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29話 告白4 アルベールside

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 婚約式の前日ギリギリまで、アルベールはエヴァに期待を持って話し合おうと努力したが…… 侍女じじょの話を聞き、愕然がくぜんとした。


『申しわけありませんアルベール様… エヴァ様は学園から帰宅されてすぐに、ご友人がむかえに来られて、婚約式で使うリボンを買いに行かれました』
 2人が密かに付き合っていることを知っていた、口がかたいエヴァの侍女じじょは、気まずそうにアルベールに伝えた。

『エヴァはどんな様子だった?』
 少しは落ち込んでいただろうか? …とアルベールが侍女にたずねると… 侍女は申し訳なさそうに率直そっちょくに答えた。

『ピンクのドレスに合うリボンが、無事に見つかるか… そのことに気をとられている、ごようすでした』

『そうか… エヴァは僕の婚約式で着るドレスがそんなに大切なんだね?』
 僕との将来の話よりも、そんなにドレスが大切なんだ?

『エヴァ様はデビュー前なので、今まで豪華ごうかなドレスを着たことがありませんでしたから… 楽しみにしておられるようです』 

 恋人と向き合い、契約結婚や自分たちの将来について話し合うことよりも… 婚約式を楽しみにしているようなエヴァの行動が、アルベールをより深く傷つけた。

 アルベールはそんなエヴァの、計算高い小悪魔のような魅力も含めて好きだった。
 だが、『僕の愛情をたてに、一生エヴァにふりまわされ続けるのか?!』 …と思ったら、エヴァの魅力だと思っていたモノがアルベールの心に暗い影を落とした。




 婚約式がぶじに終わり… 日常にもどったアルベールとリアンナは、学園のはしにあるガセボでいつも通り2人で昼食をとっていた。

 次の予定は来週の卒業試験。
 その次は卒業パーティー、そして成人の儀式に… アルベールの公爵位継承けいしょう、そして結婚と… 数ヶ月のあいだで大きなイベントが次々とやってくる。 

 その大きなイベントを前に、エヴァのことを気にして落ち込んでいるようすのリアンナに… アルベールはこれからのためにも、腹をわって本心で話し合う必要があると感じた。

「リア… 僕ではエヴァを幸せにはできないと、ようやく気づいたんだ」
 このままエヴァにふりまわされ続けたら、僕はそのうちエヴァを心から憎んでしまいそうだったから。
 今もエヴァを責めたくて、僕の胸の奥がヂクヂクと痛むのに、結婚なんてできないよ!

 求婚を受け入れてくれたリアンナに、エヴァへの気持ちをアルベールはすなおに告白した。

「アル……」
 石造いしづくりの長いすに2人で座り、リアンナは隣からアルベールを心配そうに見あげる。

「それでね… 叔父上と話し合って、エヴァを社交デビューさせる予定なんだ」

「エヴァ様を社交デビュー?」

「以前はエヴァにもっと学園で教養を身につけさせてから、デビューさせたほうが良いと考えていたけれど… 僕と君の婚約が正式に決まった今は、未婚の彼女が公爵邸で僕と一緒に暮らすのは、醜聞しゅうぶんの元になりかねないから」
 今までは僕もエヴァも未成年の子供だったから、一緒に暮らしていてもあまり問題ではなかったけれど…
 婚約式で僕とエヴァは結婚できる年齢になったことを、正式に貴族階級の人たちにお披露目ひろめしたため… 2人の保護者の叔父上が決断した。 

「ああ、確かに… それでどうするの?」

「叔父上の知人夫妻にエヴァをあずけて、デビューを手伝ってもらう予定だよ」

 その夫妻は娘を3人デビューさせて嫁がせた実績があり… 公爵家の男2人よりも、エヴァの結婚相手を上手に見つけ出せそうだからだ。

「なるほど、名案ね! なれた女性に助けてもらえる方がエヴァ様も心強いでしょうし」

「うん…」
 実はエヴァを社交デビューさせる理由は他にもある。
 リアへの嫉妬でこれ以上、エヴァに変な騒ぎをおこさせないよう、大好きな社交活動をさせて、リアから気をそらそうという目的もあるんだ。


 実際……
 婚約式でリアンナに嫉妬をして癇癪かんしゃくをおこしていたエヴァは、社交デビューさせると公爵に言い渡されたとたん、コロリッ… と機嫌をなおした。






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