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65話 竜輝石の杖 アンバレside
しおりを挟む魔法騎士団本部にアンバレが到着すると… 王宮街の神殿からやって来た、神官長コンプレスに杖を手渡された。
カルムを負傷させた相手が、大型の魔獣コカトリスだと知り、アンバレはペイサージュ伯爵邸を出る前に、連絡用の幻鳥を飛ばし王太子の許可をもらい、王宮街神殿へと杖の貸し出し依頼をしていたのだ。
「心から感謝します、コンプレス殿! この杖があれば獰猛なコカトリスが相手でも、我々は有利に戦えるでしょう!」
水魔法の使い手の、フロアに持たせればきっと、大きな戦力になるはずだ!
アンバレはズシッ… と重い杖を両手で受け取り、感触を確かめるように、ギュッ… とにぎりしめた。
ソレイユとアンバレの婚姻の義で使われた、子供の頭部ほどある大きな魔石、青い『竜輝石』がはめ込まれた杖である。
「こうして竜輝石を間近で見るのは初めてですが… 大きな魔力を感じます、実に素晴らしい!」
やはり、魔石の中でも竜輝石は別格だ! これだけ魔力の含有量が多いと、竜輝石付きの杖を使えば、魔力切れを起こさず、大きな攻撃魔法を続けて使える!
鉱山で採掘される魔石は、他の鉱物と同じ原理で作られ、大地から生み出されるが… 竜輝石はドラゴンが何百年もかけて、体内で魔力をためて生成した魔石である。
現在は竜輝石を狙った人間たちの乱獲により、ドラゴンは絶滅しているため… 竜輝石はどこの国でも国宝として扱われるほど、貴重な魔石なのだ。
それほど素晴らしい竜輝石の杖を、アンバレは自分たちの婚姻の義で目にして以来… 祭祀でしか使わないのは、宝の持ち腐れだと残念に思っていた。
「王太子殿下の口添えまであっては、伯爵様にお貸ししないわけには行きませんから… ですが、間違っても杖に傷など付けないで下さいね?!」
神官長コンプレスは心配そうな顔で、アンバレに念押しした。
「そのようなことになった場合… あなたに内緒で、こっそり腕の良い職人に修復させてから、杖をお返ししますよ、神官長殿!」
それで騎士の命が救われるなら、安い出費だ!
ニヤリと笑い、ぬけぬけと言うアンバレ。
「そうして下さい伯爵様、私の心臓がいくつあっても足りませんからね」
コンプレスは苦笑した。
元々、200年前の国王が、幼い王子が患っていた魔法では治せない難病の完治を祈願し、神殿へ寄贈した国宝級の魔道具である。
竜輝石自体が、個人で所有することを許されないほど、貴重な魔石のため、たとえ神官長でも、貴重な杖を簡単に貸し借りして良いものでは無いのだ。
「おお…! 団長、ここにいらっしゃいましたか!!」
騎士たちが魔獣退治中に、魔法騎士団本部を守る留守居役の老騎士が、あわててアンバレの元へかけ寄って来た。
「どうした、あわてて?!」
「副団長から、たった今… 幻鳥が届きまして…!」
ハァッ… ハァッ… とあらい息を整えるひまさえ惜しみ、老騎士はアンバレに報告する。
「もしや… すでにコカトリスの息の根を、止めることにカルムは成功したのか?」
「はい! コカトリスは… ですが、それよりも団長、新手が!! イフリートです! イフリートがあらわれたそうです!!」
「何だって?! もっと詳しく話せ!」
自分の耳を疑い、アンバレはもう一度、老騎士に聞き返した。
「副団長たちと戦っていたコカトリスの魔力を狙って… イフリートがあらわれたらしいと… 送られて来た伝文はそこまでです! 後はわかりません!!」
顔を強張らせて、老騎士はアンバレの質問に答えた。
「……っ」
イフリートだと?! まさかここでも、その名を聞くことになるとは!
オルドナンスの神殿で、聖女の記憶に囚われ涙を流したソレイユの姿が、アンバレの脳裏をよぎる。
「ああ、何てこと…っ! それでは騎士たちが…」
言葉を失ったアンバレの隣で… コンプレスがつぶやいた。
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