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79話 聖女の役め

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 呪毒じゅどくけがれで苦しむ騎士たちの前で、王太子クリストフと聖女ブリュイは激しく言い争っていた。

「騎士たちは気の毒ですけど… 明日なら浄化をしてあげますわ、殿下! でも今日は疲れているから出来ません!」



 聖女ブリュイの信じられない言葉を聞き、ソレイユの世界は怒りで真っ赤にそまる。

「なんて… なんて人なの?!」
 今にも誰かが命を落としそうな時に… この状況で、疲れたから浄化できないですって?!

 カッ… と頭が熱くなり、いっきにソレイユの怒りが爆発する。


 パンッ!

 ソレイユは聖女の白いほほを思いっきりたたいた。

「自分の気分で人の命を軽んじるのは、やめて下さい!!」
 許せない! 絶対にこんな人、許せないわ!!

 繊細な白い絹の服に着替えた聖女の胸倉むなぐらをつかみ、ソレイユは怒鳴った。

「何っ… 何をするの?!」

「あなたが本当に聖女なら、いますぐ騎士様たちの浄化をして下さい!! 女神様から与えられた聖なる力は、あなた1人のモノではありません!」
 何もかも犠牲にして、聖なる力を分け与えろとは言わないわ! でも、誰にだって果たさなければいけない役目がある。

「なんて無礼なの?! 聖女の私をたたくなんて… こんなこと許されないわ!」

「今すぐ、騎士様たちの呪毒じゅどくを浄化して下さい!」
 王家に保護され、衣食住をされて王宮で暮らしているこの人は… けがれを浄化する役目を果たすことが、安心して暮らせるだと、本当にわからないの?! 自分は与えられて当然だと思っている、実家にいる義母と義妹にそっくり過ぎてき気がする!!

「私は疲れているの! 明日なら浄化してあげても良いと言っているでしょう?!」
 聖女はソレイユの手を振り払った。

「信じられない…」
 この人はやっぱり、わかっていないのだわ! だから役目を果たさず、自分の価値がどれだけ下がっても、平気でいられるのね。


「落ち着くんだソレイユ…」
 アンバレはソレイユの肩に手を置く。

「アンバレ様…」

「ソレイユ、ここは殿下にお任せしてカルムの手当てをしてやってくれ」
 散々、ブリュイの迷惑行為に苦しんで来たアンバレは、どれだけ理屈をいても納得しないと… ブリュイのことはあきらめていた。

「これではダメだわ!」
 私の手当てだけでは、カルムお兄様が死んでしまう!

「さぁ、ソレイユ… カルムのところへ行こう」
 アンバレはソレイユの手をつかむ。

「アンバレ様… 負傷した騎士様たちを、今からオルドナンスの神殿へお連れすることはできませんか?」
 生きている聖女様が頼りにならないなら… エクレラージュ様を頼るしかないわ!

「それは…」
 ソレイユが何をしようとしているのか読み取り、アンバレは眉間みけんに深いしわを寄せた。 

「聖女エクレラージュ様のお力を、お借りしましょう!」
 アンバレ様の呪毒じゅどくを浄化したように、エクレラージュ様の聖なる力をお借りすれば、私でも騎士様たちを助けられるはず。

「魔道具を持って、今からオルドナンスまで行き転移魔法陣を作れば… 明日の朝までには、騎士たちを連れて行けるだろう…」
 親友のカルムと、傷ついた騎士たちの命にはかえられないと、アンバレはソレイユの考えに反対はしなかった。


「伯爵夫人、やってくれるのか?」
 2人の会話を聞いていた王太子はブリュイの腕を放し… ソレイユに向き直りたずねた。

「はい、アンバレ様の時のように成功するかは、わかりませんが… それでも、やってみる価値はあるかと…」
 またエクレラージュ様の悲しい記憶に押しつぶされて、気を失うかもしれないけれど… でも、エクレラージュ様の力を受け入れると、何が起きるか今は知っているから覚悟はできている。

「実は… 伯爵に起きた奇跡について、オルドナンスの神官長から報告を受けて、私も『聖なるこころみ』をためしてみたいと、秘密裏ひみつりにエクレラージュのひつぎ王宮ここ霊廟れいびょうに移した」
 王宮の敷地内には歴代の国王と王族たちが眠る霊廟れいびょうがある。 

「殿下…!」
 アンバレがにらむと、王太子は頬をポリポリと指でかきながら苦笑した。 
 
「伯爵、とりあえず話しながら霊廟れいびょうへ行こう!」
 現役聖女のブリュイが頼りにならないことで、1番被害を受けているのは、婚約者の王太子クリストフである。
 自分の立場を守るため、他に打開策があるならと、王太子はわらにもすがる思いだった。



 聖女ブリュイをその場に放置し、伯爵夫妻と王太子一行は霊廟れいびょうへと急ぐ。 





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