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26話 熱
しおりを挟む伯爵の部屋の前で執事のジェランの口から、アンバレが傷を負って以来、聖女や元婚約者から、どんなひどい仕打ちをされたのかをソレイユは聞かされた。
「……」
そんな残酷なことをされたのなら… 伯爵様がいきなり現れた他人の私を、受け入れられなくても、当然だわ?
『何としてもソレイユお嬢様には、旦那様の奥様になって欲しいのです!』
…と言って、廊下側からペタリッ… と扉に耳を付けて、有能な老執事は室内のようすをうかがった。
「どうやら旦那様はカルム卿ともめているようです… このまま、お2人のお話をお邪魔しないよう、静かに入りましょう」
ジェランはノックはしないで、扉を開く。
「……っ?!」
黙って伯爵様の部屋に入るの?! そんなことして、良いのかしら?
淑女のソレイユは一瞬、躊躇したが… ジェランが扉を開いたままニコニコッ… とほほ笑んでいるので、仕方なくこっそりと部屋へ入った。
アンバレはちょうど扉に背を向けて、カルムと話をしていた。
カルムはすぐに、ソレイユとジェランの存在に気づいたが… ソレイユに背を向けていたアンバレだけが、気づかずに話し続ける。
「確かにソレイユ嬢は、美人で可愛い! 私好みで勇敢だし、とても慈愛に満ちた素晴らしい女性だ! 彼女の姿を初めて見た時など、滅多にいない美女だから、女神ルージュが彼女の姿であらわれたと言われても、疑わなかっただろう!! だが、ソレとコレとは別だ!!」
「……っ」
伯爵様はカルムお兄様と、私の話をしていたの?! 私が美人で可愛い? うそでしょう? 伯爵様は高潔な紳士だから… 私のような田舎娘にも、優しい言葉を使ってくれるだけで…?!
自分の口を手で隠し、ソレイユは息をのんだ。
「何が別なんだよ?! あんた今、ソレイユにべた惚れだって、自分で言ったじゃないか?!」
何が問題なのかわからないと… カルムは面倒くさそうに、眉間にしわをよせる。
話をする2人をソレイユが見ているとカルムと目が合い… カルムはソレイユにだけ分かるよう、パチッ…! とウインクをした。
「?!」
カルムお兄様?
イライラと少し興奮気味のアンバレは、ソレイユに気づかず話し続けた。
「確かにソレイユ嬢に一目惚れしたと、言っても良いぐらいだ!! だが私の顔の醜い傷痕は、傷の奥まで染み込んだ呪毒のせいで、毎晩ひどい悪さをする… そんな私の隣に、彼女がいたら気の毒だろう?」
「……っ?!」
自分の耳が信じられない?! 伯爵様が、私に一目惚れ?! 本当に私を良いと言ってくれているの?! 本当に?! 社交辞令ではなくて?! リュンヌのように可憐な美しさなんて、少しもない私のことを?!
恥ずかしくて顔が熱かったが… それ以上に、ソレイユの目が熱くなった。
ただ、ただ… 嬉しくて… 嬉しくて… 熱くなった目から涙があふれ出した。
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