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【レックスside】消えた妹
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レックスはここ1ヶ月半、大きな仕事を一段落させるため忙しく働いていた。今や自由気ままな1人暮らしなのだから、慌てて仕事を終わらせる必要はなかったのだが、そうしたのは早めに屋敷に戻る必要があったからだ。
『ララと結婚したい』と、母のアリソンに話そう。
そう心に決めていた。
結婚に対して、相手が誰であっても消極的なレックスであったが、何故自分がそうだったのかやっと分かった。色々な理由を並べたが、結局のところ、付き合っている相手のことを本当に愛しているわけではなかったのだ。
『一生一人の相手と添い遂げる』、『女性の人生に責任を持つ』という覚悟がなかった。
アネッサの言った通りだったのだ。
レックスはララに出会い、すべてが変わってしまった。少しでも顔が見れないと辛いし、一生守ってあげたいと思った。レックスと会わない間に、ララの良さに気付いたどこぞの男に横からかっさらわれてしまうのではないかと不安になった。
大きな荷物を持ちながら、アリソンとララの待つ屋敷に着いたレックスは、珍しく緊張していた。アリソンはなんというだろうか。初めは怒るかもしれないが、実の息子と義理の娘が結婚するだけで、家族であることに変わりはない。話せば分かってくれるだろう。ララは驚くだろうか。レックスに対して、好意を抱いていたのは明らかだったから、驚きはしても嫌がられはしないだろう。できれば喜んで欲しいなと思いながら、レックスは屋敷の門をくぐった。
屋敷は、いいようのない寂しい雰囲気が漂っていた。アリソンもララも姿が見えず、使用人達も表情が暗い。
レックスは、ここ1ヶ月ちょっとの間に、この屋敷に何が起こったのかと不思議に思った。
すぐに、2階の部屋からアリソンが降りてきた。
「ああ。レックス帰ってたの······お帰りなさい。」
アリソンの声は覇気がなく、以前のような快活さは消え失せていた。
「母さん、どうしたんだ?·······ララは?」
ララの名前を出すと、アリソンはピクッと反応した。暗い表情で下を見ている。
「ララはいない。」
「ああ········また友達と遊びに行ってるのか?」
「─────いいえ。ララは、2週間前から屋敷にいないわ。あと数年·······もしかしたらそれ以上戻ってこないかもしれない。」
レックスは、アリソンの言っている意味が分からなかった。
「───は?何で?·····もしかして、ファーレン家に連れ戻されたのか!?」
アリソンは何故か気まずそう顔を背けた。アリソンの歯切れの悪さに業を煮やしたレックスは、侍従長を掴まえ問い詰めた。
侍従長は、アリソンの方をチラチラと見ながら言いにくそうに答えた。
「ララ様は、突然屋敷に来られた王妃様に連れていかれました········なぜ連れていかれたのか、私共は理由を存じ上げません。」
「王妃に連れていかれた····!?何で!?母さん!」
レックスがアリソンの方を見ると、アリソンは覚悟を決めたような表情をして、レックスに「付いてきて。こっちで話しましょう。」と言った。
◇
「················つまり、ディアンとダリアの仲は既に冷めてて、子が産まれない可能性があるから、妹のララと子を作らせて、産まれた子をダリアの子として世継ぎにするつもりってこと?」
「ええ。そういうことよ。」
「·····················何だよそれ。」
レックスはテーブルを見つめたまま拳を震わせた。
ララを王妃に渡してしまった母への怒りと、ララへ好意を寄せ、それを王妃に悟られてしまったディアンの甘さへの怒り、そして何より、屋敷を空けて何もできなかった自身への怒りが込み上げてきた。
「──────王宮へ行ってくる。」
「レックス、止めなさい。あなたが行ってもどうにもならないわ。」
レックスは、肩を掴むアリソンの手を振り払った。
「·············それでも行くよ!妹を見捨てられないだろ!?母さんがすんなり諦めてるのは、自分が昔、すべてを捨てて突然王宮に連れてこられたからか!?母さんとララが似たような境遇だから、しょうがないって思ってるのか!?」
「違うわよ!」
アリソンの叫びに、レックスは一瞬押し黙った。
「連れてこられた先の人生を、私は知っているからよ。確かに夫と娘を捨てて、愛していない人に嫁がされたのは辛かったわ。何度も死のうかと思った。でも·····王様は私を愛してくれた。あなたも産まれて、王様はあなたを他のどの王子よりも可愛がってくれたわ。ディアンやイリオは、王様の膝に乗せてもらったことすらない。·····知ってた?」
「··························」
「あなたが王宮を出て、好き勝手にやっていても王様は何も言わない。危険な王族間の争いや政治には関わらせたくないのよ。普通の生活を送ることを望んでた。··········何故なら、王様は唯一私を愛していて、私の息子であるあなたも愛してるから。」
「ディアン王子はいい人よ。王妃とは全く似てない。何より、ララを愛してる。側室じゃなくても、王子に囲われていればララは守られるわ。子ができればそれなりの待遇を得られるし、ララにとって悪い人生だとは限らない。」
レックスは母の言っていることは理解はできるが、到底納得はできなかった。子を作っても取りあげられ、姉の子として育てられ抱くことすら許されず、妻にも側室にもなれない影の人生が、果たしていい人生なのだろうか。何より、このララへの想いをどこへやったらいいのか、レックス自身も分からなかった。
「············母さんの言いたいことは分かった。でも俺行くよ。兄さんと······ララと話したいんだ。」
レックスはそういうと、引き留めるアリソンの言葉を無視して屋敷を飛び出した。
『ララと結婚したい』と、母のアリソンに話そう。
そう心に決めていた。
結婚に対して、相手が誰であっても消極的なレックスであったが、何故自分がそうだったのかやっと分かった。色々な理由を並べたが、結局のところ、付き合っている相手のことを本当に愛しているわけではなかったのだ。
『一生一人の相手と添い遂げる』、『女性の人生に責任を持つ』という覚悟がなかった。
アネッサの言った通りだったのだ。
レックスはララに出会い、すべてが変わってしまった。少しでも顔が見れないと辛いし、一生守ってあげたいと思った。レックスと会わない間に、ララの良さに気付いたどこぞの男に横からかっさらわれてしまうのではないかと不安になった。
大きな荷物を持ちながら、アリソンとララの待つ屋敷に着いたレックスは、珍しく緊張していた。アリソンはなんというだろうか。初めは怒るかもしれないが、実の息子と義理の娘が結婚するだけで、家族であることに変わりはない。話せば分かってくれるだろう。ララは驚くだろうか。レックスに対して、好意を抱いていたのは明らかだったから、驚きはしても嫌がられはしないだろう。できれば喜んで欲しいなと思いながら、レックスは屋敷の門をくぐった。
屋敷は、いいようのない寂しい雰囲気が漂っていた。アリソンもララも姿が見えず、使用人達も表情が暗い。
レックスは、ここ1ヶ月ちょっとの間に、この屋敷に何が起こったのかと不思議に思った。
すぐに、2階の部屋からアリソンが降りてきた。
「ああ。レックス帰ってたの······お帰りなさい。」
アリソンの声は覇気がなく、以前のような快活さは消え失せていた。
「母さん、どうしたんだ?·······ララは?」
ララの名前を出すと、アリソンはピクッと反応した。暗い表情で下を見ている。
「ララはいない。」
「ああ········また友達と遊びに行ってるのか?」
「─────いいえ。ララは、2週間前から屋敷にいないわ。あと数年·······もしかしたらそれ以上戻ってこないかもしれない。」
レックスは、アリソンの言っている意味が分からなかった。
「───は?何で?·····もしかして、ファーレン家に連れ戻されたのか!?」
アリソンは何故か気まずそう顔を背けた。アリソンの歯切れの悪さに業を煮やしたレックスは、侍従長を掴まえ問い詰めた。
侍従長は、アリソンの方をチラチラと見ながら言いにくそうに答えた。
「ララ様は、突然屋敷に来られた王妃様に連れていかれました········なぜ連れていかれたのか、私共は理由を存じ上げません。」
「王妃に連れていかれた····!?何で!?母さん!」
レックスがアリソンの方を見ると、アリソンは覚悟を決めたような表情をして、レックスに「付いてきて。こっちで話しましょう。」と言った。
◇
「················つまり、ディアンとダリアの仲は既に冷めてて、子が産まれない可能性があるから、妹のララと子を作らせて、産まれた子をダリアの子として世継ぎにするつもりってこと?」
「ええ。そういうことよ。」
「·····················何だよそれ。」
レックスはテーブルを見つめたまま拳を震わせた。
ララを王妃に渡してしまった母への怒りと、ララへ好意を寄せ、それを王妃に悟られてしまったディアンの甘さへの怒り、そして何より、屋敷を空けて何もできなかった自身への怒りが込み上げてきた。
「──────王宮へ行ってくる。」
「レックス、止めなさい。あなたが行ってもどうにもならないわ。」
レックスは、肩を掴むアリソンの手を振り払った。
「·············それでも行くよ!妹を見捨てられないだろ!?母さんがすんなり諦めてるのは、自分が昔、すべてを捨てて突然王宮に連れてこられたからか!?母さんとララが似たような境遇だから、しょうがないって思ってるのか!?」
「違うわよ!」
アリソンの叫びに、レックスは一瞬押し黙った。
「連れてこられた先の人生を、私は知っているからよ。確かに夫と娘を捨てて、愛していない人に嫁がされたのは辛かったわ。何度も死のうかと思った。でも·····王様は私を愛してくれた。あなたも産まれて、王様はあなたを他のどの王子よりも可愛がってくれたわ。ディアンやイリオは、王様の膝に乗せてもらったことすらない。·····知ってた?」
「··························」
「あなたが王宮を出て、好き勝手にやっていても王様は何も言わない。危険な王族間の争いや政治には関わらせたくないのよ。普通の生活を送ることを望んでた。··········何故なら、王様は唯一私を愛していて、私の息子であるあなたも愛してるから。」
「ディアン王子はいい人よ。王妃とは全く似てない。何より、ララを愛してる。側室じゃなくても、王子に囲われていればララは守られるわ。子ができればそれなりの待遇を得られるし、ララにとって悪い人生だとは限らない。」
レックスは母の言っていることは理解はできるが、到底納得はできなかった。子を作っても取りあげられ、姉の子として育てられ抱くことすら許されず、妻にも側室にもなれない影の人生が、果たしていい人生なのだろうか。何より、このララへの想いをどこへやったらいいのか、レックス自身も分からなかった。
「············母さんの言いたいことは分かった。でも俺行くよ。兄さんと······ララと話したいんだ。」
レックスはそういうと、引き留めるアリソンの言葉を無視して屋敷を飛び出した。
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