある意味、ララを陥れようとした人間に感謝だな。まぁ、誰かはもう分かってはいるが········それに、久しぶりに楽しかった。」
「た、楽しい??」
「ああ。目的地も分からない馬車に揺られ、囚われた女の子を助けて死に物狂いで逃げた。本当に······冒険みたいだっただろ?」
 ララは少し考えたあと、クスリと笑った。
「うん·········私、あんなに高いところから川に飛び込んだの産まれて初めてだった。それに、私を助け出してくれた女の子は実は男の子だった。それってすごく───面白いわ!」
 2人はなんだか可笑しくなり、笑いが止まらなくなった。その時、ララはふとイリオに気になっていたことを聞いてきた。
「でも·······イリオは王宮に住んでるんだよね?イリオはどんな人なの?」
「あー········偉い人の子どもだ。」
「へぇ。そうなんだ!」
 ララは納得したようで、ニコッと笑って他の話を始めた。

 イリオが肘をついて通りを眺めていると、ララがじっとイリオの顔を見ていることに気が付いた。あまり見られることに慣れないイリオは、なんとなく気恥ずかしくなり照れ隠しを言った。
「·········何?俺の美貌に見惚れてるのか?」
「うん······こうして見ると男の子にしか見えないなぁって────でも、ライラもイリオもどっちも素敵よ。きれいで頭が良くて勇気があって········すごく偉そうなところが。」
「───最後の言葉は余計だろ。」
 イリオは顔が赤くなるのを隠すため外の方を向いた。
 その時、通りの向こう側から走ってきた一際目立つ馬車があった。王家の紋章がついている。
「やっと来やがった。」
 イリオは立ち上がると、窓から身を乗り出し、こちらに走ってくる馬車に向かって大声で叫んだ。
「おい!!見つけるのにいつまでかかってるんだよ!遅いぞ!!!」
 すぐに馬車は道の真ん中で止まり、中から数人の男達が降りてきた。中から騎士達が数名降りてきて、イリオの姿を見つけると、一目散に宿屋の2階へ上がってこようとした。

 騎士達に続いて馬車から降りてきた人物を見て、ララはあっと声をあげた。
「············兄さん??」
 窓から顔を出すララの姿を見たレックスはひどく驚いていた。
「───ララか!?そこで待ってろ!!すぐに行く───!!!」
 レックスの姿を見たイリオは、
「何であいつがいるんだ·····?」
 と不満そうな声を漏らしていた。
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