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30話 婚約式4 リベルテside
しおりを挟む魔法騎士団の鍛錬場で同僚の騎士たちと、剣技を競い手合わせをしていると… リベルテは元団長が婚約するという話を聞いた。
『副団長が自分の幼馴染を、団長に紹介したらしいぞ? お前、弟なのに知らなかったのか?』
魔法騎士団の騎士たちは、いまだにケガで辞めたペイサージュ伯爵を団長と呼び… 後任の団長となるはずの、リベルテの兄カルムを副団長と呼んでいる。
『副団長の幼馴染?!』
副団長と呼ばれる兄カルムの幼馴染と言えばソレイユだと、すぐにリベルテは気がついた。
『ああ… 急遽、決まったらしくてベテラン騎士たちしか、婚約式には呼ばれないらしい』
『あの堅物の伯爵が婚約だって?』
聖女の求愛をこばみ浄化を受けられず、騎士団を辞めることになったうえに、婚約者の公爵令嬢にすてられた惨めな伯爵と… リベルテの元婚約者ソレイユとの縁組みである。
意外な組み合わせに思わず笑い、リベルテは興味が湧き、婚約式に自分も顔を出すことにした。
『それに、ずっと田舎で僕の帰りを待っていたソレイユは、きっと僕が会いに行けば喜ぶはずだから… 顔を出しても文句は言われないだろう?』
「君とリベルテが婚約していただって?! そんな話を聞いては、嫉妬してしまいそうだよソレイユ?!」
「ふふふっ… お母様たちのちょっとした、戯れですよ?! 冗談はお止めくださいな… アンバレ様!」
パシッ! と小気味よい音を立てて扇を閉じると… 厚い胸に手を置き、ソレイユは背伸びをして自分からアンバレの頬にキスをした。
婚約式に参加する招待客たちは、突然乱入したリベルテのせいで、不愉快そうに眉をひそめていたが… 主役2人の機転をきかせたやり取りを見て、和やかな笑みが戻る。
「……っ!」
うそだろう?! 本当にあれがソレイユなのか?! 僕の顔を見ても、ソレイユは喜ぶどころか、何の興味も示さないなんて…?! つい最近まで、僕に手紙を送って来ていたのに…? クソッ… こんなことなら手紙の中身を、読んでおけばよかった! もしかして別れの手紙も入っていたのでは?!
まるで初めて会ったばかりの他人のように、チラリッ… とリベルテを見ただけで… ソレイユの視線は、ずっと婚約者のアンバレに向いていた。
綺麗さっぱりソレイユの中から、元婚約者だった自分への愛情が消えていることに、リベルテにもわかる。
「クソッ…! 僕をバカにして…」
何年も会わなかったソレイユが、あんなに綺麗になっているなんて…?! ソレイユを土臭い田舎娘とバカにしていた、リュンヌとジャルダン子爵夫人の話を、信じるんじゃなかった!
小さな声でリベルテは罵る。
当然のことだが、成長したのはリベルテだけではない。
リベルテを田舎から見送った当時のソレイユは、まだ学園生で、成人前の子どもだった。
むしろ成長した大きさは… 心も容姿もソレイユの方が、はるかにリベルテより大きいのだ。
王都でも人気のあるドレステーラー製の洗練された、グリーンのドレスを優雅に着こなすソレイユの姿には… 大人の女性の魅力があった。
そしてその隣には、一瞬でも離したくないと、伯爵がピタリッ… とくっ付き寄りそっている。
「……っ」
リベルテは自分を待ち続ける、田舎娘だと思っていたソレイユが… 王都で暮らす淑女たちのように着飾ると、滅多にいない美女へと変貌していたことを知り、なぜか騙された気分になった。
仲睦まじい2人の姿を目にして、リベルテはようやく自分が、その場にいるだけで、恥をかいているのだと気付く。
「クソッ…!」
あわててリベルテは、ペイサージュ伯爵邸を去った。
「あの人… 何をしにここに来たのかしら?」
ソレイユが首を捻っていると…
「本当は君に未練があったのかも知れないな…」
アンバレはひそひそと、ソレイユにだけ聞こえるよう耳元で囁く。
「ふふふっ… まさか!」
ソレイユはからからと笑う。
出会ってから3日しかたっていないのに… 2人はずっと前から、婚約していたかのように、気が合った。
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