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78話 聖女の事情 ブリュイside
しおりを挟む地方で暮らす裕福な貴族出身のブリュイは、両親に溺愛されて育つ。
魔力判定で聖なる力を宿していることが判明し、神殿で厳しい聖女修行を終え、聖女の称号を受けた後も、ブリュイは両親に溺愛され続けた。
『いいか、ブリュイ… 従順にまわりの意見を聞いてばかりいては、お前は便利な道具のように扱われてしまう! そうならないよう、つねにお前が主導権をにぎれるようにするんだぞ』
厳しい聖女修行に耐えられず、ブリュイは優しい両親に愚痴をこぼすたびにそう教えられ、相手から譲歩を引き出すことをおぼえた。
『お前は貴重な聖女なのだから… ただの道具ではなく、敬意をもって大切な宝物として扱われなければならない』
聖女ブリュイは『便利な道具扱いされないように』と、子供のころから言い聞かされた、娘を心配する両親の教えを… 自分の我がままを押し通し、ちやほやと甘やかされることだと間違えていた。
「私は本当に疲れていて、とても浄化するような力を発揮できません! 休ませてください!」
何が何でも私の意見を通さないと… 私はこの王国の貴重な宝物だと、思いださせないといけないわ!
倒壊した騎士団本部で、自分の意見を無視されて以来、ブリュイは不機嫌になり、ずっと拗ねていた。
王太子クリストフの態度も、普段ならなにごとも穏やかにブリュイを説得しようとするが、今はずっと怒りをあらわに怒鳴ってばかりいる。
「いいかげんにしろ、ブリュイ! 聖女の称号を取り消すぞ?!」
「いくら殿下が私を脅しても、気持ちは変わりません! 腕が痛いわ、手を放して下さい殿下!」
ブリュイは王太子と視線を合わせないよう、プイッ… と横を向く。
「王国のため、民のために死力を尽くして戦った騎士たちが、あんなに苦しんでいる姿がお前には見えないのか?!」
少し前までイフリートとの戦いで、命の危機を肌で感じていた王太子は感情的になっていた。
「騎士たちは気の毒ですけど… 明日なら浄化をしてあげますわ、殿下! でも今日は疲れているから出来ません!」
「ブリュイ! お前は本当に腐った人間なのだな? それでよく自分は聖女だと名乗れるな?!」
「殿下こそ… 暴言をはくのはやめて、私にもっと敬意を表して下さい」
パンッ!
「……っ?!」
ブリュイの頬で音が鳴り、急に熱くなる。
王太子と言い争うことに夢中になっていたブリュイの前に、いつの間にかペイサージュ伯爵夫人が立っていた。
ブリュイは伯爵夫人に頬をたたかれたのだ。
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