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85話 奇跡を求めて
しおりを挟むオルドナンス公爵家の墓地に聖女エクレラージュの埋葬が終わったことを、ソレイユは王宮街神殿の神官長コンプレスと、ジャンティエスに報告した。
「そうですか… それは良かったです」
コンプレスは穏かに微笑んだ。
「私もこれで肩の荷が下りた気がします」
いくら、人を助けるためとはいえ… 安らかに永眠していたエクレラージュ様のお身体を、何度も使ってしまうのは死者への冒涜ではないかと感じていたから… これで罪悪感で悩むことは無くなるわ。
ふと、ジャンティエスに視線を向けると、ソレイユの息子ディディエを腕に抱いたまま、沈鬱な表情でぼんやりとしていた。
「ジャンティエスさん、どうかしましたか? お身体の調子でも悪いのですか?」
いつもはおしゃべり好きなジャンティエスさんが、こんなに静かにしていると気になるわ? 神官長様の前だから遠慮しているのかと思ったけれど… 表情を見ると、とても落ち込んでいるように見える。
声をかけられたジャンティエスは、スヤスヤと眠るディディエの顔から視線をあげて、ソレイユと目を合わせた。
「ソレイユさん… 私も王家の霊廟で、『聖なる試み』をおこなってみたのですが、何度やっても上手く行かないのです」
聖女の義務として王族に嫁いだ歴代の聖女たちは、生を終えると王宮の霊廟で眠りにつくこととなる。
弱くとも聖なる力を持つジャンティエスは、王太子の要請で歴代の聖女の遺体が放つ聖なる力を受け取ろうと、『聖なる試み』をおこなったのだ。
「ジャンティエスさん、『聖なる試み』を成功させるには聖女様との相性が重要なのですよ? ですからジャンティエスさんが悪いわけではありません…」
私が聖女エクレラージュ様の力を、奇跡的に受け入れることが出来たのは、たぶん… 愛する人を失った苦痛を生涯抱えて生きていたエクレラージュ様と、私の愛するアンバレ様を、何としても呪毒から救いたいと必死だった気持ちが、共鳴したのだと思う。
独身が前提の神官に恋人や夫への愛を語るのは、あまりにも配慮が足りないと、ソレイユは奇跡が起きた本当の理由は話さなかった。
「私も聖女様のお手伝いをしたかったのに…」
「そんなに落ちこまないで、ジャンティエスさん」
私が妊娠したことが発覚したから、エクレラージュ様の聖なる力が弱まった後も、王太子殿下に他の聖女様の遺体で『聖なる試み』を行えとは言われなかった。
だけどもう… 私はエクレラージュ様の時のように、聖なる力を受け入れる自信は無いわ。
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