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31話 妻と夫2

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 私がアンヌ様との関係を問い詰めると、ベルナール様は厳しい表情で私をジッ… と見つめる。 私はベルナール様を『本気で怒らせてしまった』と思った。

 ベルナール様が持つ大らかで柔和にゅうわな雰囲気が、『絶対に意志を曲げないぞ』という強固きょうこな雰囲気へとガラリと変わったのだ。

「ベルナール様…」
 ああ、これが答えなのね? そうね。 結婚する前から、ベルナール様の邪魔をしてはいけないと、理解して覚悟していたはずなのに。
 ベルナール様に可愛がられて、心が揺らぎ… その覚悟をくつがえしたのは私自身だわ。

 拒絶されて傷つき熱くなっていた頭から、いっきに血の気が引く思いがした。

「いいか、レオニー。 私がアンヌと一緒にいなければ、いけないのは… 彼女を愛しているからではないよ」
 ベルナール様の態度は厳しいモノだったが、言葉を慎重に選んで私に話している様子だった。

「…でも、アンヌ様は恋人なのでしょう?」
「違う! 彼女は単なる、だ。 私を信じられないのはわかるが、君を裏切ったことはない」

「情報源…? ベルナール様はいったい、何の話をしているの?」
「誓うよ、レオニー… 近いうちに私はアンヌから解放される。 だが、それまでは秘密を保たれなければいけないんだ」

 急に話のピントがずれて、ベルナール様が懇願こんがんする。

「あの、ベルナール様… 話がよくわからないのですが?」
 アンヌ様から解放? ベルナール様は自分から望んで、アンヌ様と一緒にいるわけではないの?! んんん? 秘密???!

「少しだけ待っていて欲しい。 あと一歩で…」
 ベルナール様の言葉をさえぎるように… 突然、甘くかん高い声が背後から響く。


「まぁ、ベルナール!! 私を置き去りにして、こんなところに隠れていたの?!」


 大切な話の途中で、不作法に割って入ってきた人物の顔を見て、私はギョッ… として身体を強張こわばらせた。

「……っ?!」 
 アンヌ様?

 アンヌはねた様子で唇をとがらせ、私たちの方へゆっくりと歩いて来る。


忌々いまいましい、女狐めぎつねめっ…!」

 ベルナール様は険悪な態度で、チッ…! と舌を鳴らし、小さくののしると……
 おろおろと動揺する私に素早くキスをして、耳元でささやいた。


「愛しているよ」
「…っ?!」

 自分の広い背中でアンヌ様から私を隠すように、ベルナール様は私の前に立つ。 
 そして、『君だけだよ』 …と伝えられているみたいに、私の手はベルナール様にギュッ… とにぎられる。
 


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